洗面器
「オラッ!余計な手間取らせやがって!」
「いやぁ痛い⁉︎離してぇ!」
ガタイの良い大男が紅白の女の後ろ髪を引っ張りながら部屋に入ってきた。
「こいつか?商品たちを扇動して脱走しようとしてた女は?」
部屋の奥に座ってるヒューマンショップのボスをウタは睨みつける。
この男たちに連れ去られてから2ヶ月、ウタはこの場を脱出しようと仲良くなった同じ商品扱いの人たちと脱出計画を立てていた。だが、脱出出来るとは思っておらず成功したところで生きる術がないと彼らは諦めており、せめて自分達の待遇改善に利用できると商品たちにウタの計画を密告され売られてしまったのだ。
「本来なら二度と表に出れない顔にしてやるんだが…お前は上玉だ。だからテメェの罰はこいつだ…!」
喚き散らすウタを無視しながらボスは手下に指示を出し、ウタを奥の部屋に連れて行く。
「離してよ!離し…え?」
ウタは連れて行かれた部屋を見てポカンとした顔をする。
部屋には真ん中にテーブルしかなくその上には水を張った洗面器が置かれてるだけだった。
「きゃッ⁉︎ちょっと…ウッ!」
ガチャッ
突然後ろに手を回され手錠をはめられた瞬間力が抜ける。海楼石入りの手錠だ。
ボスが後ろでニヤニヤ見てる中、手下がウタの髪を乱暴に掴んでテーブルの前に立たせた。
「え、え…?う、うそ…やめ…ガボォッ⁉︎」
ウタは何をされるのか理解した瞬間、青ざめやめるよう懇願しようとした瞬間洗面器に顔を押し付けられた。
「オゴォッゴボボボッ⁉︎ゴェエェッ⁉︎」
しょっぱい⁉︎
息ができず、踏ん張ろうにも何故かさらに力が抜け思わず水を飲んでしまったウタはこれが海水だと気づいた。
嘘っ…⁉︎こ、殺す気なの⁉︎…いや、誰かタスケテ…⁉︎
力いっぱい頭を押さえつけられ息ができないウタの体は、やがて痙攣し出し失禁もして黄色い液体が脚股から床に垂れ水溜まりを作っていた。
意識が飛び自分を捨てた父や幼馴染の少年の顔が浮かび、
あっ…死んだ…!
と思った瞬間、洗面器から顔を出され床に投げ捨てられる。
「ゴホッ⁉︎ゴホッ…うッ、おゲェえええぇッ⁉︎」
倒れ込んだまま、ウタは床に飲んでしまった海水を胃液ごと全て吐き出す。
「よし、おめーらあと2回…いや3回やっとけ。」
嘔吐した海水に突っ伏して息を整えていたウタは、つまらなそうにタバコに火をつけて煙を吹かすボスの言葉を聞きガタガタと震え出した。
嘘でしょ…⁉︎
まだやるの…?やだ…ヤダヤダヤダヤダヤ
ガシッ!
再び髪を掴まれた瞬間、ウタは泣き叫び許しを乞う。
「いやぁあああぁああッ!ごべんなざいごべんなさいごめんなさい⁉︎もう逆らいません!いうことちゃんと聞きます!!いっぱい商品としてお勉強もします!!!だから殺さないでぇえぇえええぇッ⁉︎ガボォッ!!!!」
再び大男に洗面器に顔を押しつけられるウタを流し見しながらボスは部屋から出て扉を閉め、今月の帳簿計算の仕事に戻るのだった。
麦わら帽子を被った海賊と再開するまであと半年…
終