海兵と歌姫と歌う骸骨

海兵と歌姫と歌う骸骨


このssにはキャラ崩壊・設定捏造が含まれます

ご注意ください



part9:そしてだれもいなくなった



悪夢との戦いが終わり、朝陽が差し込むスリラーバーグ。

その一角で、影を取り戻した被害者の会とブルックが"何か"の建築作業を行っていた。

そこから近い場所で、眠りこけるルフィと、彼に膝枕しているウタもいる。


「よし!どう、ブルック?こんなもんで!」

「ヨホホ!ありがとうございます…こんなに素敵なお墓を建てていただけるなんて…」

「水くせぇこと言うなよ!」

「そうだぜ、影を盗られた仲じゃねぇか!!」


彼らが建てていたのは、ブルックの今は亡き仲間たち、ルンバー海賊団の墓であった。

感謝するブルックに対し照れ臭いのか、大声を上げる被害者の…いや、ローリング海賊団たち。

その音量に、ルフィが目を覚ました。


「ウタ!!肉!!」

「おはよう、ルフィ。私も、みんなも大丈夫だよ。お肉はローラの仲間が探してくれてるから、もうちょっと待ってね。」

「早くしてくれ…腹減って目が回りそうだ…。」

「あら!目が覚めたのね!」

「おはようございます、ルフィさん!見てください!ローラさんたちが、私の仲間たちのお墓造りを手伝ってくれたんです!」


腹ペコ状態のまま、ブルックの後ろにある墓を眺めるルフィ。

褐色の台が三重に重ねられ、周りを白い音符が飾り立てている。

台上には様々な楽器が安置されており、頂点には十字架が立てられている。

全体的なデザインは見る者が見ればそれはまるで…


「なんか…チョコレートケーキみたいだね、これ。」


最後にケーキ食べたのいつだっけ、と物思いにふけるウタ。

確かウォーターセブンで船を造ってもらってる間にご馳走になった時か、つい最近だった。


「チョコレート菓子作りが得意なのよ、わたし。それでこんなデザインにしちゃったんだけど…。」

「いえいえ、とっても素敵なデザインです。みんな、甘いものは大好きでしたからねぇ…きっと喜んでます。」

「喜んでもらえたなら嬉しいわ、結婚したいくらい!」

「ヨホホ、身に余る光栄です!…ですがローラさん。私はあなたを幸せなお嫁さんにできても、幸せな母親にはできません。

あなたはきっと素敵なお母さんになる女性です。ですから、生きている男性をお婿さんにしてあげてください。」

「そう、残念だわ…。だったらせめて、私自慢のチョコレートケーキを食べて!今は材料がないから作れないけど、次の島で材料買い込んで、とびっきりのケーキご馳走するからね!」

「え…次の島って…。」


ローラのご馳走発言にウタが困惑する。ルフィは涎を垂らしていた。


「そりゃ、いつまでもこんな陰気臭い島にいるわけにもいかないでしょ。」

「いやそうじゃなくて…。」


そこで、ローラに眼に強い決意が見えることに、ウタは気づく。

ローラだけではない、彼女の仲間たちの眼にも、同様の決意が窺えた。


「ルフィ、ウタ。私たち…友達でしょ!」

「ローラ…。」


ウタは涙が込み上げてきた。

この広い海で、ルフィと二人ぼっちだと思っていたところに、新しい友ができたのだ。

だからこそ…。


「ありがとう、ローラ…。その気持ちだけで十分だよ…。」

「ウタ!私たちは…!」

「大丈夫だよ!俺たち、今までもなんとかなってんだから、これからもなんとかしてみせるよ!」


食い下がろうとするローラに対し、ルフィとウタは首を横に振った。

二人はそのまま視線をブルックに移した。


「ブルックのこと、頼みたいの。リヴァースマウンテンにいるラブーンに会わせてあげて!」

「…そのことなんですが、ルフィさん、ウタさん。お願いがあるんです。」

「え、でも私たちが連れてってあげるに、は‥‥‥‥。」

「…ウタさん?」


話題が自分に移ったブルックが、ルフィたちに自分の考えを伝えようとする。

しかしウタは、自分の視界に写った"あるもの"に動揺した。

その場にいる全員が、ウタの視線の先に眼を向けると…


「うそ……、なんで、こんなところに…!」

「あ、あれは…!」


目線の先、瓦礫の山の上に座っていたのは、熊耳のついた帽子と手袋を身に着けた、モリアにも勝るとも劣らない巨体の男だった。

手には何やら、聖書のような書物を携えている。


「あの方、ルフィさんたちはご存知なんですか?」


驚愕するウタ達の横で、ブルックのみ困惑していた。

50年間、霧の海を彷徨っていた彼は、ルフィたちとモリアたち以外の現代人を知らないのだ。


「あいつはバーソロミュー・くまっていって、モリアのやつと同じ七武海だ…!」

「なん、ですって…!?モリアと同じ…!!」


疲労困憊の自分たちの前に、七武海の一人が現れた。

その事実に、全員が戦慄を覚えていた‥‥!




やがて、瓦礫の山から立ち上がるくま。

手袋を外したかと思うと、その姿が消えた。


「「「「‥‥え?」」」」」


次にくまが姿を現したのは、ルフィとウタの目の前だった。


「ルフィ!ウタ!!」

「"革命舞曲(ガボット)ボンナバン"!!!」


すぐさまルフィとウタの前に出るローラと、遥か格上相手に怯まず挑みかかるブルック。

が、


ぷにっ


「うわぁあああっ!!?」

「「「ブルック!!」


くまが掌で仕込み杖を受けたかと思うと、ブルックのほうが弾き返された。


「気を付けて!こいつは"ニキュニキュの実"を食べた肉球人間よ!!」

「に、肉球!?」


海兵時代に知ったくまの能力をウタが叫ぶ。

よくよく見てみれば、くまの掌には肉球がついていた。


「そう…。おれの肉球で触れた者は、なんであろうと弾き返す。剣だろうと、大気だろうと…!」


ぷに


「ぎゃあぁっ!」

「ローラ!!」

「こんにゃろ!おれが相手だ!!」


くまが手を素振りしたかと思うと、肉球の形をした"何か"が弾き出され、ローラに直撃した。

友を傷つけられたルフィが、ふらつきながらも立ち上がる。


「…待て、海兵ルフィ。他の海賊たちもだ。俺はお前らとこれ以上戦うつもりはない。」

「なにを!!」

「本当だ。俺は、お前らがこの島に上陸する前からいた。お前らを捕まえるつもりなら、とっくの昔に捕まえている。」


そう言って、手袋をつけ、肉球を納めるくま。

勝手に武器を納めた相手に、構えを取りながらではあるが、ルフィも静止した。


「だったら、何の用なの!?私たちとあんたに何か因縁でもあるっていうの!!」


ローラを助け起こしたウタが叫ぶ。

ルフィはもう戦えない、自分もウタウタの能力を発動できる体力も残っていない。

絶体絶命とはこのことだった。


「お前たちと…少し話がしたい。他の連中は席を外してもらおうか…この島を出て行ってくれ。」

「友達を…見捨てていけっていうの!!?」


剣を抜き、くまに対峙するローラ。

今にも斬りかからんとする彼女を、ウタが止めた。


「ローラ、言う通りにして。」

「で、でも!!」

「少なくとも、今は俺たちと戦うつもりはねぇみたいだ。大丈夫、俺たちは俺たちでなんとか逃げてみせる!」


笑顔で安心させようとするルフィとウタだが、ローラはまだ迷っている。

そこに、起き上がったブルックがやってくる。


「ご安心ください、ローラさん。お二人は‥‥私がお守りします!!」

「ブ、ブルック…ラブーンはどうするの!?」

「そうだぜ!ラブーンは、ずっとお前のこと待ってたんだぞ!!」


二人がラブーンの名を口にする。

遠き過去の友の名を聞いたブルックはうつむき、ポツリと自身の思いを語り始める。


「50年…この霧の海を、舵のきかない船で彷徨っていました。仲間たちの屍に囲まれて…

この現実こそが悪夢で、目覚めれば生きた仲間たちが待っている、そう自分に言い聞かせ眠りにつく日々…。

いつかラブーンに必ず再会する…そう自分に言い聞かせつつも、心のどこかで諦めてました。毎日毎日、遠い向こうのラブーンに謝ってました。」



「死んでごめん…ってッッ!!!!」



「「…!!」」


絞りだすように、50年の絶望を吐き出すブルック。

その重みに、ルフィもウタも…その場にいる全員が言葉を失くしていた。


「そして影を奪われて、とうとうここまで‥‥そう思っていた時に、ルフィさんとウタさんに出会ったのです。」


顔を上げ、ルフィとウタに目を向けるブルック。

空洞のはずのその眼窩から涙が一筋、流れ出ている。


「あなたたちは、私を恐れず話しかけてくれた、食卓に招いてくれた、私とラブーンの為に戦ってくれた…!」


一歩一歩、二人に近づくブルック。

二人の前にたどり着くと、くまの方に向き直り…剣を向ける。


「あなたたちのおかげで私は"動く白骨死体"から"生きた人間"に戻れたのです……あなたたちを置いて逃げたら、私はまた"動く白骨死体"に逆戻りしてしまいます。」



「私は"生きた人間"として、胸を張ってラブーンに会いに行く!!そのためにも…あなたたちが平穏を取り戻すその日まで、どうかお供させてください!!」



力強く、自分に課した使命を叫ぶブルック。

その声には、溢れんばかりの"覇気"がこもっていた。


「骸骨…ブルックといったか。その二人の敵は、この世界そのものだぞ。それでも供するというのなら、お前には生き地獄が待っている。」

「なにをいうかと思えば…私の姿を見ればわかるでしょう?黄泉から蘇った男、それが私です!

地獄?何を今更って話ですよ!!」

「なるほど…的を射ている。」


くまの警告を、頭蓋をコンコン、と叩いてブルックが一蹴した。

その様にくまは納得したらしい。


「わかった、骸骨いやブルック。お前は残っていい。…"求婚のローラ"、お前たちは今すぐこの島から立ち去れ。」

「くっ…!」


くまから再度、通告を受けるローラ。

自分だけならブルックのようにもできたろう。しかし、彼女は多数の船員の命を預かる船長。

友か船員か、揺れる天秤に迷うローラの背中を押したのは…友だった。


「ローラ…、素敵な旦那さんを見つけてね。いつかきっと、お祝いの歌を歌いに行くからね!」

「ヨホホ、伴奏はお任せください!」

「俺は歌も楽器もできねぇけど、なんか美味いもん持ってくからな!」

「ルフィ…ブルック…ウタ…!」


涙を流しながらローラは、暴君の異名をもつ七武海相手に刃を向ける。


「くま!!私の友達に傷ヒトツ付けてみな!!どこまでも追いかけて、海の底に叩き込んでやる!!!」

「‥‥約束しよう、こいつらには傷ヒトツつけないと。」


格下のはず相手に、くまが真剣な声色で約束を結ぶ。

その言葉を聞いたローラは、三人の友達を強く強く抱きしめた。


「三人とも、絶対に死んじゃだめよ!!いつか必ず、生きて会いましょう!!」

「もちろんだよ!」

「私、約束は死んでも守る男です!」

「大丈夫だ!ウタもブルックも、俺が守る!


この広い海で、未来で再開することを、四人の友は誓い合った。



「約束よ‥‥マイフレンズ!!!」




「どうやら、いったようだな。」


ローラたちが立ち去った十数分後、くまがポツリとつぶやいた。

よほど他人には聞かれたくないのだろう、この十数分で彼は一言もしゃべらなかった。


「で、話ってなんだよ。言っとくけど、俺もウタも天竜人のところに行く気なんてねぇぞ。」

「安心しろ、そのつもりはない。‥‥さっきの約束もある、お前らを傷つけはしない。少し質問に答えてもらうだけだ。」


そう言ってくまは、ルフィに目線を合わせた。


「正直に答えてほしい、モンキー・D・ルフィ海兵。お前は‥‥この世界についてどう思う。」

「…よくは思ってねぇ。今まで色んな国や町にいったけど、どこも海賊に怯えていたし

じいちゃんたちも、手が届かねぇとこの連中が死んでいくのに悩んでるみたいだった。」

「お前自身はどうなんだ。」

「俺は、俺の周りの連中のことしか考えねぇようにしてる。俺より強いじいちゃん達でも無理なことを、俺がなんとかできるとは思ってねぇ。」


そこまで言って、ジッとくまをルフィは見つめる。


「俺は弱い…だからもっと強くならなきゃいけねぇ…!」


己の無力を自覚しながら、それでも闘志を宿す眼に、くまは何か満足したかのように頷いた。

次はウタに目線を合わせる。


「歌姫ウタ、お前は…自分の能力について、どこまで自覚している。」

「…相手を眠らせて精神世界に引きずり込むのと、歌を通して味方に力を与えること…これについては、多分、だけど…。」


つい先ほど自覚、というか思いついたばかりの能力については自信なさげにいうウタ。

そんな彼女に、くまは"悪魔の誘惑"とも言うべき事実を伝えた。


「ウタウタの能力には、世界を滅ぼす力が秘められていると言ったら「そんなのいらない。」‥‥ほう?」


その誘惑に、ウタは見向きもしなかった。

彼女の眼にも、ルフィに負けないほどの闘志が宿っていた。


「私が今まで生きてこれたのは、フーシャ村のみんな、海軍の仲間たち、そしてルフィが私を守り、支えてきてくれたからだ。」


そこできって、ウタはキッとくまを睨みつける。


「私が歌に込めるのは、周りのみんなからもらった"生きる希望"だ!私は世界を呪う歌じゃなく、みんなを愛する歌を歌う…歌姫だ!!」


決意を込めた彼女の言葉にくまは、いつの間にか手袋にかけられた指を離した。

どうやら納得のいく返答だったようだ。そのままブルックに視線を向けた。


「お前の答えは聞いたばかりだが、一応聞いておこう。」

「何度聞いても答えは同じですよ。このお二人こそを見捨ててしまえば、私は生きる屍、いやそれ以下なのですから。」

「そうか…。」


繰り返されたブルックの返答。くまは頷いた。


「では、最後の質問だ…。旅行にするなら、どこに行きたい?」

「「ウタ(ルフィ)と一緒ならどこだって!!」」

「キレイなお姉さんがいっぱいいるところがいいです!!」


三人の答えに、くまは手袋を外すと…



ぷにっ



数分後スリラーバーグから船を出すくまの姿があった。

その顔には、満足気な笑みを浮かべていた。


「この世界を敵に回しても闘志を失わず、更には新たな味方まで増やしたか…。血は争えないな、ドラゴン…。」


そして、スリラーバーグに静寂が訪れた。

かつて悪夢の島の主だった巨漢は、いつの間にか姿を消している。

主人の命令により地下に潜ったゾンビたちは、そのまま影を抜かれ物言わぬ死体に戻った。やがてそのまま土に帰ることだろう。

こうして、だれもいなくなった‥‥




遠くのほうで楽器の音色が聞こえる…これはバイオリンだろうか。

夢うつつの状態でも、美しいとわかるその音色に、ウタは目覚めようとしていた。


(ライブの予定なんてあったかな…早く起きてステージに行かないと…みんなが待ってる……)


歌姫としての本能が重たい瞼を無理やりこじ開ける。

その目が一番に写したのは、世界で一番愛しい人の笑顔だった。


「ウタ!目が覚めたんだな!!」


目覚めたウタに、コップに水を注いだり、どこからか果物を皿にのせたりと、甲斐甲斐しく世話するルフィ。

くすぐったい気持ちになりながら、ベッドからウタは起き上がった。


「おはよう、ルフィ…。ここは、なんか見覚えがあるような…。」


寝かされていた部屋は見覚えのある場所だった。

遠くからはバイオリンの音色に混ざって、鳥や獣の鳴き声が聞こえてくる。


「ああ、ここはアマゾン・リリーだ。ハンコック達の島だよ。」

「…………ハンコック!!!?」


恋敵の名を聞き、ウタの意識が完全に覚醒した。

思い出した。自分たちはくまになにかされて、一昼夜空を飛ばされたのだ。

やがてどこかの島に墜落して…そこで意識が途絶えたのだ。



「ウタッッ!!!」



突然部屋に入ってきた人物、それはこの"アマゾン・リリー"の皇帝、九蛇海賊団の船長にして王下七武海の一人、ボア・ハンコックだった。

肩で息をし、心なしか顔色も悪い。


「准将さん、目が覚めたのね!」

「マリー、もう彼女を准将って読んじゃダメよ…。おはよう、歌姫さん。ここは安全よ、心配なんて何もいらないわ。」


後ろからハンコックの妹である、サンダーソニアとマリーゴールドが顔を出す。

彼女たちもまた、どこか不安げな表情であった。


「‥‥‥‥‥‥」


一方のウタも、身構えていた。

目の前の恋敵は、認めたくないが"女"としては強さも含めて、自分よりも格上であった。

だからといってルフィを渡すつもりなど微塵もないが。

そう考えるうちに、ハンコックが近づいてくる。


「…気分はどうじゃ?」

「………え?」

「そなたはこの島に来てから、丸二日は寝ていたのだ。今何か料理を持ってこさせる、もうしばらく横になっておれ。」

「おう、ありがとうな!ハンコック!!ソニアとマリーも!!」


一方的に話を終えたハンコックが、妹たちを連れて部屋から出ていく。

再びルフィと二人っきりになるウタ。

そう、二人っきりなのだ。


(‥‥あのハンコックが、ルフィと二人にしてくれた…?)


まだ夢の中なのだろうか、そう考えるウタのお腹から、可愛らしい音がするのだった…。




To Be Continued




補足

このssのルフィとウタは、ボア三姉妹とアマゾン・リリーの女たちと面識があります。

詳しい経緯は、「ハリケーン 海軍本部に接近!!」をご覧ください。






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