沢山騒いで、盛り上がって。
エロは無いです。皆仲良くラブホ男子会。
「男」を「牡」表記。
※
とある平日の昼下がり。静かに開く自動ドアを潜りながら控えめに「こんにちは」と挨拶をしながら入ってくる牡共。それらを先頭で引き連れるのは見知った顔の愚息。
「いつもので頼むわ」
「時間は?」
「あー……明日の、昼前まで?って、空いてる?」
「残念。空いてるよ」
昔は一丁前に驚いていたこのやり取りも今では慣れ切ったものとなって、5分も掛からず手続きを済ませられる様になった。
愚息の後ろで其々ビニール袋を持ちながらワイワイと話す牡共にこの場所で本来醸し出される筈の色恋がどうとか、性欲がどうとかの空気は一切ない。
鍵を渡し、ゆるゆると手を振りながら背を見送って、仕方なく近所にある馴染みの店にデリバリーを頼めば、店主の方も慣れた様子で「はーい」と返してくる。
平地で走る奴らと違って、障害を走る彼奴らは危険度の高さ故か世代の隔たりは全く無く全員が友人で、互いに教え合い、ライバルをしている。
今日だって少し前に行われたレースの祝勝会をやるのだろう。障害部がこの場所を使うのはいつだってその目的である。昔は、誰かの家で集まっていたらしいが、回数を重ねれば人が増えいつしか騒音の問題が出てきてしまい、結果的にある程度の防音が保証されるこの場所に白羽の矢が立った。
使われるのは毎回、巨大なモニターが設置された牡10人で使おうが問題無い大部屋で使用時間はだいたい12時間。その間にモニターでレースを見返して、持ち込んだ飲食物で腹を満たす文字通りのパーティー。
基本的に時間があれば必ず顔を出す既定のメンバーの他に、今日は珍しく知らない顔が何人かあった。愚息から聞いた事のある特徴を思い出すに前王者と、酒飲みと、ミッキー君だろう。それを考えるに今日は引退世代と現役世代が混ざったパーティーだから、もしかしたらいつもの12時間コースは空前絶後の盛り上がりをみせて伸びるかもしれない。
「そうしたら、助かるんだよなぁ」
あいつらは所謂太客で、尚且つ比較的ヤンチャなメンバーが多い癖に部屋をとても綺麗に使うからスタッフにも愛されている。だからこそ、集まりを許している部分もあるのだが。
頬杖を付いて、早くデリバリーが来ないかと形状的に視界が悪い受付から自動ドアを見つめる。そして、1人一本で頼んでいるチキンを本来の意味で酒池肉林している牡共の部屋に投げ入れてやろう。
「それが、トーチャンからのオモテナシだからな」
其々が買った物を持ち込んでいるとは言え、1人一本のチキンは物足りなくて、きっと文句を言われるだろうし、そうなったら俺は彼奴らに舌を出して煽ってやる。
そのやり取りも“いつもの”やつなのだから。