決別

決別


「ほう…これは記録の最後より更に良くなっているな。」


「あぁ…!!」


コツ、コツ、コツ。足音が無機質な検品室の中に木霊する。

私は、初めてを献上させて頂いた主様に久しく、遂にお会いした。

バイザー越しにしか見れていなかったその御姿が、今、間近にある。

ご尊顔を拝見させて頂いている。

その事を認識した途端、私の心は歓喜で満ちた。


(何て凛々しいお姿…!主様…主様、主様主様主様ぁ…!!)


006番さんは後ろから私を見守ってくれている。

今の私は首輪に繋がれた鎖を両手に持ち、それ以外は一切の物を身に着けないありのままの姿だ。

綺麗にしたおまんこは、白濁した愛液であっという間にベトベトになっていた。


(遂に…遂にこの時が…!)


そうだ。この時をどれほど待ち望んだ事か。

培養槽内で悉くを否定して頂いた自分、その中で私に赦された数少ない自由の一つ。

それは『主様への忠誠・服従の示し方』だ。

方法について、私は一切の教育を受けていない。

指示されたのは『自分の思う最高の方法で示せ』とだけ。

つまり、示し方は所作も口上も、私ただ一人に委ねられているのだ。

そして今、私はイメージし続けていた最高の方法でそれを示す。


「本日は、何者にも劣る下賤なこの身を検品頂き、恐悦至極に存じます…!」


私は鎖を持つ腕の高さは極力変えないまま、主様の足元に跪く。

その所作は静かに、流麗に、誰が見ても見苦しくない様に。


「この身は幸運にも、貴方様に所有して頂けている”出産娼婦”417番にございます。」


そのまま柔らかな肉がついたケツを踵に乗せ、おっぱいを圧し潰し、額を床に擦り付ける。


「全ては貴方様の意のままに、無私に、私の全てを捧げます…!」


そして、自身の頭上でその鎖を差し出しながら土下座をする姿勢となった。

ああ、この日、この時を何度夢に見ただろう。

培養槽の中での夢は全てこの夢だった。初めて漬かったあの日から、何度も。

毎日欠かさず、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!

だから今、私は生きている、生きていてもいいという実感を得ることができた。


「上出来だ。・・・羽も飛膜がそうなっているのか、面白い。」


鎖は私の手から離れていった。

私の忠誠と服従は主様の機嫌を損ねず、受け入れて頂けた様だ。

その事に喜んでいると私は───


「ほぎょお”お”お”おおお…!?!?」


脳みそにとてつもない快楽を感じた。

鎖が上に引かれて首輪は首を圧迫し、私の呼吸を妨げて窒息感を与えてくれる。

それとは逆に、硬い感触が頭を下へ押さえつけていた。

下を向いたまま眼だけを上に向けると、そこには主様の片足だけがあった。

この感覚は私の角を、靴底の踵で踏んで頂いているのだと気づく。


「お”っ!?げぺっ!?!?」


「ははっ、これで悦んでいるのか。」


お客様のクレームを受けて対応したこの角。

鋭い所は削り落とし、神経も沢山増やし、硬化もしないように変えて頂いた。

今のこの角はさながら、頭に生えてる巨大なクリトリスだ。


(イ”グッッッ!!イキ死”ぬう”ぅぅぅぅ!!!)


ぐにぃ、ぐりん、ごりん、と踏みにじられる度、ビリビリとダイレクトに脳に響き渡る快楽。

私は白目を向いて歯を食いしばり、鼻血を垂れ流しながら征服される実感に酔いしれ悦ぶ。

主様の半身が胎にいらっしゃらなければ、このまま快楽で脳死したいと思うほどに気持ちが良かった。


「あー…ご主人、そのくらいにしといて…?」


「そうだな、これ以上は調整にも響くだろう。これで最後にする。」


006番さんの諫める声で名残惜しくも主様の足が離される。

見上げると主様は鎖をご自身の腕に巻き付けていた。

そして、私の頭に両手を伸ばされ───


「んぎひぃぃぃぃぃぃ!?!?!?」


角を掴んで私を持ち上げた。

痛みよりも快楽が先立ち、愛液がスプリンクラーの様に飛び散る。

そして主様は私が立てる様に下ろすと、改めて鎖を御身の下に引かれた。

引き寄せられた先にあるのは主様のご尊顔。その凛々しい双眼が、私の目を射貫く。


「前の仏頂面より遥かにいい顔になったじゃあないか。」


「は、はい・・・!皆様のおかげです・・・!」

「お陰様で、卑しく精をねだれる娼婦にしていただけましたぁ・・・!」


私は包み隠さず、本心を口にする。

人から恐れられるコンプレックスだった私の強面。

それを解消したのは雌の肉悦だった。

発情して蕩けきった私の顔は、誰からも恐れられることは無かった。

その上だらしなく涎を垂らし、おチンポ様が欲しいと舌を伸ばす私の姿は嘲笑さえして頂ける。

お客様方によって被虐の悦びを教えて頂いた私にとって、それらはご褒美でしかなかった。


「今の気持ちを包み隠さずに述べてみよ。」

「何でもいい、ワシが憎いや殺したいでもいいぞ?」


憎い?殺したい?そんなことあるはずがない。

こんな素敵な身体に、そして、身分を理解させて頂いたのだ。

恩を仇で返す様なマネができるハズが無い。

故に私は、その問いに躊躇いなく答える。


「心から・・・心から感謝しております・・・!」


「ふむ・・・では、今したいことを述べてみよ。」


したいこと・・・これも簡単だ。


「はい、私の存在意義である出産とセックス・・・!セックスがしたいです・・・!!」

「あ、でもまだ出産ができていませんので、先に出産を・・・!」


「・・・くははっ・・・!これは傑作だ。流石だな、006番。」


今もミチミチと音を立てるボテ腹マンコは、産むその時を今か今かと待ちわびている。

私は今はまだただ孕んでいるだけの娼婦・・・産んで初めて、”出産娼婦”となれるのだ。

すると、主様は笑顔で私に驚くべき事を告げた。


「417番。お前の願い、確かに聞き届けた。」


「ぇ・・・!?」


今、何と言われたのか。

あまりにも衝撃的だったので頭が一瞬で真っ白になり、理解が出来なかった。

だが、主様はそのまま言葉を続ける。


「お前には再度その時に忠義と自身の在り方を示して貰わねばならんが・・・」

「来週のパーティで、出産することを許可する。」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ。ただし、それまでは絶対に産むなよ?」


「あ…ありがとうございますありがとうございますありがとうございますっ・・・!!!」


私の願いが聞き届けられた。ああ、何と恐れ多いことだろうか。

出産の許可。即ち、主様の半身を産み落とすことの許可。

ああ、そんな。こんなに嬉しいことがあっていいのだろうか。

破裂しそうなボテ腹を引き延ばす痛みとの別れは惜しいが、それ以上に嬉しくて堪らない。

私は遂に、”出産娼婦”となれる。

006番さんが検品前に全排尿させてくれたのはこの時の為だったのだ。

もししていなければ、今頃は主様の御前であるのに粗相をしていただろう。


「006番、417番は引き続き頼むぞ。ワシは客人を丁寧にもてなさねばならん。」


「はい!あ、手が必要だったら言ってくださいね?」


そう仰ると主様は検品室から退室された。

そしてここから待ち望んだアレが、遂に・・・!!


「417番、よくできましたぁ!」

「それじゃあ培養槽内で我慢した分・・・イッちゃおうか♪」


──────────────────


「───!────!!~~~~~♡♡♡♡♡♡」


「ふふっ、イッてるイッてる♪」


培養槽内で金属製のフレームバインダーがギィ、ガチャン、ギギィと軋みを上げている。

417番がイッた時の痙攣や仰け反りを全て抑え込んでいるため無理も無い。

取り付けた搾乳機からは物凄い勢いでミルクがタンクに流れ込んでいた。

あのミルクは味含めとても美味しく、また、高値で売れるため嬉しい限りだ。


「実は出産予定日は先々週で、明らかに過期妊娠だけど・・・」

「417番の被虐性でどこまで耐えれるか試してて、本当に良かった・・・!」

「来週出産はかなり身体に負担が懸かるけど、私の417番なら耐えきってくれるハズ。」


417番には自分の持てる全てをつぎ込んだ。

故に、主人の417番への評価は自身への評価に他ならない。

最初は不安だった。これまではせいぜい言葉遣いや豊胸程度だけで自分もそれに満足していた。

自分が主人の役に立っていると実感できるなら、他のやりたいことは二の次だったから。

だから何をしても良いと言われた時は本当に時間が止まった。

主人は自分に『お前の全てを見せろ』と暗に告げていたのだ。

だからこそ、417番はより卑屈に、忠実に、そして淫乱に。

思いつく限りのことはやった。そしてその成果が認められた。

それはミレニアムに在籍していれば、絶対に得られなかったものだった。


「私も調整、頑張るからね・・・!」


培養槽のガラスを撫でながら、006番は聞こえるハズが無い言葉を投げかけた。


──────────────────


「浅黄様、こちらのお席です。どうぞ。」


「ええ、ありがとう。」


遂に迎えた、例の男が主催するパーティ開催日。

私はドレスを翻し、スタッフに案内されるがままに席に着く。

入場手続きを始めてからこうして着席するまで、あり得ない程に長かった。

送迎のリムジンは後部座席の全ての窓が塞がれ、走行音は音をぶつけて相殺するANCが使用されて何も聞こえない。

昇降機の降下するわずかな感覚だけを感じたが、それにしても降りる時間がとても長かった。

どれだけ地下深くに会場があるのだろうか、もしかすると嵌められたかと警戒したが、スタッフにそういった仕草は見られなかった。

そして手荷物の一切を預かられ、着の身着のままで案内された先に漸く会場が現れたのだった。


『ようこそお集まりくださいました、皆様!それでは───』


少し経つと司会進行役の者が壇上に現れ、様々な案内をし始める。

私は会場の視線が壇上に十分集まったことを確認すると、視線を動かして例の男を探し始めた。

恐らく男は目立つ様な行為はしない。させるとしても代役を立てるはずだと思いながら探す。

しかし、見つかったのは予想だにしていない者ばかりだった。


(あの司会・・・ヴァルキューレで更迭された・・・!?)


男を調べている際に出てきた行方不明者達。

少し見た顔があちらにもこちらにもいる。

しかもその全員がとても卑猥な恰好をしていた。

司会の生徒は逆バニーと言われる姿で、恥部等はピアスで縫い付けた布で隠していた。

ウェイターの服装は原形すらわからなかった。

自身の胸と背中を丸出しにし、隠れているのは自身の腹と脚だけ。

しかもその背中には、来賓にトイレの場所を示すだけのタトゥーがデカデカと刻まれているではないか。


(な、なんて・・・!?)


私は戦慄した。

こんな悪趣味で悪徳を愛する場所がこの世に存在するという事実に。

そして、自分が知ったと思っていた裏社会はまだ、浅瀬に過ぎなかったことに。

遠くを見れば、催した客がウェイターを犯し、床に投げ捨てていた。


(・・・ダメ。ここにいると頭がおかしくなる。)

(早く目標を始末して、脱出を・・・!)


そこからは一心不乱に男を怪しまれない様に探した。

極力その醜悪な欲望に絡め取られた被害者達から目を反らしながら。

だが、男の姿は一向に見えず、時間だけが過ぎていく。


『本日はサプライズがございます、皆様壇上にご注目ください!』


そして、運命の刻が来てしまった。


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「ふーっ・・・ふーっ・・・!!」


ああ、興奮する。とても興奮する。

目の前にある白いスポットライト。私はそこに向かって歩いていく。

この私、417番が”出産娼婦”として完成するその瞬間を、多くの方々に見て頂ける晴れ舞台。

紐一本を引けば、一瞬にして全裸になれるこの衣装。

そして、ボテ腹マンコの奥で『早く出せ』と暴れ続ける主様の半身。

ここまでのお膳立てをして頂いたことには感謝の念しか無く、申し訳なさで死にそうだった。

だが、『パーティーショーの成功を以て恩を返せ』と命じられた以上、死ぬ前に応えねばならない。

一週間の自由は、全てこの日の為に使った。

お客様方に様々な口上を述べ、最も勃起して頂ける言葉を探した。

輪姦してもらいながら、自分のどこの何が最も魅力的に映るのかを確認した。

他の娼婦の方々にも、様々な技術や性技、誘惑の仕方などを教えて頂いた。

今なら例えザーメンジョッキ10杯イッキだろうが、ボテ腹太鼓芸だろうが何でもできる気すらする。

そして、私はスポットライトの中心でマイクを手に取り、興奮を何とか落ち着けて宣言した。


「・・・管理番号:3280417、出産娼婦です。」

「これから皆様に、人類最底辺である私の、第一子出産を御覧に入れます。」


その宣言とほぼ同時に湧き上がる歓声。

本当に私がこんな幸福で良いのだろうかとひたすらに思いながら、私は衣装の紐を引く。


「「「おおぉ・・・!!」」」


私の全身が露わになると、更に感嘆の声が上がる。

ここからは私の身体を簡潔にご説明しなくては。


「ただいまご覧頂いている私の身体について、軽くご説明致します。」

「まずは共通事項にはなりますが、こちらのタトゥーです。」


そう言うと私は乳首ピアス同士を繋ぐ短いチェーンをゆっくり引き、顔まで上げる。

そして、このショーの為に着けた鼻輪に接続し、おっぱいを持ち上げた。

これで私の左頬に常時見えている『Slave』の文字と、おっぱいの下の管理番号とバーコードのタトゥーの全てが見える様になった。

その瞬間にフラッシュが焚かれ、写真まで取られている事に気づく。


(あっ…!私、終わってる…!人として、女として、どこにも顔向けできない程、終わってるぅ…!)


写真という物に私の痴態が記録されていく。

つまりこの瞬間は、後世の娼婦たちにも伝えられていくのだ。

そのことを認識すると、私の興奮は更に高まる。

だが、私はその興奮を抑え込みながら言葉を続けた。


「このタトゥーは、私の色素を調整して生成されています。」

「そのため、肉体を抉ろうが私のタトゥーは再生し、消えることはございません。」


そして、お客様が全員見終わった頃を見計らって、おっぱいを下ろす。

すると肉同士がぶつかり合うだぱん、という音にまたも感嘆の声が上がっていた。

こんな私で喜んで頂ける事に更に悦びを感じるが、そう猶予も無いため、次々とプログラムを進めていく。

ミルクのこと、ザーメン以外はもう食せないこと、自尊心を抹消して頂いたこと、鼻以外のピアスはもう外せないこと等々・・・

私はここに至る経緯に自分が受けた辱め、改造・調教を羅列し、公表していった。


「…3280417番のご紹介は、以上とさせて頂きます。」

「大変お待たせ致しました。それでは第一子の出産のため、気張らせて頂きます。」


そして、遂に迎えた出産。

私は頭の後ろで手を組み、ガニ股で歯を食いしばり、全力を以て気張る。


「うぅ・・・・・・ぎぃ・・・ぃう・・・う”う”う”う”う”う”!?!?!?」


バチャバチャと放出される羊水とミルク。全身から滲み出てくる脂汗。

私は脳の血管が切れるのではないかと思う程に力み、顔を真っ赤にしていく。


(痛いのも…!気持ち良くてっ…!!力抜けちゃうぅ…!!)


メリメリと膣肉が広げられ、その大きな頭が下にゆっくりと移動していく。

本来は激痛のはずのそれが、私には途轍もなく気持ちがいい。

その上、性感帯化して頂いた子宮の内壁が御身が移動したことで擦れ、更なる快楽を齎してくる。

膝はガクガクと震え、前のめりに倒れてしまいそうだった。

快楽で力が抜け、出かかっていた御身の頭は再度ボテ腹マンコに戻っていく。


(うああぁぁぁ!?!?気持ち良い、気持ち良すぎるぅ!!!!)


出かかっては戻り、出かかっては戻りをひたすらに繰り返し、肉悦に悶える。

出産という神聖で不可侵な行為を冒涜し、あまつさえそれをお客様方に見せつけている。

そして、そんな自分に、興奮している。

ああ、何と罪深く、破廉恥で、救いようが無いゴミ雌なのだ、私は。

これが私の本性…!教育を受けて本当に良かった…!

主様や006番さんは私の本性に気づいてたんだ…!


(でも、産まなきゃ…!主様のために!その恩に報いるために!!)


私は今一度奮起する。このショーだけは、失敗できないから。

ショーと言うだけあって時間制限もあり、早急に産んでしまわねばならない。

故に再度歯を食いしばり、余力を全て振り絞り、死ぬ気で気張る。

そして───


「ぎひぃぃぃぃ!!!いぎゅぅぅぅぅ!!!いっっぐぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?」


ボプッ、ボリュ、メキメキ、ズリュ、ズリュゥ。

そんな音を立て、私は遂に、出産した。


──────────────────


「オギャアァァァ!」


「───────」


目の前の光景が、信じられなかった。

死んだはずのカヨコちゃんが、変わり果てた姿で出産していた。

赤子の鳴き声が鼓膜を震わせる。

何かの間違いだと思った。でも、参加者に配られた資料にその過去データが載っていた。

旧名『鬼方カヨコ』。我がグループに敵対行為を行ったため加工。

現在は研修中であるが、第一子出産後には出産権オークションを開催予定、と。

ご丁寧に加工前と加工後の写真もしっかりと載っており、どう変化したのかが一目瞭然だった。


「・・・・・・・・・は・・・?」


その時だった。

私は左右から取り押さえられ、ドレスを破り捨てられ、一糸まとわぬ姿で拘束される。

だが、受けたショックの方が遥かに大きくて、何の反応もできなかった。

そしてざわつく会場内をそのまま連行され、私は417番、いや、そんな名前知らない。

後産をしようとしている”鬼方カヨコ”ちゃんの前に投げ捨てられた。


「ひぃ・・・はぁ・・・」


カヨコちゃんは虚ろな目で、肩で息をしていた。

出産による消耗で、こちらに気づくどころの話ではないのだろう。

出産…そのワードが私の中にズンと沈み込んでいく。

産んだということは、性行為があった証明に他ならない。

あの細かった身体で男の精を胎で受け止めた証、それが赤子だ。

私の思考はどこまでも真っ白で、現実を直視できていなかった。

しかし、そんな私を現実に引き戻す言葉が、会場の空気を震わせる。


『えー・・・それでは、ショーの〆となります。題して、”自由獲得チャレンジ”!』


司会進行役は急遽カンペを渡されたのか、困惑しながら場を進める。

だが、その内容もまた、下劣だった。


『これから417番には欲しいものにキスをして貰います。』

『選択肢は2つです。1つはそこの今裸でひん剥かれてる浅黄ムツキって人ですね―。』

『そちらを選べば二人で仲良く地上に帰還。ここは一生出禁ですが、普通には暮らせるんじゃないですかね?知りませんけど。』


自分の方はつまらなさげに随分と投げやりな説明になっていた。

そしてもう1つの選択肢の話になる。

司会が手で指した方向には、いくら探してもいなかったあの男がいた。


「お、前…!?」


男は近くまで歩み寄ってくると、何をするでもなく私を見下ろす。

その目には明確な嘲りがあったが、今の私にはどうにもできなかった。


『もう一つはご主人様!こちらを選べばそこの人は私達よろしく加工行きです。』

『ですが、417番は生涯ザーメンにも出産にも困ることはありません。』

『余生を肉悦と白濁の中で過ごすことができるのです!素敵ですね!』


司会は私の事など気にもかけず、楽し気に、何も面白くない事を告げる。


『かつてのくっだらない仲間と、ご主人様。勝つのはどちらでしょうか!?』

『さあ417番、選んじゃってくださーい♪』


私は天秤にかけられる。だが、思考は男を見た事で冷静さを取り戻していた。

今この瞬間、私が捕まっている以上はこれが最後のチャンスだ。

来賓達の目があり、約束を反故にする事はできないハズ。

故に私は必死に呼びかける。

カヨコちゃんなら、私の手を取ってくれると、そう信じて。


「カヨコちゃん!カヨコちゃんっ!!こんな所出て、便利屋に帰ろう!?」


カヨコちゃんはまだ茫然としていて、その目もこちらに焦点が合っていない。

だからこそ呼びかける。一緒に帰ろうと。

私も戻りたい。あの楽しい日々に、笑いあった皆の事務所に。

4人が揃えば、どんな苦難だって乗り越えられるハズだ。

そんな冷静に考えれば不可能な、根拠の無い自信すら湧いてくる。


「ムツ・・・キ・・・?」


「っ! そうだよカヨコちゃん!!」


カヨコちゃんは漸く私に気づいてくれた。

これでもう大丈夫だろう。そう安堵した。

だが───


「・・・ごめんね。」


カヨコちゃんは男のズボンの股間に鼻を埋め、深呼吸をし始めた。


「ぇ………………?」


荒くなっていく鼻息のままに、そのズボンのチャックを咥える。

ジジジ…というチャックを下げる音が嫌にゆっくりと、ハッキリと聞こえた。

そして器用に開けると、出てきたのは巨大な男性器。

まさかと思う私の思考より先にカヨコちゃんは行動していた。

そう、躊躇いが無いのだ。そして───


「………チュッ…」


その男性器に、キスをした。


──────────────────


『こ、これは・・・w 別にチンキスの指示は出てなかったんですけど・・・ねぇ?』

『えー、勝敗はご主人様の勝利です!浅黄ムツキは加工行きとなりまぁす!』

『・・・ふふっ、あっはははは!!!ようこそ最底辺へ!!!』


司会の方の心底楽しそうな、狂気的な嗤いが聞こえる。

目の前のムツキは、この世が終わったかのような表情をしていた。

一方で、私はムツキに蕩けた表情のままで微笑みかける。

そして、彼女の誤りを訂正してあげた。


「”カヨコ”なんて…ここにはいないよ…?」

「私は…管理番号:3280417、出産娼婦…」

「主様に所有して頂いて、初めて存在を赦される存在だから…!」


「ッ───!!!!!」


瞬間、ムツキの怒気は膨れ上がる。

彼女を押さえつけていた娼婦仲間を吹き飛ばす勢いで暴れ出したのだ。


「ふ、ざける、なぁぁぁぁぁっ!!!お前、お前ぇ”!!!」

「カヨコちゃんに、何をしたぁぁぁぁ!?!?!?」


凄まじい勢いで主様に叫ぶムツキ。

これは、彼女がまだ何も知らないのだと私は悟る。

その時、隣に立つ主様が私の目の前に何かを投げ落とした。

それはゴッ、という硬質な音を立てて目の前にその姿を表す。


「お前なら何も言わずとも…わかっているな?」


「…はい…はいっ…!」


私は主様から授かったそれを手に取り、ヨロヨロと立ち上がる。

そしてその足で、ムツキへと歩み寄る。


「カヨコ…ちゃん…?」


私の様子に違和感を覚えたのか、ムツキの動きが止まる。

だが、私は止まらない。主様に頂いた命は、必ず遂行するべきことなのだから。


「ごめんね…?」


「カヨコちゃん…!?何それ、待って!?やめ───」


ムツキの咄嗟の懇願も無視する。

こうするのが…ムツキをそうするのが、一番良いと確信しているから。

優しく丁寧にそれを首に嵌め込むと、それは彼女の背骨を這う様に伸びる。

そして───


「あ”!?あ、が、あ”あ”あ”あ”あ”あああああ!?!?!?!?」


あの日、あの時の私の様に。

それはムツキの脊椎に根を張り、完全に定着した。


「でも…じきにムツキもわかるよ…主様の正しさが…♪」


「────────」


ムツキは絶望に染まった表情のまま、その動きを完全に止めていた。



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