波止場の一夜
煙の臭いだ
私にとっては・・・ちょっと苦い、オトコの臭い
自身の荒い息遣いで目を覚ます
部屋の中の熱気の名残りで
気をやってからそれほど時が経ってないことは分かった
カラダにまだお互いの体温が残っている
耳を澄ませても聞こえるのは自分の鼓動と波の音だけ
彼は窓際の椅子に腰掛けて月を眺めていた
「・・・・・・」
「ね。葉巻 いつも吸ってるの?」
何の気なしに、舷窓の月明かりに浮かぶシルエットに問いかける
「・・・・・・」
やがて、薄い煙をゆっくり吐き出して彼が答えた
「こういう時だけ・・・かな」
「どうして?」
答える代わりにもう一度、筒を咥えて紫煙を吐き出す
何かを考えているようにも、何も考えていないようにも見える
「・・・女避け かな」
いたずらっ子の少年のような笑顔で彼は笑った
距離を詰めないオトナな答えだと思った
でもきっとその動機は子供
矛盾している
誤魔化されたかもしれない
本音か嘘か
大人か少年(コドモ)か
揺蕩う煙
きっと彼にとってはどちらも本当なのだろう
今
船を揺らしている波に 表と裏が無いように