求めるものは唯一つ
私はずっと何も起こせやしなかった。
奇跡も、夢も、大切な人に慰めの言葉一つすらあげられなかった出来損ない。
《コロニー落としを予言した三人の奇跡の子供達》
《ルオ商会が追い求めた本物のニュータイプ》
《僕らと先生を助けてくれた命の恩人!》
全部嘘。幼い私の愚かな嘘だ。
助けたかったのだ。守りたかったのだ。
知恵を振り絞った。計画は完璧なはずだった。
両腕をいっぱいにひろげて庇ったつもりだった。
でも、駄目だった。
だってこの世界には神様なんていなかった。
居たとしても私達を助けてくれやしなかった。
だから、無駄だったのだ。
最初から結末は決まっていて、幾ら藻掻いたところで一筋すら世界は動いてくれなかった。
──でも、それじゃあ私は、私達はどうすればよかったの?
小さなわたしの言葉が脳味噌のなかで反響する。
泣きじゃくる弱虫なわたしの声。
何も守れなくて、ぐしゃぐしゃになったわたし。
とっても哀れで、矮小で、汚らしくって、棄てることすら出来なかった昔のわたし。
「……知らない、解りたくもない。」
今更分かった所で何になる。
起きたことは、結果は、何があっても覆せない。
過去は未来に変わらない。それは世界の絶対的な構造だ。
──でも、もしも昨日を変えられたら?
こびりついた残像の戯言が縋り付くように言葉を紡いだ。まるで過去が未来に語りかけるように。
そうだ。変えてしまえばいいんだ。
世界をまるごと底からひっくり返してしまえばいい。
明日を昨日に。今日を明日に。
「……RX-0 ユニコーンガンダム。」
「時間を巻き戻し、空間を支配し、事象を動かした───可能性の獣。」
机の上に広がるのは夢にまで見た未来予想図。必死になって掻き集めた記録達が"人類の革新"を映し出していた。
ここまで辿り着くまでになんでもやった。言えないことも、言いたくないことも。
嘘をついた。悪い事だってした。きたないことも、許されないことも、なんだってやってきた。
「なら、ちょっとくらい報われたっていいでしょう……?」
愚かなことだなんて分かっている。でも、縋らざるを得ないのだ。そうでなければヒトは、わたしはとっくの昔に壊れてしまっていただろうから。
特別なあの子は『鳥になりたい』と言っていた。きっとヨナも同じ気持ちだった。あの中でわたしだけが凡人で、わかり合うことすらできなかった。誰もわたしのことを見ていないのと同じで、わたしだけが偽物だった。
だから今度は私が神様になる。
神様が居ないのなら作り上げればいい。
不幸も死も因果さえも全て押し流してしまえばいい。
その為ならもう一度、いや何度だって罪を重ねられる。もう嘘を付くのだって躊躇わない。
人を殺すことも、怖いことも、ヨナをマシーンにすることだって……!
だってそうしなければ、私はきっと『ごめんなさい』のひと言すらも言えないのだから。