気高き女王は夢を見た(前編)
「クーッ!」
「いつもご苦労さまです」
ここは偉大なる航路の後半・新世界にある加盟国、イシャバーナ。
別名・美と医療の国として知られるこの国にはひと際大きく聳え立つ美しい城がある。
城の名はフラピュタル城、今日も朝早くから忙しなく動く執事・セバスチャンは日課であるニュース・クーから新聞を受け取り配達員の見送りを終えると早速見出しの記事に目を向けた。
そこに書かれた文面を一通り黙読したセバスチャンは訝しげな表情を浮かべ、どうしたものだと言わないばかりにこう呟いた。
「これはなんと······由々しき事態です、すぐヒメノ様へ報告しなくては」
「おはよう」
「おはようございます、ヒメノ様」
城内の玉座に腰掛け、優雅に家来へ挨拶を交わす一人の女がいる。
名前はヒメノ・ラン、このフラピュタル城の主にしてイシャバーナ国の女王である。
メイド長、クレオ・ウルバヌスと数人の使用人が運んできた朝食に舌鼓を打ちながらヒメノは今宵も煌びやかに咲き誇る花々を見つめ美しい景色を堪能していた。
「今日も我が国・イシャバーナは実に平和ね。これであのうるさい世界政府の要求さえなければ、もっと優雅に過ごせるハズなのに···」
「ヒメノ様、お言葉を申し上げますがいくら我がイシャバーナとて世界政府······ましてや天竜人に真っ向から逆らってしまう行為は国や民そのものが滅んでしまう事になります。ですので」
「それ位分かっているわ、数年に一度開かれるレヴェリーに医師団を派遣する事で天上金も特例措置で減額されているし民の負担がなるべく掛からない様にするにはこれしかないもの······」
ヒメノ様〜っ!
「あら、セバスチャンじゃないの。こんな朝早くから騒ぎ立てないでくれない?私、今機嫌が良くないの」
「申し訳ございません、実は先ほどニュース・クーから受け取った新聞の見出しに由々しき事態が掲載されてまして···」
「由々しき事態···というのは?」
「こちらをご覧下さい」
セバスチャンが持ってきた世界経済新聞······通称・世経が発行するこの新聞は海賊をはじめ電伝虫を保有出来ない一般市民らにとっては数少ない情報網であり、加盟国の王族達も世界の現状を把握する為に定期的に購読している者もそれなりに存在している。
配達される新聞にはいつもの如く各地の海域で海賊らが暴れ回っている事が記載されるのが殆どだが、今朝配達された新聞には大きくこの様な記事が掲載されていたのだ。
麦わらのルフィ、ハートの海賊団と海賊同盟結成か?!
「······まあ、麦わらのルフィと言いますとあのインペルダウンで大多数の囚人を解放したあの海賊の」
「左様です。その『最悪の世代』の一人に名を連ねる者が同じく最悪の世代の一人であるトラファルガー・ローと同盟を結んだとの事で······」
「まさしく由々しき事態ですわ、万が一この国に来たとなってしまったらそれこそ命がいくらあっても足りないくらいですのに······」
クレオは『こうなってしまっては世も末だ』という事態に頭を悩ませ、セバスチャンもまたいつこのイシャバーナに現れるか分からない海賊相手にどうすればいいものかと苦い表情を浮かべるしかなかった。
そんな二人を他所に、ヒメノは渡された新聞を黙って閲覧していた。
彼女の視線が釘付けになったのは、麦わらのルフィと同盟を結んだという海賊トラファルガー・ローの写真であった。
「·········」
「···ヒメノ様?先ほどから黙っておられますが、いかがいたしましたか」
「···何でもないわ、それよりも」
ヒメノは読み終えた新聞を使用人に預け今日の王室業務や城下町の視察・医療機器の点検などの予定を確認し『今は国や民の平穏を守る事が優先』だとセバスチャンらに言い聞かせ、今後については他の国々と会議してから決めると話してその場を収めた。
······しかし、彼女の頭の中には先ほどのトラファルガー・ローの顔がどうしても離れずにいた。
『あの顔、まさかね······』
後編へ続く……