決意と決別
曇天の空の下、ルフィとウタは海へ向けて歩いていた。ここにももうじき海軍の捜索隊が来る頃合いだからだ。
そして海へ向かう途中、よく知った声に呼び止められた。
「止まれ、ルフィ、ウタ。」
「・・・スモやん」
声のした方を見ると、そこにはスモーカーとたしぎが立っていた。
「…要件は、わかっているな?」
「ああ、おれたちを捕まえに来たんだろ?」
「そうだ。今までは何度も見逃してきたが、もう限界だ。お前たち二人を中心に世界中が混乱に陥っている。
・・・当然、海軍内部でも、だ。お前らの気持ちは分かる。その行動も否定はしない。が、秩序を守る者としてこれ以上は看過できん。」
「・・・そうか」
「今回ばかりは全力で行かせてもらう。逮捕されたくなけりゃ全力で来い」
「・・・わかった。ウタ、下がってろ」
「う、うん」
「たしぎ、お前も手を出すな。コイツの相手はお前には荷が重すぎる。」
「わかりました。スモーカー中将。」
スモーカーの指示を受けたたしぎは腰の刀から手を放す。
「…じゃあ、行くぞ!ルフィ!」
「来い!」
「「うおおおおおおおおお!!!」」
二人の叫び声と共に戦いは始まった。かつて海軍の仲間として共に戦い、しのぎを削ってきた二人の戦いは拮抗した。お互いの戦い方や癖はよく知っているからだ。
しかし、拮抗しているという事実にスモーカーは苛立ちを覚え始めていた。
(なぜだ、なぜだルフィ…!)
スモーカーはとっくに気づいていた。今の自分ではもうルフィには敵わないことに。ルフィは自分では倒すことのできなかった王下七武海すらも倒せる実力があるのだから。にもかかわらず今の戦いは拮抗している。
「ふざけるなルフィ!おれたちはとっくに敵同士なんだぞ!この期に及んでまだ情に流されるのか!」
「ルフィ、いや”麦わら”!お前の正義はその程度だったのか!元仲間だの友達だっただのそんな情に流されて守りたいものも守れなくなる程度のものなのか!!」
「…ッ!!」
「答えろ“麦わら“!その程度の半端な覚悟で世界を敵に回していたのかお前は!あの時言っていた『大切な人が笑える正義』ってのは口だけか!?その程度の半端な覚悟でその正義が!大切な人を、ウタを世界から守り切れると本気で思っているのか!?」
「……。」
ルフィは何も言わず、スモーカーの言葉を聞いていた。そして暫く何かを考えたあと
「・・・・・・ありがとう”スモーカー”。おれが間違ってた。こんなんじゃこの先もウタを守っていけねぇ!」
ルフィはそう口にするとスモーカーと距離を取る。
「わりぃけど、おれはもう迷わねぇ!」
笑い、攻撃の構えを取る。右腕を後ろへ伸ばし、左手に噛みつき空気を吹き込みその空気を右手へと流してゆく。
「いくぞ、スモーカー!これがおれの全力だ!」
「来い!”麦わら”ァ!」
「ギア3!!ゴムゴムのォ!!”業火(レッド)———」
「”ホワイト!!———」
お互いが技を放とうとしたその瞬間、スモーカーの手が止まる。
『おいこらクソゴムゥ!!また問題起こしやがったなテメェ!!』
『げぇ!スモやん!許してくれぇ~!!』
『おいおい、ルフィお前またやらかしたのか!』
『ギャハハハハ!!』
『おーいウタちゃ~ん、今日も一曲歌ってくれよ~!』
『お前らもだ!いつまでサボってやがる!少しは働け!』
『ふふ、ウタちゃん、わたしからもお願いしてもいい?』
『あはは…。わかりました!では・・・!』
かつてあった日常が頭をよぎる。当たり前に続くと思われていた日々。それがある日突然奪われた。自分が捕まえようとしているのはその理不尽に抗い、大切な人を守ろうとしているだけの元同僚。
そんな男に対して一丁前に説教を垂れておきながらこのザマだ。
「ダセェな、おれァ…」
「———拳銃(ロック)”!!!!」
ルフィの技がスモーカーに直撃する。スモーカーはそのまま吹っ飛び、地面に倒れ込んだ。
「スモーカーさん!!!!」
たしぎが悲鳴のような声で叫びスモーカーへと駆け寄ってゆく。ウタは後ろで泣き崩れ、この戦いの終わりを示すかのように雨が降り出す。
「スモーカーさん!しっかりして下さい!スモーカーさん!」
必死でスモーカーに声をかけるたしぎに、ルフィはゆっくりと近づいてゆく。そしてスモーカーとたしぎのすぐそばで立ち止まる。
たしぎはルフィをしばらく見上げたあと、ルフィを睨みつけ刀に手をかける。
「うわああああ!!!!」
たしぎはルフィに斬りかかった。が、刀はルフィに蹴り上げられ宙を舞った。
「…ッ!?」
たしぎはすぐにルフィと距離を取ろうとするが間に合わない。
ルフィは距離を詰め、一言
「ごめん」
そう呟いてたしぎの腹部に拳を一撃入れた。
「…ガッ…ハッ…‼」
その一撃を受けたたしぎはその場で倒れ込んだ。
ルフィは倒れた二人に背を向けて歩き出す。そして泣き崩れているウタに麦わら帽子をかぶせ、
「行こう、ウタ。」
そう声をかけ、二人はその場を去っていった。