狸寝入りと冬の空(没バージョン)

狸寝入りと冬の空(没バージョン)





 ───スレッタ・マーキュリー、□□■■■…。

 ぼそぼそと、最後に届く彼の声。こめかみに何かが触れていき、ちゅっと小さな音がした。


 ぱちりと目が覚める。

 見回すとアパートのお気に入りのソファ。そして、近くのテーブルにはエランがいて、スレッタの胸がどきりと騒いだ。

「おはよう。よく寝ていたようだから、タオルケットを掛けておいたよ」

「あ、ありがとうございます」

 お礼を言うが、スレッタはどきまぎしてしまう。なんだか恥ずかしい夢を見た気がする。先ほどは覚えていたのに、不思議だ。もうほとんど忘れてしまった。

 でも最後、何だかとても気になる事を言っていたような、気になる感触と音がしていたような、そんな気がしてつい声に出してしまった。

「エランさん、寝ているわたしに何か言っていました?した事でも、いいんですけど」

「───言ってないし、触ってないよ」


 エランは少し目を見張ると、静かで優しい声で、そんな言葉を返してくれた。







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