海兵と歌姫と歌う骸骨 part11 前編
このssにはキャラ崩壊・設定捏造が多分に含まれます
ご注意ください
part11:To Be Continued
九蛇城、ハンコック自室のすぐそばにあるバルコニーにて
のぼせてダウンしたウタとハンコックが、バスローブを着せられて長椅子に寝ていた。
近くには、二人を浴場から救出したマリーゴールドが、大きな団扇で扇いでいる。
「全く…そなたのせいでエライ目にあってしもうたわ。」
「そりゃこっちのセリフだよ…。お風呂でリフレッシュするはずだったのに。」
「ふん。元はと言えば、そなたのせいじゃ。この色情狂め。」
「なにおう、それならあんたは露出狂だ。」
ダウンしてても、まだ女の闘いは続いていた。
そんな二人の様子を、微笑みの表情でマリーは見守っていた。
(良かったですね、姉様…)
…ウタは、自分達姉妹の秘密を受け入れてくれたのだ。そのことが何よりも嬉しかった。
特に姉は、口ではこう言ってはいるが、姉にとってウタはルフィとは違う形で大切な存在になりつつあった。
自分達妹と同胞たちを守るため、ハンコックは常に気を張っていた。
そんな姉にとって、ウタは唯一無二の"友"といえる存在になってくれたのだ。
…できることならば、二人揃って、いつまでもここにいてほしかった。
「…ねえ、ウタ。」
このままアマゾン・リリーに定住してくれないか、そうマリーは続けようとしたが。
「ん…なんだろ、この泣き声。」
「え?声って…。」
「なんのことじゃ?だれも泣いてなどおらぬぞ。」
「いや、確かに聞こえる…あっちの方からだ。」
そう言って、ウタはある方向を指差す。ハンコックとマリーが目を凝らして見て見ると…
「なんじゃ、あの人だかりは。」
「なにかあったのかしら…。」
遠くの方で人だかりができている。なにやらざわついてるようだ。
さらに…
ウオオォォォォン ウオオォォォォン
「…?なにか聞こえてこぬか。」
「あ、ほんとだ。ウタ、あなたが聞きとったのってこれ?」
「うん。」
ウオオォォォォン ウオオォォォォン
「なに!?なんなの、この声!すっごく不吉!」
「なんというか…夜の墓場の地の底から、亡者が叫んでいるかのような声じゃの。」
「いや何でそんな具体的なの…。」
泣き声はどんどん近づいてくる。
やがて人だかりが両端に別れ、見えてきたのは…アフロヘアー。
「…ブルック?」
「なんじゃ、泣き声の主は骸骨か。」
「でも…ただ事じゃなさそうよ、この声。」
そうこう言ってるうちに、ブルックたちがウタ達のほうに歩み寄ってくる。
その中に見慣れない人物を見つけたウタは
「………は?」
一瞬思考が停止した。
「姉さま、あれって…。」
「なんじゃ、あやつ来よったのか…ウタ!?」
我を取り戻したウタがルフィに向かって駆けだす。
履きなれない、借り物の靴とバスローブで動きづらいながらも、なんとか彼女はルフィの下にたどり着いた。
「ルフィ!!」
「おう、ウタ。着替え持ってきたぞ!」
「そ、そいつ!そいつぅっ!!」
あっけらかんとしたルフィと対照的に、慌てふためくウタ。
そのまま彼女は見慣れぬ人物…レイリーを指差した。
「そいつ!シルバーズ・レイリー!!なんでそいつと一緒にいるの!??」
「なんだウタ。お前、おっさんのこと知ってんのか「アホかぁっっ!!」ぶへぇっ!?」
この期に及んで呑気してる恋人に向かってアッパーカットを放つウタ。
そのままルフィを押し倒し、馬乗りになって襟元を掴んでガクガクと揺さぶりだす。
「なんで知らないの!?海兵見習い時代の講習でなにやってたぁっ!!」
「寝てた。」
「ちくしょう!そうだったぁっ!!」
海兵見習時代、居眠りこいては拳骨喰らってたルフィを思い出し、頭を抱えるウタ。
そんな彼女らを尻目に、ハンコックとマリーも合流していた。
「久しぶりじゃのう、レイリー。歓迎するぞ」
「ありがとう、ハンコック。いや、それにしても…ククッ…。」
ハンコックの歓待を受けるレイリー。その顔は笑いをこらえるので必死そうだ。
そんな彼をニョン婆とソニアはあきれ顔で見ている。
「ソニア姉さま、ひょっとしてルフィ…。」
「ええ、本当に気づいてないみたい…よく海兵になれたわね…。」
「アマゾン・リリーの女たちも知っておることじゃというニョにのう…。」
「ウオオォォォォン!」
「…ブルック、どうしちゃったの?」
「話すと長くなるから、今はそっとしといてあげて…。」
「う、うん、わかったわ。」
そうこうしてるうちに復帰したウタが、ルフィの耳を自分の口元まで引っ張りあげる。
「いい!この男が誰なのか、教えてあげるから!よく聞きなさい!!」
「お、おう。」
「この男の名前はシルバーズ・レイリー!冥王の異名で呼ばれる、あの"ロジャー海賊団"の副船長にしてっ!大海賊時代を創り出し、私たちの義兄であるエースをほっといて死んだクソったれのっ!ゴールド・ロジャーの右腕だった男よっ!!!」
「‥‥‥‥‥えええええぇぇっっ!!!??」
「ぷっ、くっ…ふははははははははは!!!ガープのやつめ、孫の教育にだいぶ苦労しているようだなっ!は~~はっはっはっはっは!!」
ウタから告げられたレイリーの素性に、目が(物理的に)飛び出るほど驚愕するルフィ。
そんな二人のやり取りをみて、とうとうレイリーが腹をかかえて笑い出した。
「流石はルフィ。細かいことを気にせぬ豪胆さじゃのう。」
「蛇姫、お主は…。ソニア、レイリーから話があるそうだから、応接間の準備を。マリー、茶の用意を頼めるかニョ。」
「わかったわ、ニョン婆。」
「お茶だったら、ちょうどいい茶葉が商船から手に入れたはず…。」
「あとは…これ、歌姫!」
このままでは話が進まないと判断したニョン婆はハンコックをひとまず放置し、ソニアとマリーに指示を飛ばす。
準備のために離れる二人を見送ると、彼女は未だに興奮冷めやらぬウタへと声をかけた。
「なによ!」
「お主、自分の恰好を考えよ…」
「恰好って…っ!!」
ウタはいまバスローブを纏っていたが、その状態で激しく動いた結果、彼女の姿はなんとも煽情的なものとなってしまっていた。
裾は太ももはおろか足の付け根付近までめくれ上がり、胸元ははだけて今にもまろびでそうな有様である。
自分の姿を自覚したウタは、トマトのように真っ赤な顔で両腕で胸を隠した。
「着替えを持ってきてもらったのじゃから、とりあえずお主は着替えてこい。レイリーからお主とルフィに話があるそうじゃ。」
「わ、わたしたちに?冥王が?」
「ああ、レイリーのおっさん、シャンクスと知り合いみたいなんだ!」
「‥‥え?」
いまだ押し倒したままの恋人から、かつて父親と呼んだ男の名前が出され、頭が真っ白になるウタであった。
「いやいや、すまんな。いきなり訪ねてきたというのに、茶菓子まで用意してもらって。」
「なに、わらわたちとそなたの仲じゃ。気にする必要はないぞ、レイリー。」
親しげに話すレイリーとハンコック。
場所を九蛇城の応接間に移し、彼らは円形の机を囲んで茶と菓子を味わっていた。
「しかし、驚いたぞ!まさか君たちがエースと義兄弟だったとは、世間はせま「やめて。」…!」
先ほどウタから発言された、相棒の忘れ形見を話題にだすレイリーだが、そんな彼を冷ややかな目でウタは拒絶した。
「エースの名をくちにしないで、冥王。あんたにその資格はない。そんなの私は認めない。」
「…おっさん。悪いけど、俺たちからエースの話をするつもりはねぇよ。エースが、多分嫌がるだろうからな。エースのこと知りてぇなら、本人会って聞いてくれ。」
ウタと違い、目こそいつもと同じなものの、ルフィもまた義兄の話をするつもりはない旨を伝える。
二人からの拒絶の言葉に、レイリーは深く息を吐いた。
「そうだな…。私に、彼のことを聞く資格はないだろう。すまなかった、今の言葉は忘れてほしい。」
相棒の忘れ形見に対して、何かしら負い目を感じているのか、目を伏せるレイリー。
そのまま彼は、しかし参ったな…と頭を掻いた。
「どうやら思った以上に警戒されているようだな…。今の状況で、こちらの事情を説明しても納得してもらえるかどうか…。」
ムムム、と唸るレイリー。暫くした後、彼はウタに向き合った。
「こうしよう…ウタ君。君から聞きたいことを質問してくれないか?それに私が答える形にするんだ。その方が、君たちも色々と情報を整理しやすいだろう。」
「…なんで、私なの。」
「君が一番、聞きたいことが多いだろうからな。」
そう言われ、ウタはレイリーを、シャンクスの知り合いを名乗る男を睨んだ。
今までの発言から、目の前の男が自分たちに会いに来たのは、シャンクスが絡んでいるのは明白だった。
ぎゅっ
「…!」
膝の上に置いた手を、ルフィが握った。横目で見ると、彼は力強く頷いた。
恋人の応援を受けて、ウタは意を決して質問を投げかけた。
「…ブルックは何であんなに泣いてるの「怖気づいたな、そなた。」うっさいな!あんなに泣いてるの、気になるじゃん!」
「まあ確かに、あれだけ泣かれれば気に…むしろどうやって泣いてるのじゃ。どうなっておるのじゃ、骸骨の眼は。」
ハンコックだけでなく、その場の全員がブルックの空洞の眼を見つめる。
時間が経って落ち着いたのか、嗚咽は止んだもののブルックの眼からは未だに涙がこぼれ落ち続けていた。
そのうちに観察に飽きたのか、ルフィがウタの質問に答えた。
「ウタ、ラブーンと一緒にいたクロッカスのおっさんいたろ。」
「え?ああ、覚えてるよ。それがどうしたの?」
「クロッカスのおっさん、ロジャー海賊団の仲間だったんだって。」
「…ええっ!?」
クロッカス、偉大なる航路の入り口にある双子岬で灯台守をしている老人。
ルフィとウタが海兵見習だった頃、航海術の訓練で偉大なる航路に入り、クロッカスとラブーンというクジラに出会った。
そこで、ラブーンの友人だったという海賊団と、彼らの間で結ばれた再会の約束…そしてそれが果たされなかったことなどを聞いた。
その海賊団…ルンバー海賊団の生き残りがブルックなのだが…。
「クロッカスさんが…海賊王の仲間…!」
「理由あって、彼に船医として乗り込んでもらったんだ。彼自身も、探している海賊団がいると承諾してくれてね。」
「探してる海賊団…それって!」
思わずウタはブルックの方を振り返る。
ブルックも、ようやく涙を拭い…
「はい…クロッカスさんは、我々ルンバー海賊団を探してくれていたんです…。」
ブルックが号泣していた理由、それは友を託した相手が、危険を冒してまで自分たちを探してくれていたことだったのだ。
そんなブルックを見ながら、ウタは浮かんだ疑問を呟いた。
「クロッカスさん、ルンバー海賊団は偉大なる航路から逃げ出したって言ってた…
けど、ブルックと海賊船はずっと霧の海域で彷徨ってたんだよね。どうして逃げ出したって結論に至ったんだろう…?」
「…これは私の想像だが、クロッカスはルンバー海賊団は全滅したと思ったんじゃないだろうか。
だがラブーンというクジラにとって、友が約束を守ろうとして死んだと伝えるよりは、約束を破ってでも生き残った、と言った方がショックが小さいと判断したんじゃないだろうか。」
「クロッカスさん…そこまでして、私たちとラブーンのことを…!」
ウタの疑問に、推論を語るレイリーとそれに感極まるブルック。
レイリーはブルックに向かいあう。
「まさかクロッカスが探していた海賊がブルック君で、しかもルフィ君ウタ君と一緒だったとは…
さっきも言ったが世間は狭いものだ。…私としては、クロッカスのところに向かってほしいものだが…。」
「…自分勝手な話なのは重々承知ではありますが、ルフィさんとウタさんには恩があります。それを返さないままラブーンに会いにはいけません。
…恩も返せない情けない私など、ラブーンも気づいてくれないでしょう。」
「そうか…ならば私は何も言うまい。あくまでこれは、君たちの問題だからな。」
残念そうな表情を浮かべるものの、レイリーはブルックの意志を尊重した。
ブルックの肩をルフィがポンと叩き、ウタもニッコリと笑顔を向ける。
「心配すんな!レイリーのおっさん、ブルックは必ず俺たちがラブーンのとこに連れてく!!」
「この逃亡生活を終わらせなきゃいけない理由が、また一つ増えたね。」
「ルフィさん…、ウタさん…!」
ブルックの眼窩がまたも潤む。
しかし彼はそれを拭った。ラブーンと再会する時まで、涙はとっておく…そう決意するかのように。
そして今度こそ、ウタは一番の疑問をレイリーにぶつけた。
「シャンクスとの…関係を教えて…。。」
「うむ…落ち着いて聞いてほしいんだが…。」
「私、いや我々ロジャー海賊団は…シャンクスの育ての親なのだ…。」
「………え…?」