海のプリンセス、上陸
モテパニ作者『○○の海は非常に荒れており…』
ダークドリーム「(この時間ってニュースばっかりだなぁ)」
ある日の夕方頃の品田家では、テレビっ子のダークドリームが居間でテレビを観ていた。
そこに拓海もやってくる。
拓海「なんか気になるニュースとかやってたか?」
ダークドリーム「別に、○○って場所の海が荒れてるって言ってたくらい?」
拓海「げっ、まじか…」
ダークドリーム「?」
それを聞いて拓海は苦い顔をする。
ダークドリームとしては大変そうだなーと思いながらも対岸の火事程度に思っていたのだが…
ダークドリーム「どうかしたの?」
拓海「いや、確かそこちょうど父さんが漁に出る予定って聞いてたから」
ダークドリーム「父さんって門平のこと?」
拓海「そうだけど、え?いまさら?」
ダークドリーム「だって私この家に来てからしばらく経つけど未だに門平と直接会った事ないし、漁師ってそんなに忙しいの?」
拓海「あーまあ、忙しいのは間違いないんだけど、父さんはそれに加えて故郷の仕事も始めたからなぁ。ちょうどダークドリームが来る少し前に」
品田門平、本名シナモンはクッキングダムという異世界出身者。
それが昔貶められその世界での立場を失ったゆえにこの世界へやってきて家庭を築いた。
それでも彼は故郷への愛を失わず和解後故郷へ尽力することを選んだ。
そしてこちらの世界の大切なものも手放すことなくどちらも大切にしようとしている、のだが…
拓海「父さんが復帰したタイミングで国の大臣みたいなやつがクーデター起こした罪で投獄されちまったからな。そいつが悪いのはほんとだけど、そいつが国を回すために仕事たくさんしてたのもほんとだからな」
シナモンの兄弟子にしてかつてのクッキングダム近衛隊長フェンネル。
抱えていた内心はどうあれ彼が有能だったのは間違いない。
そんな彼の穴を埋めるのは容易ではなく、クッキングダムの人間だけでは補えなかった。
だからこそ新しく入ったシナモンにもお鉢が回ってきたのだが、いくらシナモンといっても内政に関しては長く従事してきたフェンネルに一日の長がある。
したがってただでさえ多忙な漁師と重なるように負担を抱えてしまっており、以前にも増して帰れなくなってしまっている。
拓海「まあそんなわけで中々帰れないみたいでな」
ダークドリーム「そっか、会えるのはいつになることやら」
未だ叶わぬ家長との対面を望むダークドリーム。
しかしこれを物語においてフラグと呼ぶ。
狙い澄ましたかのように話の終わったタイミングであんが居間に入ってくる。
あん「大変よ!たっくん!ダークドリームちゃん!」
拓海「母さん、どうしたの?」
あん「門平さんが帰ってくるの〜!」
その回収はすぐされるのだった。
〜〜〜
シナモン「ただいま〜!我が愛しの家族たち〜!」
あん「門平さ〜ん!」
シナモン「あんちゃ〜ん!」
再開とともに二人は手を取り合い情熱的に見つめ合う。
おそらくニチアサ仕様で無ければチュッチュしていたかもしれないお熱っぷりだ。
拓海「おかえり父さん」
シナモン「拓海、ただいま。おっと、そっちの子は」
拓海「ほら」
ダークドリーム「わかってるから…は、はじめまして、ダークドリームです!」
シナモン「こうして直接話すのは初めてだね。僕は品田門平。よろしくね」
ダークドリーム「よ、よろしく…」
シナモン「新しい家族としてきみを歓迎するよ」
ダークドリーム「ッ!?…その、いまさらだ、…ですけど私が家族でいいんでしょうか…?」
拓海「ほんといまさらだな。いいに決まってんだろ」
そう不安そうに門平に告げるダークドリームの言葉を門平ではなく後ろの拓海が答えた。
ダークドリーム「拓海…」
拓海「つーかいまさらどっか行くって言われても困るぞ。寂しくなる」
あん「そうね、ダークドリームちゃんがいない生活なんてもう考えられないもの」
シナモン「もちろん僕もさっき言った通り歓迎だよ」
品田家の暖かさに涙ぐむダークドリーム。
もちろん悲しさではなく嬉しさだ。
ダークドリームが涙を拭うとふと門平の後ろの廊下へのドアが開いていることに気づく。
そしてドアの向こうに誰かが隠れていることも…
ダークドリーム「門平、後ろにいるのって…?」
シナモン「あ!ごめん!入ってきて!」
???「あ、すいません。なんだかお邪魔してはいけない気がして…」
あん「門平さんこの子は?」
入って来たのは凛々しく整った顔立ちをしており大人びた容貌、しかしまだ大人ともいえないような幼さも少し残っているそんな女性だった。
高校生くらいだろうか?それが拓海の第一印象だった。
ダークドリーム「隠し子?」
それに対してダークドリームがかなりの爆弾を投げつけた。
つい今し方家族全体の輪を繋げたばかりだというのに。
拓海「ダークドリーム!今すぐ取り消せ!」
拓海が焦っている様子にやっぱり父親を慕ってるんだなと呑気に拓海に対して微笑ましさを感じているダークドリーム。
しかしそれは違う。
あん「ダークドリームちゃん」
ダークドリーム「え?」
あん「そういうのはよくないと思うの」
ダークドリーム「」
ダークドリームはあんの顔を見て悟る、これは地雷を踏んだと。
拓海はダークドリームを案じていたのだ。
ダークドリームはこの日言っていい冗談と悪い冗談があることと、普段怒らない人が怒ると怖い事を習った。
〜〜〜
???「あの、なんだかすみません…私のせいで大変なことになったみたいで」
拓海「いやまあ、あいつの自滅なので…」
あの後ダークドリームはあんに別室に連れて行かれ、その間待たせるのも悪いので拓海は先に門平の連れてきた女性を紹介してもらうことになる。
シナモン「改めて彼女は海道みなみさんだ」
みなみ「初めまして」
拓海「あ、どうも。品田拓海といいます」
拓海は緊張しながら挨拶する。
拓海の周りには女の子が多いが、初対面の美人相手にはさすがに緊張する。
みなみ「あまり固くならないでいいですよ。品田さ…これでは被ってしまうから…門平さんからは話は聞いてますが、私の方が年下ですから」
拓海「え!?」
シナモン「ああ、いい忘れたが、彼女はまだ中学二年生で拓海より年下だ」
拓海「え、えー…?」
目の前の女性が自分より年下、ゆいたちと同学年である事実に驚きを隠せなかった。
拓海「てか父さんはなんでそんな子を連れて来たんだよ?」
シナモン「ふむ、それについては僕が急に帰ってくることになった理由から説明しよう。じつは僕が漁に出る予定だった海が今荒れていてね」
拓海「ああ、そういえばニュースで言ってたみたいだな」
シナモン「知っているなら話が早い。幸いにも船を出す前だったから一旦中止になったんだが、再開の目処がまだ立ってなくて様子を見つつ一時帰宅となったんだ」
拓海「そこまではなんとなくわかるよ。でも海道さんを連れて来たのに繋がるのがわかんないんだよ」
シナモン「それは…」
みなみ「待ってください、ここからは私が」
語り出そうとする門平を遮りみなみが語り始める。
みなみ「私は、将来海の生き物のためになる仕事を志しているんです」
拓海「はあ…」
みなみ「なので今は海洋学者で海の生き物の獣医である北風あすかさんの元でいろいろ学んでいるんです。それで今回フィールドワークに連れて行ってもらえるはずだったんですが、私たちが乗るはずだった船の出港も中止になって…それで私たちも待機になったんですけど、その間もあすかさんにはやることがあって私の方は手持ち無沙汰になり…」
シナモン「そこに僕がうちで預かるのを申し出たんだ。僕は北風さんと知り合いだったし、海道さんの実家よりうちのゲストハウスの方が港に近かったからね」
拓海「なるほど?」
ところどころ疑問がないわけではないが、それは置いておこう。
どうせ作者が辻褄を合わせきれてないだけである。
シナモン「それで彼女はいちおううちのゲストハウスを借りる形式になるが、さっきも言った通り彼女は未成年どころかまだ義務教育すら終わらせていない。勝手を言っているけれど彼女の面倒を拓海たちにも見て欲しいんだ」
拓海「というか、学校はどうしてるんですか?」
みなみ「私の通うノーブル学園は夢を叶える事を応援する学園なので確かな理由があれば融通がきくんです」
拓海「へえ」
シナモン「後であんちゃんたちにも聞くが、この話受けてくれるか拓海?」
拓海「まぁ、俺は別にいいよ。年頃の女子相手だしどうせ母さんやダークドリームの方が関わり多そうだし」
話がある程度まとまると…
あん「あ、話は終わった?」
ダークドリーム「えぐ…ごめんなさいぃ…」
そのタイミングでお説教が終わった二人が戻ってくる。
戻ってきたダークドリームは涙ぐんでいる。
もちろん嬉しさではなく悲しさだ。
拓海「あー、お疲れさん」
ダークドリーム「もう門平の不貞は疑いませんぅぅぅ…」
あん「それでこの子は?」
シナモン「あっ、えっと…」
その後あんとダークドリームにも同じ説明をした。
〜〜〜
ダークドリーム「へー、全寮制の学校だったんだ」
みなみ「ええ、けれど他の寮生や寮母さんが一緒でとても賑やかな生活でした」
あれから割とすぐ立ち直ったダークドリームはさっそくみなみとガールズトークをしていた。
拓海「で?なんで俺の部屋でやってんだよ」
ただし会場は拓海の部屋。
ダークドリーム「だって私とみなみだけ仲良くなるより拓海も一緒に仲良くなった方がいいじゃない」
拓海「…まあ理屈はわからなくはないが。海道さんもいきなり男の部屋入ってきてよかったんですか?」
みなみ「えっと、確かに少し緊張しますけど…二人きりではないので」
肝が据わっているのか天然なのか、まあ拓海はともかく先程まで説教されてべそをかいていたダークドリームを警戒しろというのも難しいのはわかる。
ダークドリーム「よし!じゃあ次は恋バナしましょ!」
拓海「…お前に恋バナなんてできるのか?」
ダークドリーム「ふふん、甘く見ないでよね。これでも私は何度も恋バナしてきた経験がある恋バナマスターといっても過言じゃないんだから」
拓海「(恋バナマスターって…)」
ダークドリーム「じゃあまずはみなみから」
みなみ「え!?」
自信満々だったのでてっきりダークドリーム本人から話すと思っていたら急に振られてびっくりしてしまうみなみ。
みなみ「ええと、ごめんなさい。今までお付き合いした相手がいなくて」
ダークドリーム「あら、美人なのに」
みなみ「ありがたいことに慕ってくれる人たちはたくさんいてくれたのだけど…ああ、でも一人熱心にアプローチしてくれる男子がいますね」
ダークドリーム「へえ、どんな相手?」
みなみ「幼い頃からの付き合いで、いちおうは幼馴染でしょうか?」
拓海「!」
幼馴染というワードに拓海が反応する。
ダークドリーム「で?その男子とは?」
みなみ「さっきも言った通り付き合ってるわけではありません。気持ちが嬉しくないわけではないんですけど、そういった気持ちにはなれなくて」
拓海「くっ」
想いが実っていないみなみの幼馴染に同情する拓海。
みなみ「それでは次はダークドリームさん」
ダークドリーム「ええ、任せなさい。…………………………………………………………」
みなみ「?」
拓海「はぁっ…」
ダークドリーム「………………………………」
拓海「おい恋バナマスター」
ダークドリーム「…ちゃうねん」
拓海「ちゃうんか」
ダークドリーム「だって普段ましろと恋バナする時は自分の番なんて回ってこないし…」
拓海「それでよく恋バナマスターなんて名乗れたな」
みなみ「ふふっ」
そんなやりとりを見てみなみは笑う。
みなみ「あ、ごめんなさい。可笑しくて」
ダークドリーム「ふっ、狙い通り」
拓海「嘘つけ」
みなみ「えっと…お二人は兄妹では無いんですよね?」
拓海「まあ見ての通り」
みなみ「見ていたらむしろ兄妹にしか見えなくて…少し実家を思い出してしまいます」
ダークドリーム「みなみにも兄弟とかいるの?」
みなみ「ええ、兄が一人。お二人ほど砕けたやりとりは出来てませんけど」
みなみの表情が少し陰る、家族を思い出してほんの少しホームシックに罹ってしまったようだ。
それにダークドリームは
ダークドリーム「じゃあここにいる間は拓海をお兄さんの代わりにしたら?」
みなみ「え?」
拓海「は?」
ダークドリーム「私が許します」
拓海「いやどういう提案だよ?」
ダークドリーム「だってみなみは家族の元を離れてもう二年くらい経ってるって話だし、拓海だってお兄さんと同じ年上の男なんだから代わりくらいにはなるでしょ」
拓海「お前な…」
みなみ「だめですか?」
返ってきた言葉に拓海は驚く。
ダークドリームが無茶を言っていると思ったらまさかの前向きな発言をみなみは放った。
拓海「えー…逆に海道さんはいいんですか?」
みなみ「二人を見ていたらもう少し近い場所で見ていたくなって」
どのみちここでお世話になる事実は変わらないのだ。
それならいっそうんと仲良くなりたい、そう思わせるものが拓海たちにはあった。
ダークドリーム「まあこう言ってるんだし拓海はどうしたいの?」
拓海「まあ海道さんが…」
みなみ「みなみ」
拓海「え?」
みなみ「どうせなら名前で呼んでください」
拓海「…そうだな。わかったよ、みなみ」
みなみ「はい、兄さん」
ダークドリーム「決まりね、拓海とみなみが兄と妹。そして私が長女」
拓海「お前は三女だ」
ダークドリーム「誰と誰の後!?」
みなみ「くふふ」
こうして品田家に一時的にではあるが新たな仲間が加わるのだった。
〜〜〜
カイゼリン「長女は私だ」
スキアヘッド「カイゼリン様?」
同時刻、遠く離れた場所でそんな独り言を言う者がいた…