求めるもの
「トレーナーさん…その…好きな人のタイプとか…ありますでしょうか?」
ポカンとするトレーナーさん。無理もありません。突然異性からそんな質問をされたのですから…
きっかけは些細な事でした。仲睦まじく歩いている人達を見て、話題の雑誌にもタイプについての記事が載っていた…それだけの事でした。
ですが、様々な方達と話しているトレーナーさんを見ると私の心の中で何かが…夜より暗い何かが広がってくるのを感じていました。
トレーナーさんはどんな人が好きなのでしょうか?美人な人?活発な人?胸が…お尻が大きい人?いい香りの人?それとも幼さが残る人?
でも…誰かに当てはまったとしても私はそれには敵わない…
そう思っているのに、あの人から言われるのが怖いのに聞いてしまう…
きっと心のどこかで私に近いタイプを言ってくれる…そんな傲慢な考えがあるのでしょう…そう考えているとトレーナーさんが話し始めました。
「特にこれだ!ってのは無いな。自分が好きになった人なら受け入れる…そう考えてるから」
「そう…ですか…」
嗚呼、はぐらかされてしまいしました。それにその答えならどんな人も好きになれば受け入れてしまう…
こんな事を聞いた自分を激しく呪っていました…
「でも、一つ好きな人のタイプがあるとするなら…コーヒーを一緒に飲んでくれる人かな?」
「え……?」
それは気遣い…?それとも本心…?
「俺はそんな人を知っている。そして目の前にいる。……好きだよ、カフェ」
「あ…あぁ…う…うそ…」
「嘘なもんか。……おいで?」
その言葉を聞いた瞬間、私はトレーナーさんに抱きついていました。
「トレーナーさん!トレーナーさん!」
「よしよし、怖かったね。大丈夫だよ」
「わ…わた、わたし…わたしぃ…」
もう周囲の事など気にせず泣きながら強く抱きしめていました。
「さっきの言葉…少し訂正させてくれないか?」
「え……?」
「俺は一緒にコーヒーを飲んでくれる人…いやマンハッタンカフェが大好きだ。これから先、どんな事があっても必ず」
「わ…わたしも!すき!あなたのことがだいすき!」
そうして抱き合いながら長くそしてあっという間に時間は過ぎていったのでした…
そして時は流れて———
夜遅くとある一軒家のリビングルーム。
仄かな光に照らされた室内に二人の人影がソファに座っていた。
「こうして二人でくつろぐ時間が…幸せだとより実感させますね…」
「そうだな…」
マンハッタンカフェとそのトレーナーである。卒業してその後結ばれた二人は今、カフェがトレーナーの上に座る様な形で静かに夜のひと時を楽しんでいた。
「あの時…嬉しかったんです…あなたに好きだと言われて…私の事を受け入れてくれて…」
「あの時はびっくりしたけどさ、自分も君に伝える勇気を貰ったんだよ。…ところでカフェ?」
先程から顔を赤らめているトレーナーが尋ねる。
「んっ…なんですか?」
「大胆なのは悪くないけど…その、いいのか?」
「いいん、です。んっ…私がこうしているので…あっ…トレーナーさんは…んっ、嫌い?」
「っ…まさか」
答えるカフェもぎこちない答え方で返す。
当然である。何故ならカフェとトレーナーの左手はカフェの手が上から被さり、指輪が重なる様に合わさっているだけでなく、カフェがトレーナーの手を押し付ける様にカフェの左側の胸に触れさせていたのだから。
在学時に比べて豊満に実ったそれはカフェが動かさせている部分もあるが、トレーナーの指が深く沈み込み淫靡にその形を変えている。
「あなたに愛されて…もっと愛されたいから…こんなに実ったんです…ふふっ、あなたのお陰です」
そう言って微笑むカフェはトレーナーの方に向き直る。
「トレーナーさん…」
そう呟いた瞬間、カフェはトレーナーの唇に貪り付いた。響く水音、荒々しい呼吸、唇が離れて呼吸をすればまたすぐに塞がり水音が響き渡る。
二人の隙間から愛情が溢れ出て互いの口を濡らしこぼれ落ちようとも構わず、先程まで飲んでいたコーヒーの味を互いの味に上書きする様に啜り流し込み塗り付け合う。
彼女は身体を押し付け腕をトレーナーの後ろに回し、トレーナーも左手はそのまま、右手を彼女の腰に巻き付ける。
「ぷはぁっ…トレーナーさん…おいしい…♡」
肩で呼吸をするカフェ。口周りは愛情のそれに塗れている。更にその顔と瞳は蕩けに蕩け切っており、そこにはミステリアスさは掻き消えて本能のまま求める獣の様であった。
「トレーナーさん…夜はまだ終わりませんよ…あの時あなたが私を受け入れた様に、これからも私もあなたを受け入れます……だから…」
「トレーナーさんが好きな"タイプ(わたし)"はありますか?」
あの時の様に、しかし恐る恐るだったあの時とは異なり上目遣いで誘う様に"それ"を尋ねるカフェなのであった…