決戦直前
「終わりが、きましたね」
連邦生徒会の建物の最上階に位置する執務室。そこに座っていた少女は、映像中継や監視カメラなどを見ていて状況を把握していた。
FOX小隊の敗北。カイザーの私兵部隊の撤退。デモによる建物周辺の占拠。
勝利という結果を手に入れた先生がこの建物へ歩いてくる姿を見ることができた。
クロノスが大きな音を立てながらヘリでその映像を映している。さながら英雄の凱旋だ。
この建物の中には、私以外にはカイザーの私兵や協力者しかいない。ほかの委員会の方々は別の建物に謹慎ということで送り込んである。
――そして、もちろん彼女たちは無能じゃない。今頃カイザーの手からは逃げれているだろう。もし難しい状態だったとしても、
ヴァルキューレの子を謹慎の際の護衛で数名送っている。信頼できるメンバーを選んでいるし大丈夫だろう。
椅子から立ち上がり、通信を入れる。
「カイザーの皆さん、絶対にここまで先生たちを入れないように。」
『……それはいいのだが、相手がいささか多くないか?』
「それを守ってこそあなた方でしょう。資金はもうお支払いしました。それも膨大な。できる限り抵抗してください」
『…チッ、貧乏くじを引いたか』
「それはあなた方の努力次第ですよ?」
そう伝え、通話を切る。
恐らくは30分も持たないだろう。
なにせ、先生の後ろには大勢の人たちが付いている。
私が侮辱し、寄り添うこともしなかったアビドスの方々。
私が切り捨てようとした、名もなき神々の王女と呼ばれていた少女。
私が理解せずに押しつけをしていた、トリニティで才覚を持って尚己自身の自由を求める人。
それ以外にもゲヘナの風紀委員長、レッドウィンターの革命家、RABBIT小隊 etc...
………想像していたよりも私は恨まれていたようだ。
それもそうだ。劣悪で醜い君主として活動し、普段は先生の腰巾着として小うるさいだけの存在だった私。
ただ権力だけを手に入れてたからこそふんぞり返っていた私。まぁ、それは恨まれて仕方ないだろう。
だがこれでいい。作戦が想像以上に効果を発揮していたと考えるほうがいいだろう。
『それで、私は何をすればいいの?』
感慨にふけっている私の下に通信が入る。
「…そうですね、まず最初にリオ会長、いままでありがとうございました。」
私の共犯者であり、とても似ているようで実は似ていない、ミレニアムのビッグシスターにお礼を言う。
『…まるで今生の別れみたいね。』
「気のせいですよ。あと、やることはもう終わってます。貴方は先生たちを待っていてください。」
『護衛用のAMASは役立った?』
「ええ。カイザーだけでは心配でしたから。それに、それ以外にもいろいろと。」
『……言いたいことはいっぱいあるけど、一言だけ言っておくわ。』
「それは?」
『魔王様、どうかその職務を頑張って頂戴。』
その言葉で、通信が途切れた。
魔王、そう。私がすることは魔王だ。しかし、実際のところ私は魔王なんて大それた存在ではない。
その話で繋がるなら、先生は勇者となるだろうか。だけど、勇者なんて柄じゃないだろう。
実際にそんなことをさせてしまったらあの人は背負ってしまう。そんなことはさせたくない。そのための準備もできている。
「……ふふ、やっぱり意気地なしですね私は」
ふと、自身の身体が震えていることに気が付いた。
化粧で顔はいつも通りにできている。が、それ以外はどうにもできなかったようだ。
深呼吸して、目を閉じて、開く。
私は死ぬ。銃で。もしくはガラスを割って外へ飛び降りる。
止められるかもしれない。が、もし止められても醜く逃げようとすることが重要だ。同情されてはいけない。
「私なら、大丈夫。…私なら大丈夫。…私ならできる。」
好かれてない、嫌われている私が消えるだけだ。
これからそのおかげでキヴォトスは今より平和になる。
無意識に、自分に言い聞かせるようにつぶやく。次第に震えは収まっていた。
が、その顔が今にも泣きだしそうな幼い少女の顔をしていたことは、彼女の親しい人間が一目見たらわかるようなものだった。
――終わりの足音が、唯一その部屋にある扉から近づいてきた。
笑顔で迎えよう。ラスボスは余裕をもって主人公を受け入れるべきだ。
そうして、彼女はいつもの笑顔で、入口の方へ向いた。