浮かれ秋待つエース概念
トレエスに脳ミソ焼かれまん民秋を待つ──
去年の今頃は、合宿に行っていた頃か。
あの頃は、まだシービーのライバルは自分だと、そう世間に知らしめたい。カツラギエースがここにいる、って認めさせたい。その一心で、努力してがむしゃらにやっていた。
だから、天皇賞を初めとした秋のG1戦線が始まるのを、あたしが戦える時が来るのを心待ちにしていた。
でも今は違う。
トゥインクルシリーズを、三年間を、駆け抜けたあたしは、その後もシービーやルドルフ達とのレースを続け、だれかの『エース』としての背中を見せ続けてきた。
今のあたしに、焦りや悔しさ、怖いものはない。
そう、今のあたしは、ただ単純に、秋が来るのを楽しみにしている。
それは、ウマ娘としてだけじゃない。
・・・一人の女としても、だ。
この夏の前と後で、一番変わったこと。
それはあたしと、トレーナーさんとの関係だ。
あたし達はこの前、恋人になった。
もう既に何回かデートもしてる。
なんというか、トレセンに来る前も、来てからも、自分にそういう女の子らしいことが有るなんて想像してなかったからか、自分でも分かるくらいに浮わついてしまっている。
今だってそうだ。
そろそろ秋になるんだな、って思った時に、あたしの頭にあったのは、G1戦線のことでも、ライバル達との勝負でもなく、トレーナーさんと何が一緒にできるかな?ってことだった。
一緒に秋物の服を買いに行ったり、紅葉狩りに行っても良い。
或いはトレセンの畑に夏前に植えたサツマイモも、間もなく収穫できるから、一緒に採って焼き芋でもしようか。
なんてことばかり考えてしまっている。
こんな自分じゃダメなのも分かってるし、何とかしなきゃとも思ってる。
でもトレーナーさんと出かけたり、一緒にいることを考えてしまうと、どうしてもそんなことばかり考えてしまう。
──仕方がない、今年も暑いからな。
きっとこの熱に浮かされてしまっているんだろ。
誰にするでもない言い訳を、自分に言い聞かせる。
だから早く、秋になって欲しい。
この浮わついた気持ちを沈めるためには、秋の涼しさと、あたしのこの願いが現実に起きればきっと、満足する筈だ。
だから、ああ、早く来ないかな。
──あたしはそう願って、秋を待つ。