海兵と歌姫と歌う骸骨
このssにはキャラ崩壊・設定捏造が多分に含まれます
ご注意ください。
part10:歌姫と女帝~仲良くケンカしな~
"凪の海"にある女ヶ島アマゾン・リリー、その中心部にある九蛇城の宴会場にて
「見て見て!45度!!」
「なにそれ~~~~~!!」
「あんた、どうやって動いてんの~~!」
「45度!あっ、結構難しいの巻き!!」
ルフィ一行が空から降ってきてから三日後、ウタが目を覚ました翌日。
彼女が目を覚ましたことで歓迎の宴が行われていた。
特に注目されているのは、やはりというかブルックであった。
「なあ、ブルック!ずっと聞きたかったんだけど、お前ウ〇コ出るのか?」
「はい、ウ〇コ出ますよ!!」
「出るの~~~~~~!!?」
(‥‥‥‥部隊のみんな、元気にしてるかな…)
ルフィのノリに完璧についてくる九蛇の女たちの姿に、ウタは海兵時代、ルフィと一緒に率いた海兵たちを思い出していた。
海軍でも問題児扱いされていたルフィについてきたり、思い付きでゲリラライブを始めるウタに協力したりと、彼らも大概ノリが良かった。
海軍からの追手の中に、彼らの姿は見えなかった。海軍上層部からの、最後の情けだったのだろう。
「‥‥あれ?こんな楽譜持ってたっけ?」
数曲歌った後、ウタは楽譜の整理をしていた。
海兵時代はルフィ自身の好意もあって、彼に楽譜の整理を任せていた。
しかし逃亡生活を送るようになってからは自分の手でやっていた。自分を守るために戦うルフィの負担を減らそうと思ったのだ。
そうしたら見覚えのない、やけに古めかしい羊皮紙の楽譜が出てきた。
「どれどれ…題名は…」
そこまで楽譜を眺めてウタは、スリラーバーグでのくまとの問答を思い出した。
ウタウタの実の能力には…世界を滅ぼす力があると‥‥‥‥。
「‥‥‥‥‥‥。」
この楽譜がそうである確証はない。だがウタにはこの古めかしい楽譜を何重にも折りたたみ、紐で結んだ。
歌姫として、楽譜を燃やすことはできなかった、存在しているだけならば…罪にはならないはず、そう思いたかったのだ。
「ルフィ…、少し話があるのじゃが…。」
休憩を切り上げてもう一曲…そうウタが思っていたところに、ハンコックが妹たちを連れて宴会場に入ってきた。
なにやら複雑そうな表情である。
「おう、どうした?」
「うむ…その、なんじゃ…。」
(恋する乙女モードの時以外は)常に堂々としている彼女らしからぬ、歯切れの悪い様子のハンコック。
姉さま、とソニアに耳打ちされて、ようやく彼女は話を切り出した。
「実はウタが目を覚ます前日にな…空から船が降ってきたのじゃ、そなたらと同じように。」
「ひょっとして…俺たちの"快速ドルフィン号"か!?」
「ドルフィン?…そういえばイルカの意匠が入っていた気がするの…。」
船が降ってきたという異常事態に対し、ウォーターセブンで建造してもらったばかりの船の名前を出すルフィ。
イルカのデザインを入れてもらったあの船は、スリラーバーグに置きっぱなしだったはずだ。
「落ちてきた瞬間をみた者の話では、着地の瞬間に宙に静止したそうよ。」
「その時に地面に"肉球の形をした"クレーターができたらしいの。」
「それらはそなたらが降って来た時と同じじゃ…おそらく、件の七武海の能力じゃろう。」
「バーソロミュー・くま…。」
霧の海域から女ヶ島まで、自分たちを飛ばした七武海を思い出すウタ。
彼の目的はなんだったんだろうか、まさか最後の質問の通り、ここに旅行させるつもりじゃあるまいな。
「それで、じゃ…どうするつもりなのかの…?」
「どうするって、なにがだよ?」
「ルフィ、姉様はね…あなたたちがすぐにでもアマゾン・リリーから出航するんじゃないかって不安なのよ。」
「それは……。」
そのことについてはルフィもウタも考えていたことだった。
いつまでもここにいれば、アマゾン・リリーの女たちに迷惑がかかる。
今日の宴が終わったら、女ヶ島から出航する手段を探すつもりだったのだ。
「聞けば、霧の海域に入るところは目撃されて、スリラーバーグとかいう島から飛ばされたのは目撃されてないんでしょう?」
「だったら海軍らの追跡は振り切れたと考えていいんじゃないかしら。流石に空を飛んで逃げたなんて思われないわよ。」
「そなたらも知っての通り、アマゾン・リリーは外界と隔絶されたことで有名じゃ。わざわざ探しに来る物好きもおるまい。」
ルフィたちの内心を察したのか、三姉妹が畳みかけるように引き留めてくる。
「でもよ…万が一ってこともあるしよ‥。」
「うん…、私たちがここにいるのがバレたら、それこそ七武海の称号を剥奪されちゃうよ…。」
一方のルフィとウタも、もはや友人といっても過言ではない彼女らを危険にさらせないと、説得する。
しばし宴会場に無言の時が流れるが…
「とりあえず、船の様子を見に行きませんか?この島に留まるにしても、着替えなどの私物も取ってくるべきかと。」
それを破ったのはブルックの一言だった。
確かに、どっちの道を選択するにしても、まずは船の状態を確認してからの話だろう。
「ならば、ソニア!ルフィと骸骨を、船を移動させたところまで案内せよ!」
「え…私は?」
「そなたは…ここに来てからまだ風呂にはいってないじゃろう。」
「う、うん…。」
ウタの頬が赤く染まる。風呂に入っていない、とはっきり言われるのは年頃の娘としてはなんとも恥ずかしい。
一応、ぬるま湯で身体を拭いたりはしているが。
ウタとしては今すぐにでも風呂に入りたいところだったのが、歓迎の宴をすると言われ、せめてものお礼に何曲か歌うことにしたのだ。
「わらわもこれから湯あみするつもりじゃ…そなた、背中を流せ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はい?」
まただ、今日のハンコックは絶対におかしい。
今までだったら「ルフィ!一緒に湯あみせぬか!わらわが背中を流しますぞ!!」と言い出しては、ウタと決闘になるのが、ルフィたちが女ヶ島に訪れた際のお約束だった。
それが、今回は恋敵の方を誘ったのだ。
「じゃあウタ、とりあえず着替えだけ持ってくるから!」
「ちょ、ちょっと!ルフィ!!」
恋人であるはずの男はさっさと出て行ってしまった。
こうしてウタは、世界一の美貌を誇ると言われる海賊女帝と、入浴を共にすることになったのである。
脱衣所に待機しているマリーゴールドに衣服を預け、女帝と妹たちしか使用を許されない浴場への扉に手をかける。
ウタは息を深く吸い、吐いた。
「なにも気にする必要ないわ…女同士なんだから。」
緊張するウタを気遣うマリーだが、その表情はどこか不安げな色が浮かんでいる。
やはり、ただ入浴を誘われたわけではなさそうだ。
(…この国での滞在を許す代わりにルフィと…いや、ハンコックはそんな卑怯な女じゃない。)
一瞬浮かんだ考えを即座に否定する。
正直言って、仲がいいとは言えない相手だが、彼女が"女帝"と呼ばれるに相応しい人間であることをウタは知っていた。
「ええい、ままよっ!!」
考えてても埒が明かない、とウタは浴場への扉を開けて…かたまった。
(なんじゃい…こりゃぁ…)
ウタがみた光景、それは…浴場の四方の壁、更には天井にまで貼り付けられた…ルフィの写真。
壁いっぱいのサイズまで拡大され、防水加工まで施されたそれらの前に、ウタは裸体を晒すことになってしまったのだ。
(は、はずかしい……!)
逃亡生活を送るなかで、ウタはルフィと恋仲になっていた。
肌を晒すことも…ないことはなかった。
ただ(相手は写真だが)こちらだけが服を脱いでいるという状況は初めてだった。ルフィ自身はウタに裸を見せるのに抵抗はないようだが。
(ハンコック…なにを思って…こんな…)
これは写真、こっちを見ているわけではない…そう言い聞かせながら湯船につかる。
能力者が入ることを想定してるからか、かなり浅い。座り込んでも腰くらいまでしかつからない。
三角座りで四方と天井からなんとか身体を隠す。
「待たせ…なにをやっとるんじゃ、そなた。」
遅れてやってきたハンコックが、ウタを呆れ顔で見る。
彼女の顔は、もうのぼせてしまったかのように真っ赤であった。
「…壁と天井の写真、なに?」
「これか?見てわかるじゃろう、ルフィじゃ。」
「いや、そうじゃなくて。なんでルフィの写真をお風呂に貼ってるの?って聞いてるの…。」
「愚問を…愛しい人に見守られながらなら、己の身を磨きあがるのにも、心がこもるというものじゃろう。」
何かを想像したのか、赤く染まった頬に手を当て、身体をくねらせるハンコック。
あんまりといえばあんまりなその様子に、ウタは脱力した。
(あほらし……)
いつの間にか羞恥心もどっかにいった。ハンコックを怪しんでいたことすらバカバカしい。
そのまま湯船に体全体をつからせる。こんな大きなお風呂は久しぶりだ。精々リラックスさせてもらおう。
「…ウタよ、お主がわらわを疑っておるのはわかっておる。」
「‥‥ふぇ?」
唐突に話を切り出したハンコックに対し、気の抜けた返事をするウタ。リラックスしすぎていたようだ。
「こう考えておるのだろう?"匿ってやるからルフィから身を引け"と、わらわが企んでいると。」
「いや全然。そんなプライドないような情けないこと、あんたが考えるわけないじゃん。」
本当は一瞬だけ思ったが、まあ誤差みたいなもんだ。
そんなウタの内心を知らず、ハンコックの肩がわずかに震える。
「‥‥そうか。」
そこから数分間、お互いに無言の時間が流れる。
しかし、やはりハンコックには話したいことがあるのだろう。
彼女の迷いを表情から"聞き取った"ウタは、今度は自分が動くことにした。
「なんで、ここまで私たちを助けてくれるの?わかってるでしょう、今の私たちに肩入れするってことの意味を。」
「…そう、じゃな。お主にも…言わねば、見せねばならぬじゃろうな…。」
そういってハンコックは…ウタに"背を向けた"。
「!!!?」
ウタの表情が驚愕に染まる。
彼女の眼が写したものは…天上に住む竜の足跡、ヒトをヒト以下の存在に貶める…呪われた烙印。
…ウタが刻まれるかもしれなかった刻印だ。
「ハン、コック……あ、あんた…!!」
「‥‥っ!」
ウタからは見えないが、ハンコックの表情が恐怖と嫌悪に染まる。
やはりウタは、ウタも他の連中と同じだったのだろうか…。
ルフィが見初めた女ならば、あるいはと考えた自分が愚かだったのだろうか。
「…ごめん。」
「‥‥ウタ?」
「ごめんね…疑って…これを、見させちゃって…!」
ハンコックに謝罪の言葉を繰り返しながら、彼女の背に抱き着くウタ。
それはまるで、"世界"からハンコックの忌まわしき記憶を覆い隠そうとしているようだった…かつてのルフィのように。
「…良かった……本当に、良かった!そなたたちが無事で…あの"怪物共"の手に落ちなくて…!」
「うん、うん‥‥」
「ルフィはもちろん、そなたも…。そなたくらいじゃ…"海賊女帝"と呼ばれるわらわに向かって…同じ"女"として噛みついてくる者など…。」
「そなたにとって、わらわは憎い敵じゃろうが…わらわにとっては唯一、対等と認めた"女"じゃ‥‥!」
「私にとっても…同じだよ…同じ男の人を好きになった"ライバル"だ‥‥。」
背中の烙印を見せることが、どれだけ怖ろしかったことだろうか…。
もしもウタが口外してしまえば、ハンコックは破滅してしまうというのに…。
それでも彼女は見せたのだ、ウタに自分が味方だと証明するために…ウタを、安心させるために…!
この憎たらしくも、どこか心強い恋敵に、ここまで信頼してもらえたことが…今のウタにとって、ただただ誇らしかった…。
「じゃあ、とりあえずこれだけ持っていけば大丈夫なんですね?」
「おう!しっかし、スゲェ場所だなぁ~!まるで秘密基地みたいだ!!」
そう言ってルフィは自分の船"快速ドルフィン号"が浮かべられた湖を見渡す。
そこは四方を森と岩壁に囲まれた巨大な湖だった。ドルフィン号だけではなく、九蛇海賊団の船もいくつか浮かべられている。
「秘密基地…言い経て妙ね。ほら、あの壁を見て。」
そう言って、ここまで案内してくれたソニアが岩壁の方を指差す。
そこには巨大な洞窟がぽっかりと開いていた。船くらいなら余裕で通りそうなサイズである。
「あの先は海に繋がっているの…海側の方は、作り物の岩壁で隠してあるけどね。」
そういうと、今度は九蛇の船の方を指差していく。
「アマゾン・リリーが危なくなったら、ここにある船で脱出できるように…これ、全部ニョン婆の提案なの。」
「ニョン婆?」
「ああ、ハンコックたちの母ちゃんみたいなもんだ。よく考えてんだなぁ~、ばあちゃん。」
「姉様は必要ないって言ってたけどね、自分がいる限りアマゾン・リリーは安泰だって。」
その時に起こったひと悶着を思い出したソニアが肩をすくめる。
一方のルフィは、湖を真剣な表情で眺めていた。
「いや…ばあちゃんの言うことは最もだ。この海には単純な強さだけじゃねぇ、どんな手を使っても目的を果たそうとする連中もいるんだ。」
「…私の仲間たちも、武器に塗られた毒で命を落としました。」
「うん…ニョン婆が言ってたわ。世の中には"どくがす"って兵器があって、それが使われればアマゾン・リリーは半日と経たずに、生き物の住めない島になるって。」
ニョン婆は、心の底からアマゾン・リリーと女たちを守ろうとしていた。
だからこそ姉も、最終的にニョン婆の提案を受け入れたのだろう、とソニアは感じていた。
血のつながりこそないものの、自分達姉妹はニョン婆の娘みたいなものなのだと。
「おや、そなたたち。なにをやっとるんじゃ、こんニャところで。」
そこに、今話に上がったばかりであるニョン婆が現れた。
「おう、久しぶりだなばあちゃん!なんか縮んでねぇか?」
「わしももう歳じゃからニョう。身体は衰えるばかりよ。」
「そうなのか?俺のじいちゃんはデケェまんまだけど。」
久しぶりの挨拶を交わすルフィとニョン婆。
ルフィの脳裏に祖父の姿が思い浮かぶ。海軍からの追手の中に、彼の姿は見えなかった。
今頃祖父は、自分の裏切りに対して、怒っているだろうか、悲しんでいるだろうか…。
「あなたがニョン婆さんですね。初めまして、私ブルックと申します。」
「これはこれはご丁寧に。」
「それでニョン婆さん、お願いがあるんですが。」
ルフィに続き、ブルックが挨拶を交わす。そして彼は神妙な面持ちなると…
「パンツ見せてください。」
「何言ってるの!?」
「わしはノーパン主義じゃ。ないもニョは見せられん。」
「オエェェッッッ!!」
セクハラ発言する骸骨と爆弾発言する老婆。
ツッコミに回ったソニアだったが、おぞましいものを想像してしまったのか、嘔吐寸前まで追い込まれていた。
「婆さん、お前こそなんでここに来たんだ?俺たちの手伝い頼まれたのか?」
「いや、わしはここで待ち合わせじゃ。古い知り合いがこの島を訪ねに来るニョでな。」
「ええっ!ちょっと待ってくれ、俺たちのドルフィン号が見つかったら大変じゃねぇか!!」
外部のものがこの秘密基地に来ると聞いて焦るルフィ。
自分たちがアマゾン・リリーに滞在しているのが知れれば、自分たちはおろかアマゾン・リリーの女たちも危険が及びかねなかった。
「うぅ…、ニョン婆。その訪ねてくる人って…。」
「ああ、あやつじゃ。」
「やっぱり…ルフィ、安心して。その人はあなたたちを捕まえようとはしないわ。」
「ホントか!?」
「ああ、もちろんだとも。」
その場に、ルフィたち四人ではない声がかけられた。
声がした方向を向いてみると…
「久しぶりだな、グロリオーサにソニア。元気そうでなによりだ。」
すぐそこに長い白髪の老人がいた。その身体は海水でずぶぬれだ。
「お主、その有様…。さては、このアマゾン・リリーまで泳いできよったのか!?」
「ああ、船が嵐で沈んでしまってな。」
「凪の海では嵐は…どこから泳いできたの‥‥。」
とんでもないことを、さもなんともないように言い放つ老人。
彼を、ルフィは油断なく見つめていた。
(このおっさん、つええ…!)
すぐ近くにいたのに全く気付かなかった。
それだけではない、見聞色で探ってみても、目の前にいるにも関わらず全く感知できないのだ。
「そう睨まないでくれ、本当に君たちに危害を加えるつもりはないんだ。…君がルフィ君だな?」
「ああ、そうだ…。」
「ふむ…なるほど、なかなか麦わら帽子が似合うじゃないか。シャンクスの言ってた通りだな。」
「!? おっさん、シャンクスのこと知ってんのか!?」
久しく聞かなかった、自身の憧れの名前を言われ驚くルフィ。
まさかこんなところでその名を聞くとは思わなかったのだ。
「私の名はシルバーズ・レイリー、ただのしがない老いぼれだ。」
「俺はルフィ!海兵だ! で、おっさんはシャンクスの知り合いなのか!?」
お互いの名を言い合い、再度シャンクスとのつながりを問いただすルフィ。
そんな彼に対し、一瞬の間が空いた。
「…君は、私の名を聞いても驚かないんだね?」
「ん? ああ。」
「‥‥呆れたニョ。」
ルフィの反応が何か予想と違ったのか、ルフィとブルック以外の三人がルフィを見つめる。
それに疑問を覚えたブルックがソニアに老人のことを問いかけた。
「この方、有名な方なんですか?」
「ええ、とっても…ルフィ、あなた…海兵なのよね?」
「おう!今はちょっと追われてるけど、いつか必ず海軍に復帰するんだ!んでもって…」
「ウタと一緒に、この大海賊時代を終わらせるんだ!!」
「ふ、ふふ、ふははははははははは!!」
ルフィの、あまりにも壮大な宣言に対し、老人…レイリーは腹を抱えて笑い出した。
「大海賊時代を終わらせる、ときたか!! いやいや結構!!その麦わら帽子をかぶるなら、それくらいは言ってくれないとな!!」
「この麦わら帽子なんかあるのか?シャンクスからもらったもんだけど。」
「あのね、ルフィ。この人、レイリーはね…」
いまだレイリーが何者かわからないルフィに対し、彼のことを説明しようとするソニアだったが…
それを止めたのは、当のレイリーだった。
「待て待て、ソニア。私のことなどどうでもいいだろう!ルフィ君、ウタ君に会わせてくれないか?シャンクスについても、彼女も交えて話そうじゃないか!」
「‥‥いたずら者め。」
「そう言うな、グロリオーサ!男は何時までたっても、子供の心を持ち続ける生き物なんだ!!」
ガッハッハッハッハと笑う旧友を、呆れた目で睨むニョン婆。
その視線の先の老人は、まるでイタズラが成功するかワクワクしている子供のようであった。
「それでさ、みんなで力を合わせて、モリアのやつぶっ飛ばしたんだ~~~。」
「…なんというか、安心したぞ。追われる身となったというのに、やってることは海兵時代と変わらんではないか。」
ルフィたちがレイリーを連れて九蛇城に戻る道を進んでいる頃、入浴中のウタはハンコックの背中を流していた。
その最中にスリラーバーグでの出来事を話す。
モリア達、スリラーバーグ海賊団との死闘や、ブルックとの出会いの経緯、そして新たな友ローラとの交流などを…
「しかし、困っている者を助けるためなら、七武海にも戦いを挑むとは…さすがルフィ!海兵の鑑じゃのう!!」
「いや、あんたも七武海でしょうが…。てか海賊が海兵を褒めるのはどうなの…。」
またしても身体をくねらせるハンコック。
ルフィの話題になるとこれだ。背中を流しにくいったらありゃしない。
「そういうウタこそ。海賊嫌いで有名なそなたが、よくそのローラとかいう娘を助ける気になれたのう?」
「あ~、なんというか…ほっとけなかったんだよね。…他人事だとはおもえなかったからさ。」
「…父親だったという海賊のことか。」
ウタが背中を流し終えると、今度はハンコックが(今日ばかりは特別じゃぞ、と)ウタの背中を流し始める。
その目には、同情の色が窺えた。
「わらわたちには、父親というものがよくわからぬ。母親ならばわかるがの。」
「ああ、ニョン婆さん。」
「あれはただの口やかましいババアじゃ。…まあ、知恵が回るのは認めるがの…。」
やがて互いの背中を流し終え、再び足を延ばして湯船につかる。
天井を見つめながら、今の自分の心境をウタは語り始めた。
「‥‥今でも海賊は嫌いだよ。ただ、嫌いの質が変わったってことかな…。」
「嫌いの…質?」
「そう。今までの私は、私を捨てた海賊を…父親を恨んでいた。それで海賊全てを嫌っていたの…身も蓋もない言い方をすれば、八つ当たりだったんだ。」
ある意味最低だよね、とウタは苦笑する。
「…そんなもの気にする必要もないじゃろう。八つ当たりされるような弱い者どもが悪いのじゃ。」
「あ~、ひょっとして慰めてくれてるの~?いいとこあるじゃ~ん。」
「言っとれ。」
ニヤニヤした顔でハンコックをみるウタ。しかし、すぐに真面目な顔に戻る。
「けどさ…それじゃダメなんだって、最近思うようになったんだ。八つ当たりするような人間じゃ、正義を掲げられない。」
「追われる身となっておきながら、まだ正義だのほざくのか。」
「そりゃそうだよ、私は海兵だもの。そして、いつかきっと…」
「ルフィと一緒に、大海賊時代を終わらせるんだ。」
「‥‥‥‥」
絵空事と言われかねないウタの発言を、ハンコックは真剣な表情で聞く。
目の前の恋敵は、生半可な覚悟でこんなことを言う女ではないことを、自分が誰よりも知っていたからだ。
「そのためには、ただ海賊を憎むだけじゃダメだって気づいたんだ。海賊の中には、なりたくて海賊になった人間ばかりじゃない。」
そこまで言って、ウタはハンコックを…どこまでもまっすぐに見つめた。
「ローラや…ハンコック。あんたたちみたいに、海賊しか生きる道がなかった人間もいるんだ。」
「…わらわは別に、この生き方を後悔などしてはおらぬ。」
「わかってるよ。ただ、これからか憎むだけじゃない。戦う相手を見極めていかないと…きっと、自分でも後悔する結果になると思うんだ。」
海軍本部にいたころ、海賊憎しの言動をするを窘められていたことを思い出す。
今考えれば、憎しみに飲まれ、取り返しのつかない事態に陥ることを案じてくれていたのだろうと。
(私が憎しみに吞まれなかったのは、いろんな人たちに守られていたからだ‥‥それに、何としても報いたい!)
「ハンコック、私たち…やっぱりこの島を出るよ!なにか当てがあるわけじゃないけれど…それでも、行動しなきゃなにも変わらないんだ!」
「‥‥島を出る…とは、あのイルカの船でか?」
「え、そりゃもちろん。折角ガレーラカンパニーのみんなが造ってくれたんだし。」
「そうか…では、"あれ"もそなたが頼んで造ってもらったのか?」
てっきり、「ルフィにおんぶにだっこされてる分際で、なにを偉そうに!」とでも言われると思っていた。
しかしハンコックから口にされたのは、建造されて間もないが、愛着は十分にある船のことであった。
「そなたらに船のことを知らせる前に、わらわたちで検分させてもらった。なかなかいい船であったぞ。」
「そうでしょ、そうでしょ。世界一の船大工たちが造ってくれたんだよ!」
「ああ、実に見事であった‥‥とくに。」
「し ん し つ が。」
「‥‥あ。」
ここにきてようやくウタは、ハンコックが何について言ってるのかに気づいた。
ドルフィン号の寝室には…ベッドが一つしかないのだ。枕は二つ。
「ウタ‥‥そなた、もしや…!!!」
ハンコックの美貌が怒りでみるみる歪んでいく。
海王類も尻尾を巻いて逃げ出しかねない勢いだ。
「いや、流石に一線は超えてないよ!! 万が一、その、身重になったら…それこそ逃亡生活どころじゃないし…。そもそも夜間の見張りとかで、一緒に寝れることも少ないよ!」
「む…む、う‥‥。」
想像していた最悪の事態は起きてない、しかし納得しかねる…そんな考えが、ハンコックの脳内を巡る。
そんなこと露知らず、ウタは…地雷を踏んだ。
「まあ、そのぶん一緒に寝れる夜は…ウタワールドで…そりゃあ、もう………。」
赤らんだ顔に両手をあてて、身をくねらせるウタ。
それが開戦の合図となった。
「ウタよ…そなたが無事でいて本当に良かったと思っておるぞ‥‥わらわの手で亡き者してやれるのだからなぁっ!!!」
「わっぷっっっ!!」
ハンコックがウタに掴みかかり、そのまま湯船に沈めようとする。
しかし湯そのものが浅いことと、半身を湯に浸からせていたことで力が出せないこともあり、なんとかウタは脱出できた。
「なにすんのさ!いきなり!!」
「黙れ!なんとうらやま、いやけしからんことをっ!身の程を知れ、小娘!!」
「なにおうっ!!」
今度がウタがハンコックを湯船に押し倒そうとする。
ハンコックも負けじと押し返し、がっぷり四つに組みあう。
「そっちこそ!一緒に寝るどころか、手を繋いだだけで茹でタコ状態になるくせにっ!」
「貴様、言うてはならんことを!!」
組んだまま湯舟を転がりまわる。
そのさまはまるで、泥遊びをする子供のような有様で。
色気もへったくれもないその光景は、のぼせ上った二人をマリーゴールドが救出するまで続いた。
To Be Continude