河岸コエの禊

河岸コエの禊


ゲヘナ生・レッドガン部隊とハウンズの合同演習であるかもしれない邂逅



「こんにちは、万魔殿の議長さん……」

野戦演習の最中、情報の錯綜で混乱したマコトの隊。

 さらに悪い事に砲弾の至近着弾によりバラけた挙句孤立したマコトの眼前に現れたハウンズの一人。


「まあ、身構えなくとも良いです。ちょっと気を抜いてみませんか?乗り気ではなかったのですよね、貴女自身は」

そう言いながらキヴォトスでは見慣れない形の散弾銃を肩に載せた状態で気怠げながらヘルメットのバイザー越しに目を合わせるハウンズ。


「キキッ……そうだな、あまり前線に出るのは好かん……よくわかってるな、河岸コエよ!」


「ああ、やはり気付いておりましたか。お久しぶりですね、羽沼マコト議長」

ヘルメットの側面にあるスイッチを押すとフェイス部分が開いて顔が顕になる


「あれから随分と出世したようだな?我々の情報網でも中々見つけられなかった上、わずかに掴んだ最後の情報はブラックマーケットのギャングだったお前が……今やニューハウンズ歩兵隊長とはな!

 キキッ!口惜しいな、それ程の人材を逃してしまうとは……」


「留まっていてもヒラのままだったと思いますがね」


「卑下するな、優秀さは知っていたとも。

 知っているからこそ、不可解だ。何故、我々万魔殿から……ゲヘナから去った?」


「……なぜ、ですか……」


「そうだ、不可解だ!我々の情報網の一端を知っている上で十全に活用し逃げ回れる上に腕っぷしもある、この私の下で力を振るえた筈だったのにも関わらずだ。

 このマコト様が議長に就任してすぐ万魔殿の門を叩き、様々な活動実績も積み重ねた、更に訓練すれば空崎ヒナですら抑え込めたであろうお前が去った理由は何だ!?」


「それですよ」

一気に冷めたような声で応答するコエ、まるで海底火山が海水を吸い込んだ一瞬のようであって


あなたが!風紀委員会だの、権勢だの、銅像だの、宣伝ビラだの、嫌がらせだの、空崎ヒナだの!

 キョロキョロよそ見ばかりしているからでしょうが!!!」


「な、何ィ!?」

冷たい海水に触れた溶岩の噴出めいた怒気に思わずたじろぐマコト、だがコエは止まらない。


「私が何故貴女に投票したか!貴女を信じたか!貴女に希望を見たか!毛筋程も知り得ないでしょうね!

 貴女がわざわざあのゲヘナのリーダーに立候補した時、どれだけ望みを感じた事か!これでゲヘナに変化が訪れると信じた!だから万魔殿へ入った!

 しかし所詮、勝手に抱いた希望!虚像!思い知ったあの瞬間の絶望感!」

記憶の傷が開いたか右手の銃を落とし、食いしばるような口になるがソレは今にも喰いかからんとする猛犬のようである


「貴女がやったこと、やるよう命じたこと、全て何の意味があったのですか?気に食わない風紀委員会に嫌がらせをして何になったのですか?あのゲヘナ外にまで危害を加えるテロ部活共を抑え込んだ事は?取り締まるように命じた事はありましたか?

 貴女がご執心の空崎ヒナもそうです、やるだけやって手一杯……取り締まるだけで何もせず、制裁もない……どうせ数時間拘置所に居てオシマイ。混沌・自由とは無法の事なのですか?


 どうなんだ!万魔殿議長!羽沼マコト!貴様の思う自由、混沌とは無法無秩序の事か!?


この、権力欲の俗物がっ……はぁ、はぁ……いや、もう良い。聞く意味もない」


「………」

畳み掛けるような言葉の噴火を浴びせかけられ、どうしたものかと思案するマコト


「権力欲の俗物というのは訂正しましょう……貴様は教訓と反省を知るべき暴君だ!!」

怒号と共に左腕にマウントされたスタンバトンが展開される


「何をする気だお前は!」


「……度々外部の学校や組織と会談を行っていたのは良いでしょう、多少頻度は多かったですが外部との折衝は必要です。

 頻繁な予算の取り決めや急遽カットをしていたのも……まあ良いでしょう事実変な使い込みもあったし、テロ部活共を資金面から攻めていたと考えていましたから。

 だが貴様は、変革を求めた者を無いものとして扱った!


暴君め、叩き潰す以外の選択肢は無い!」

展開されたスタンバトンに電流が走り、左腕を引いた状態で下半身のバネをフルに利用し、まるで弾丸のような勢いで突進するコエ


「うおぉぉぉぉ!!?」

寸前で横っ飛びをして回避するマコト、そのまま一人分後ろにあった木の幹へ展開されたスタンバトンの芯が突き刺さる

 そして一拍を置いて眩い放電、刺さった木の幹に黒い焼け跡が残る


「貴様ァ!私を殺す気か!?」


「焼け焦げて思い知れ!私こそが貴様を信じた者の果てだ!」

バトンの芯がリロードされ、再び展開されると振りかぶって殴打にかかる


「ぬぉぉぉ!!」

ただでさえ膂力の差がある上に電流警棒という凶器で叩かれてしまえば一撃が致命打となりかねない、そんな連続殴打を繰り返し回避する事で一杯のマコト。普段であればまだやりようがあろう、しかし言葉の噴火を立て続けにぶつけられペースを乱された状態では精細に欠ける。


「貴女を叩きのめす、それを禊ぎとして私は進む!御覚悟めされよ!」

バトンを繰り返し振るい、意識をバトンに向けさせたところで足払いをかけてマコトを転倒させる


「まっ、待て!やめろ!」


「この一撃でやめるかどうかは決まる!」

転倒したマコトに上から叩きつけようと振り上げるが、横からの銃撃に阻止される


「話し込み過ぎたか、ゲヘナチームが来てしまった……」

姿勢を低くしつつ、スモークを撒いて取り落とした散弾銃を拾いに行き回収すると共にゲヘナチームがいたであろう場所に何度か銃撃しつつ遮蔽物から遮蔽物に移りながら離れていくコエ


「それではマコト議長、また話ができる日にでも会いましょう」

声だけがマコトに届き、姿は見えなくなる


「また面倒な奴が出てきたな………」

そうぼやきつつ合流するマコト、後にサボった挙句補足されたと思われて拳骨を見舞われたとか何とか。


「コエ!通信も繋げずに一体何をしていたの!」


「あ、いや……622、訳があって……」


「……何と無く理由に見当はつくけど、、あまり勝手すると品位が下がる。覚えておいて」


「肝に銘じておきますよ」

吐き出せたからか、幾分か晴れた気分で仕切り直しにかかる姿があった。


─────終



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