泣かない人達へ
すべての謎が解けた気がした。あんなにも強いあの人が、あの人達が、揃っていなくなった理由。
「……っ、うそつき、」
目が覚めて、最初に出た言葉はそんな子供じみたものだった。俺を何十年も騙しつづけていたことか、あの人を、拳西さんを、騙し続けてその挙げ句傷つけたことか。
どちらにしても……
許さない、と、告げたはずの言葉は何故か声にはならなかった。
嫌いだ、大嫌いだ、嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ…っ、
ああ…、どうしょうもなく、
大好きだ、今この瞬間も。
でもやっぱり、嫌いだ。
忘れてたのに。
世界が苦しいモノだって。
世界が悲しいものだって。
世界が怖いものだって、
忘れかけていたのに。
そんなことを思い出させる貴方のことなんて‥…。
「嘘つき…」
忘れてなんかいなかった。
あの人を突然奪った世界の悲しさを。
あの人が突然いなくなった悲しみを。
いっそ死んでしまいたいと言わなかったのはただ、それを言えばあの人が死んだと認めることになるからだった。
「けんせ…、」
拳西、さん…。
ねぇ、拳西さん
『修ね…、けんせーみたいに、』
泣いてる人助けてあげられる、強い死神さんになるからね!
そう言いながら、俺は一度も、泣いてるところを想像したことなんかなかった。
拳西さんが泣いてるところも、東仙さんが泣いてるところも…。
『バイバイなんてしたら、俺のほうが泣くぞ』
悪意に曝されて何も言えなくなった俺に、貴方がくれた言葉。
大切な人達と不意に『バイバイ』した時、それでもきっと泣かなかっただろう。
そういう人だと、知っている。
東仙さんは、どうだったんだろう?わからない。
長く慈しみ育ててくれた東仙さんのことは解らないのに、あの人のことは解る気がする。
裏切られたこと、苦しかっただろう。
悔しかっただろう。悲しかっただろう。
部下想いの人だ。多くを傷つけた東仙さんを憎まないわけがない。
それでも……。
「…っ、ちゃんと、解ってるよ。けんせーなら、」
敵だと、殺して終わりにしようとはしない。罪は罪として、しっかり生きて償わせようとするだろう。どんな理由があっても恨みに身をまかせる人じゃない。
きっとそれを、
「あなたも解ってたから、六車隊長が怖かったんじゃないんですか…、東仙さん」
きっと、そうだ。
拳西さんは光の人だから、東仙さんが闇を抱えていたのなら、怖かっただろう。
大丈夫だ。できる。
だって俺の命は、拳西さんに救われた命だから。
できる。
だって俺を鍛え上げたのは東仙さんだから。
拳西(あなた)に救われた命で、東仙(あなた)に授けられた力で、
突然の苦しみと悲しみに襲われた拳西(あなた)ができなかったことをちゃんとやり遂げてみせるから。
本当はきっと『拳西(あなた)に止めてもらいたい』とどこかで思っていた、東仙(あなた)の願いを、
絶対、
絶対に、叶えるから。
そのためにきっと、俺はここにいる。
だって知ってる。憶えている。
この掌にたしかにあったモノを。
「だから……、できるよってっ、ゆって?」
おねがい、けんせー。
聞く者がいないのをいいことにそんなことを口にする俺は、やっぱりあなた達よりずっと子供のままだ――。