沈丁花は枯れても香し
ねえスナッフィー。
こんな道端に落ちてたゴミみたいな俺に利用価値を感じて拾ってくれてありがとう。DFとして役に立ててるなら嬉しいな。
ねえスナッフィー。
本当はもっと一緒にサッカーしたくて、だから今シーズン引退が本当は寂しかったんだぜ?現役続行を選んでくれてありがとう。やっぱりスナッフィーは最高にクレイジーで、最高にサッカーが上手くて、最高に優しくて、最高な大人だ。
ねえスナッフィー。
スナッフィーが親友の命日の日だけは禁酒していた酒を開けてることも、俺の生まれ年のドン・ロレンツォを保管してることも、本当は知ってるよ。
俺が酒に何か嫌な思い出があると悟って酒をやめてくれててありがとう。
ねえスナッフィー。
スナッフィーは多分覚えてちゃいないだろうけど。俺は昔、酒に酔って出来上がってるスナッフィーに、今なら聞けるって思って、やましくて最低で最悪な質問をしたんだ。
「リーグ制覇以外の、スナッフィーの夢ってなんかある?」
俺がサッカーのジュニアユースチームに入ったばかりの頃、こんな俺が本当に世界に通用するようなプレイヤーになれるのかってどうしようもなく不安になって。
スナッフィーの夢の役に立てなかったらどうしようって思って。そんな質問したの。
そんなノータリンな俺に帰って来た返事が「俺がサッカー引退したらの話だと思うんだけど。ロレンツォが可愛いお嫁さんと子どもに囲まれて、厳しいサッカーの世界でキラキラと輝いてるのを見たいな。それが見れたら俺、幸せだろうなぁ………」
で、本当に嬉しかった。嘘でも嬉しかった。俺とキチンと目を合わせてくれて。俺の頭を撫でてくれて。あの時のつらくて苦しさのある多幸感のドラッグみたいなハグじゃなくて心の底からあったかくなるハグをしてくれてありがとう。
俺はまだ、自分の『幸せ』とかわからないけど。
俺はまだ、『幸せ』が一体何かをわからないけど。
スナッフィーがしあわせになってくれるなら、かなえてあげたいって、スナッフィーにおんがえし、したいって、おもってて…。
「あー!もー、カイザー出すの早いよぉー!!!」
「受精しちゃうくらい奥にたくさん注いでくれ〜って言って誘って来たのはロレンツォだろ?まあネスと俺の精液で全部ドロドロになってんだからどっちの子か分からないだろーけど。ちょ!♡あ゛ッ〜?!♡
締まりもっと緩めろ万力かよ…!♡」
ゆらゆら。ふわふわ。
酒でバカになった頭でバカみたいに媚びてバカみたいに盛ってバカみたいに喜んでたのに。
ぐらぐら。むかむか。
今じゃちっとも酔えなくて。狂えなくて。逃避なんざできずに現実しか見れなくて。
こんなどうしようもない男である俺の奥に種付けしても何も芽吹かないのに。
ミヒャとネス坊のスペルマを求める一夜限りでもいい女なんざ無数に居るだろうに。
こんな生産性のない行為をして、いや付き合わせて。
昔、「お前から誘って来たのが悪い」って言われるのが嫌だったけど、ムカついたけど。今回は本当に俺が誘ったことだから俺が悪くて。俺が、おれが。おれ…が……。
あぁ、やっぱ俺には、スナッフィーを幸せにすることなんて出来ねぇな。
女ならスナッフィーの子を産めたのに。
ミヒャの求めてくれたものを返せるのに。ネス坊を柔らかな体で慰められるのに。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
そんなもの理想論、絵物語、いや俺の妄想で。
誰もそんなこと、求めてなくて。
『俺』を心から求めてる人なんてきっと居なくて。
「だぁー、酒より深く、酔わせてよ。」
また、俺は逃げた。