泥中の蓮

泥中の蓮


(…私は、何を…? …ぅあっ…♥)


前後の記憶がぼんやりしている。

下腹部に気持ちの良い振動を感じたので視線を向けると、自分の上に見知らぬ全裸の男が覆い被さり、ぱんぱんと腰を打ち付けていた。胸を揉みしだいて、キスマークや歯型をつけて、思う様蹂躙を愉しんでいる。

周囲にはそれ以外にも沢山の全裸の男がいて、何人かはチンポをシコって私に白濁した熱い飛沫をぶつけていた。


(…あ、思い出した)


ハワトリアで行きずりの男を何人か引っかけ、自室に招待したのだ。そうして始まった激しいセックスの中で、気を失っていたらしい。


(…私は…)


───私はかつて、彼の……藤丸立香の敵だった。「汎人類史は、この上なく無様に滅びよ」と彼の前で言い捨てたことすらある。…それを今更になって、後悔し始める自分がいた。

汎人類史自体は今も嫌いだ。“モルガン”がブリテンを治めることを認めない世界なのだから。けれど……“モルガン”を認めないブリテンとリツカの帰りたがっている日常は直接関係がない。私はそれを汎人類史という言葉で一括りにし、「汎人類史などどれも唾棄すべきもの」と侮辱したのだ。

…リツカの器は大きいから、その辺りを蒸し返すようなことはしない。けれど、不安になってしまう。血に曇った妖精眼では発言の裏の何もかもを見通すことができない。精々“色”が見える程度だ。今回の一件だって、リツカは私の行動で大いに後悔した。彼に楽しんでもらうためのブリスティンだったのに、ここに滞在した四日間はいつの間にか「クロエを犠牲にして得た、喜べないもの」になってしまった。…私が、クロエのことなど知らぬとリツカを勝手に引きずり込んだから。

拭いきれない不安を掻き消すのに、男のチンポはうってつけだった。しゃぶって、生セックスして、全身をザーメンで穢されて…。そうして私は、安心感と引き換えに誰にも自分を誇れない下衆に堕ちた。

…いや、堕ちたのではない。元から下衆だったのだ。好意を抱く相手を信じることができず、自分のエゴを押し通し、挙げ句快楽に逃げる臆病者。妖精國に君臨していた時から、ずっと変わらない私の醜さ。


(───ああ。そうか)


幾度目かのザーメンの雨の中、唐突に理解する。私もウーサー君を殺した連中と同じ、自分勝手で低俗な妖精の一翅だったんだ、と。

───だってそうだろう? 行きずりの男に股をあっさり開いて、両手や口でチンポをしごいて、知らない男のチンポをまんこやアナルできつく締め付けて。そうやって楽しそうにアンアン喘ぐ雌豚のどこが高尚なのか。

───そもそも……女王として君臨する傍ら、私は何をしてきた? 牧場から人間の男を見繕い、何人もの男の精を浴びてきたではないか。予言の子とは比較にもならない、薄汚れた糞女。それが私の正体だ。汚物が人間の妻などと、何を浮かれていたのか。

───ごめんね、ウーサー君。ごめんね、リツカ。私みたいな穢れた女、二人には相応しくなかった。私はウーサー君の理想を踏みにじるような女王になった。その上で、リツカの帰りたがった日常すらも踏みにじろうとしたんだ。二人をこれ以上ない程侮辱したあばずれが誰かに愛される資格なんて、始めっからなかっ───。


「イグぅ゛ぅぅぅうううッッ♥♥♥♥♥♥♥」


仰け反りながら、舌を突き出して絶頂する。続くはずだった謝罪の言葉は、快楽の奔流に飲み込まれて呆気なく消えていった。


───


「あは、あはは……あははははっ…」


脅し用の映像(そんなものがなくても私は股を開いてしまうのだが)を撮った男達が部屋を去った後、独りぼっちで乾いた笑いを上げる。涙が溢れて止まらない。

暴力ばかり強くてお嫁さん力はゼロ、おまけにすぐチンポに負ける薄汚いクソビッチ。こんな私がリツカに相応しくないことなんて、誰に言われるまでもなく分かってる。なのに私は、リツカの隣を望んでしまう。手遅れになってから気づいたウーサー君の時みたいに、後悔したくなかったから。

───リツカ、我が夫。

───こんな薄汚れた私でも、そばにいて良いですか?

Report Page