海兵ルウタとREDの世界線との邂逅5
ウタは何が起こっているのか分からなかった。
ルフィを生み出した記憶がないのに2人のルフィが自分を守るために戦っている。
それは嬉しい反面、彼が自分を越えてしまったという悲しさがあった。
「“JET迫撃砲<モルタル>”!!」
「「「ぎゃああああああ!!」」」」
海兵の格好をしたルフィが技名を叫ぶと3人の海賊が悲鳴をあげて宙を舞った。
3人共、懸賞金が億越えの海賊だったが、相手が悪すぎた。
「ゴムゴムの~~“JET銃乱打“<ガトリング>””!!」
「““熱連掌<ヒートヅテ>””!!」
さすがに海賊ルフィとやりあっているオーブンはすぐにはぶっ飛ばせなかった。
四皇の海賊団からも化け物と評される四皇の四男は高速の殴り合いに対応できる。
観客たちは殴り合いが早過ぎて何が起こっているのか理解できなかった。
「ハァハァ…やっぱ強いな!」
「高熱の拳だぞ!?なんで殴り続けられるんだ!!」
「ゴムだから!」
「んなわけねぇだろうが!!」
高熱のせいでルフィの拳を痛めていたがオーブンもただじゃ済まなかった。
両腕がボロボロになっており虚勢を張るのが精一杯。
更に海賊ルフィほどではないが、それに匹敵する海兵ルフィも居る。
援軍を要請したいが、要のブリュレが戦闘不能になっており孤軍孤立していた。
「はい!そこまで!ルフィと…ルフィ?守ってくれてありがとう!」
「ん?」
「あ?」
「でも喧嘩はもうおしまい!」
ウタが両手を叩いて戦闘の仲介を始めた。
海兵ルフィと海賊ルフィは、とりあえずウタを守るために彼女の前に待機した。
オーブンは殺し合いを“喧嘩”と称されて眉をひそめてご立腹である。
「みんな、私のファンなんでしょ!一緒にライブを楽しんで行こうよ!!」
「へ、へへへ…。俺たち海賊だぞ。欲しい…も、物は奪うだけだ」
能天気にライブを楽しめと言うウタに対してボロボロのエボシ船長は馬鹿にしていた。
あまりにも海賊という存在を甘く見ている歌姫に刃を突き立てようとした。
「じゃあ、海賊辞めちゃおう!私が許してあげるからみんな仲良くしようよ!」
「舐めやがって」
「歌より大事なもんがあるんだよ!海賊は奪うだけだ!!」
「この甘ちゃんが!!クラゲ海賊団の真の恐ろしさを教えてやるか!!」
さすがに億越えの海賊はタフのようで戦線復帰していた。
海兵ルフィもあまりの頑丈さに「クロコダイルより丈夫だな」と他人事に思えた。
一方、観客たちはウタの純粋な気持ちを踏み躙る海賊に悲鳴、非難の声があがる。
「……残念、じゃあ“歌”にしてあげる!」
海賊ルフィが4人をぶっ飛ばそうとすると海兵ルフィに止められた。
「なんで?」と言う暇もなくウタは歌を歌い始めた。
〈私は最強〉という明るい歌はパワフルで元気づけるものだ。
その明るさに高揚するようにハイテンションになったウタは全身が光が包まれた。
「えっ?」
ライブ用のミニスカワンピースが金色の鎧に変化していく。
4人は殴ったり斬り掛かったりしたが、全ての攻撃が弾き返されてしまった
ウタが掌から無数の音符を出して槍に形成して元気そうに構えた!!
「クソ!!」
オーブンが焼き払って牽制しようとしたが遅かった。
槍の穂先から飛び出した5本の線が4人の身体を包み込んで毛玉のようにしてしまった。
『“五線譜作曲<ノーテンヘフトゥ・コンポジション>”』と呼ばれる技。
これは、海兵ルフィがウタを執拗にからかうと使用してくる拘束技だった。
「久しぶりに見たな。外から見ると確かに楽譜だ」
「知ってるのか?」
「お仕置きする時にウタが使う技だぞ」
「なーるほど!じゃあ、海賊はみんなお仕置きされたのか」
倒れていた海賊も毛玉にして空中に浮かんでいき破裂した。
そしたら五線譜にウタのライブを妨害した海賊が拘束されていた。
海兵ルフィの呟きにウタが何をしたか分かった海賊ルフィは笑ってそれを見た。
「はい終わり!!みんな!悪い海賊をやっつけたよ!!」
「「「「UTA!UTA!UTA!UTA!」」」」
「そうだよ!!ウタはシャンクスと違うんだ!!みんなの希望なんだ!!」
「ウタが無事で良かった…」
槍を高く揚げて勝利を宣言する歌姫に観客たちはUTAのコールの声援を送る。
羊飼いの少年もウタの雄姿を見て喜んで叫んだ。
ウタの【新時代計画】の発端となった少女ロミィも胸を撫で下ろして安心した。
『これで誤魔化せたね…あとは食べたネズキノコの効果が出るまで歌うだけ』
ウタも海賊の娘と知られて焦っていたが、杞憂で済んでひとまず安堵した。
ライブ配信を見ている観客たちもひとまず【戦える歌姫】として評価してくれただろう。
現実世界のウタはネズキノコを回収して食したが、効果はまだ実感できていない。
観客たちを争いの無い世界に連れて行くのも大切だが彼女はやるべき事がある。
「ルフィ、訊きたい事があるの!!」
「「どうした?」」
「なんで2人居るの?」
「「おれも分かんねぇ!」」
「なんでよ!?」
キノコを奪った海兵ルフィとちょっと大人に見えるルフィが居る。
ウタとしても自分の能力でこうなったわけではないので本気で困惑していた。
疑問を投げかければ彼らは、一心同体みたいに同じセリフを同時に喋ってのけた。
年齢差があるのか海兵ルフィが少し幼く見える以外は見た目が同じだった。
「うーんまあいいよ!とりあえず観客席に戻ってくれない?」
「「分かった!」」
2人のルフィが客席に戻っていく姿を見送ったウタは重要なお知らせを告げる!
「みんな!!ここで嬉しいお知らせがあります!」
「いつもの映像電伝虫を使った配信ライブはいつも眠くなってすぐに終わるけど…」
「今回のライブは、エンドレス!永遠に歌っちゃうよ!!」
ウタは『エンドレスライブ』の開催を映像電伝虫に伝えた。
電伝虫も「きゅ?」と声を出してしまうほど衝撃的だったようだ。
この場に居る観客だけではなくライブ配信を見ている観客も楽しませるようだ。
これにはライブ配信を見ている観客も喜んだ。
「うおおおおおおお!ウタのライブが聴き放題だぞ!!」
「有り金をはたいてここに来た甲斐があったな!」
「配信ライブと違った音響がすごいもんね」
「今度はどんな曲を披露してくれるんだろう!!」
「ウタはすごいんだ!大海賊時代で唯一の希望なんだ!!」
それは、ライブが中断してしまって動揺している観客たちを熱狂させた!
配信ライブではエレジアを紹介しつつ踊ったり歌ったりしていたウタ。
しかし、そのライブはすぐに終わるので長時間ライブを楽しむことができなかった。
今回はいくらでも歌が聴きたい放題となれば、興奮しないわけがなかった。
「マジかよ!プリンセス・ウタ!ずっと歌い続ける気かよ~~!」
「やっーた!!」
ウソップもチョッパーもその知らせを聞いて純粋に喜んだ。
「おい酒は?」
「もうねぇよ」
「ああん!?なんでねぇんだよクソコック!」
「ライブ前に酒瓶6本も空ければ無くなるに決まってんだろ!!」
ゾロも歌を聴きながら酒盛りをしようとすると酒が切れていた。
苦情をコックに告げると当然の返答過ぎてさすがに彼も黙るしかなかった。
「ところでウタって能力者なの?」
「分からない…ルフィならなんか知ってると思うけど…」
「そういや2人居るんだよな…どういうこった」
ウタの能力を見てロビンは何の能力か知りたがっていた。
ナミも彼女の事が気になったが、どちらかというと海兵ルフィが気になっている。
フランキーもルフィが海兵になっているのに興味がある。
「「「「UTA!UTA!UTA!UTA!」」」」
観客たちが声を揃えて彼女の名前を何度も声援を送る。
「それと世界政府、海軍、海賊!このライブの邪魔をしないで!!」
「みんな、楽しい事、嬉しい事!幸せを求めているの!」
「一緒に盛り上がっているライブを邪魔するなら覚悟してもらうよ!」
世界一の歌姫であるウタは、声援を送る観客を見て腹を括った。
不安がったり、暴力に怯える観衆が辛い現実から逃れる為に!!
彼女は、全身全霊で彼らを平和な“新時代”に招待させようとした。
『海賊も海軍もみんな仲良くできる世界を創ってみせるの!!』
ウタは優し過ぎた。
横暴で自分勝手な海賊ですら、略奪や暴力を辞めれば笑って許すほど幼かった。
エレジアという島で育て親以外の人との接点が10年ほどなかった彼女は井の中の蛙だ。
「私はウタ!新時代を作る女!みんなを歌で幸せにするの!!」
「「「「UTA!UTA!UTA!UTA!」」」」
「次の曲、行ってみよ!!」
彼女は次の曲を歌い始めた。
彼女は歌に縋って生きるしかなかった。
その歌でみんなを幸せにできるなら彼女は喜んで救世主になった。
それが、観客だけではなく現世で苦しむ自分を救う唯一の手段だと信じているから!
「想像以上に厄介な能力だね!マンマ、マンマ!」
「さすがに甘く見過ぎたかペロリン!」
力なき者たちが蹂躙される大海賊時代。
山ほどいる海賊の中でも頂点の1角とされる【四皇】ビッグ・マム。
そのビッグマムこと、シャーロット・リンリンは忌々しそうにライブ配信を見ていた。
長男であるペロスペローも飴細工を舐めながら次の作戦を練っている。
「ところで!“麦わら”が2人居るってどういう案件だい!?」
「ママ、おそらくウタウタの能力で作り出した分身だと思うぞ」
以前、麦わらの一味はビッグ・マムが治めるホールケーキアイランドで大暴れした。
好き勝手暴れ回った挙句、逃走に成功して彼女の看板とプライドに泥を塗った。
その一味の船長が分裂しているのを目撃してさすがにビッグ・マムも戸惑った。
長男の言葉も一理あるが、彼女は何か別の事情があると考えた。
「だが、どうするんだ!?ブリュレが無力化されて援軍が送れんぞ」
「海軍本部も軍艦30隻をエレジアに向かわせたそうだ。時間はないぞ」
ビッグ・マムのご子息、ご息女は集めて来た情報を元に話し合いを始めた。
ビッグ・マム海賊団は、ウタウタの実の能力者に目を付けている。
ウタの影響力が四皇すら看過できない存在となっていたのに気に食わなかった。
たったそれだけなのだが、能力は把握してるのでライブ配信は無音になっている。
「俺がエレジアに向かおう」
「カタクリ兄さん!?」
「カタクリお兄様!?」
1人の大男が四皇の母親に臆す事も無くエレジアに向かう事を淡々と告げた。
ビッグ・マムの次男、シャーロット・カタクリはライブ配信の映像を見る。
そこには五線譜に貼り付けにされた妹のブリュレの姿が映っていた。
「妹を奪われて黙って見てはいられない!」
「でもよ!新世界からエレジアまで距離があり過ぎるぞ!」
「その点は安心してくれ。俺1人だけならすぐに向える手段を調達した」
「さすがカタクリお兄様!」
皆の期待を背負って【完璧な男】を演じているカタクリ。
彼は純粋に家族を愛しており、妹のブリュレを何としても救出するつもりだ。
三男のダイフクの指摘にも余裕で返答をした次男に妹たちが目を輝かせている。
「そうかい。なら行っておいで!ビッグ・マムの名を世に知らしめていけよ」
「分かっている。では行ってくる」
「頑張ってねカタクリお兄ちゃん!」
「カタクリ兄さん!あいつらをぎゃふんと言わせてやってくれ!」
ビッグ・マムも彼の覚悟を見て単独で送り出す事にした。
ウタウタの能力者の前では数は文字通り飾りでしかないのだ。
家族からの声援を背にカタクリは外へと歩き出した。
「みんなー!ライブはまだ続くけど疲れてない?」
自分が狙われているのを知らないウタは音符に乗って飛び回っていた。
エンドレスライブを開催する言葉通り、何曲か歌っても彼女は疲れは見せない。
だが、観客もいつまでもライブを聞いていられるとは彼女も思ってなかった。
「食べ物や楽しい物を作っちゃうよ!これでもっとライブを楽しもうね」
ウタが両手を広げると大量のの音符が飛び出していく。
その音符は、お菓子や料理、ぬいぐるみや絵本に変化して観客の手元に降りて来た。
「ねえウタ、これもらっていいの!?」
「いいよ!みんなの幸せが私の喜びだからね!」
「ありがとうウタ!大事にするよ!」
「ずっと一緒にいてあげてね!」
少女ロミィが嬉しそうにぬいぐるみを受け取ってウタに感謝した。
お菓子を受け取った老人は、嬉しさのあまり泣いてしまうほど優しい世界。
ライブ会場に居る観客たちは、ライブに参加できた恩恵を思う存分味わえた。
「ウタに頼んだら酒が出て来たぞ」
「…ってことは、財宝とかも出せるのかしら!」
「やめておけよ…プリンセス・ウタを困らせるのは…」
酒をもらってご満悦になったゾロは、さきほどの曲の一節を鼻歌で奏でていた。
ウタからのプレゼントを見たナミが悪巧みするがウソップに牽制された。
少なくともお菓子は本物で齧ればしっかりと香りと食感を楽しめた。
「すげぇ能力だな…なんでもありか?」
「そうね。本来なら能力にも限界があるはずなのだけど…」
フランキーとロビンは、ウタの能力に興味を持った。
音符を出している時点で音楽関係の能力であることは明白だ。
ただ、どうしてそこからお菓子などが作れるのか疑問だった。
「私と一緒ならどんな夢も叶う!新時代最高!!」
ウタが望む物を作れるウタワールド。
それは彼女が創造力と空想力に優れているからだ。
だが、彼女は9歳で精神の成長が止まっている為、限界があった。
「ヨホホホ、彼女の純粋さがプレゼントに現れてますね」
「ん?そうなのか?」
「お菓子やおもちゃ、ジュースに絵本。お子さんにプレゼントするには最適です」
海賊ルフィの疑問におもちゃを見せて丁寧に説明するブルック。
ギミックなどなく簡潔な構造をしているそれは、彼女の精神が良く表れている。
怪我をしないように細心の注意を払っていると説明する彼をルフィは無視して肉を齧った。
「なんかウタらしくないんだよな…」
一方、海兵ルフィは観客をウタワールドに入れてライブを続行するのに違和感を抱いた。
演出で連れて行く事があっても、ウタは必ず現実世界に戻してライブを終わらせるからだ。
彼らの仲では、ウタワールドは一時的な避難所程度しか思われていない。
「ねえ、みんなライブを楽しんでる?」
「はい、プリンセス・ウタ!しっかりと楽しまさせてもらってます!」
歌姫に直接話しかけられたウソップは直立不動で無難な返答をした。
「食材も珍しい物だらけだ。コックとして満足だよ」
「おれも!おれも!たくさん甘い物を食べられて嬉しいぞ!」
「良かった。ルフィの友達に喜んでもらって」
サンジはウタから出された食材を使って調理を楽しんだ。
チョッパーはお菓子を食べ歩きして大満足のようだ。
ルフィの友達に満足してもらってウタも嬉しかった。
「ところでルフィ?」
「ん?」
「なんか言う事ない?」
「キノコ盗んですみませんでした」
ウタは海兵ルフィの前に現れて何かの発言を求めた。
さすがに罪悪感があったルフィは素直に謝罪した。
「そっか」
「ごめんな!」
「許さないよ!少しだけ頭を冷やしなよ!」
「だよなああああ!」
ウタが左手の指を鳴らすと紐が生えてきて海兵ルフィを包み込んだ。
彼女の能力を知っている彼は、抵抗せずにあっさりと五線譜に貼り付けにされた。
ただし、ライブを妨害した海賊と違って五線譜に座らせるようになっている。
「すげぇなウタ、見ないうちにかなり強くなったな!」
「うん、島に来た海賊くらいなら撃退できるほど強いよ!」
もう1人のルフィの言葉を聞いて胸を張って堂々としている21歳の歌姫。
その若さゆえに可愛らしさと美しさが両立したまさに世界一の歌姫である。
「ねえルフィ、久しぶりに勝負しない?」
「勝負?お前がおれに勝てるわけないだろう」
久しぶりにウタがルフィに勝負を挑むとあっさりと拒絶された。
自分の見ないうちに成長したんだな…と思うと同時に彼女は食って掛かった。
「はあ?183連勝中の私にあんたが勝てるわけないじゃない!」
「違う!おれが183連勝したんだ」
「じゃあ、勝負する?」
「望むところだ!!」
ウタが挑発するとルフィも負けじと反撃してきた。
これを見て彼女は、『昔のルフィと変わんないな』と内心で喜んだ。
「認識の差が激し過ぎるわね」
「2人の仲を見ると勝負を競うほどの関係だったみたいじゃな」
2人の会話を聞いて冷静に告げるロビンにジンベエがフォローを入れる。
一味は彼らの交流を一切知らないが、少なくとも友達以上の関係だと分かった。
そのせいか、いつもなら嫉妬するサンジすら彼らの関係を楽しそうに見ていた。
ゾロに至っては『幼馴染か』と2人の勝負を邪魔しそうな奴を見張っていた。
「いいな…勝負。最近やってないな」
立場や部下のせいでウタと勝負対決ができない海兵ルフィは羨ましそうな視線を送った。
ウタの寝室で少しだけでも会話すれば「おめでた」や「結婚」と部下から言われる。
おかげさまで、子守唄でウタワールドに連れてもらう以外に遊べなかった。
故に彼らにとってのウタワールドは誰にも妨害されない避難地となっている。
「まあいいか!久しぶりに逢ったみたいだし」
海兵になったルフィの傍にはウタがずっと一緒にいてくれた。
“海賊王と“夢の果て”を諦めて彼女と一緒に居る事にしたのは後悔していない。
「お前ら頑張れよ!おれも応援してるぞ」
「だってさ!」
「おう!おれが勝つところを見とけよ!」
もう1人の自分は海賊なので、きっと夢の為にウタと一緒に居るのを諦めた。
ならば、2人の関係を邪魔するべきではないと大人の対応をした。
海兵ルフィの応援を受けてルフィとウタは184回目の勝負を始めようとしていた。
海兵ルウタとREDの世界線との邂逅6に続く