気づいてしまったTS牝馬

気づいてしまったTS牝馬


『なかなか、大したものじゃないか。調教の際には驚くほど言うことを聞く素直な子だそうだが…』

『ええ、レースの時になると鬼気迫るというか、死ぬ気で勝つぞ!という気迫が伝わってくるって、サムラ(騎手)さんが言ってましたよ』

『大昔の侍なんかも、こんな感じで生きていたのかねぇ』

『女侍なんて大抵の場合は誇張されているか、少なくとも前線に出たりなんてしませんよ』


頭のふらつきがさっきから収まらない。

自分が馬として生まれ変わってしまったショックで、心の整理や馬としての生を受け入れるのに数か月の時間をかけた日々を思い出す。

先程聞いた馬主と思われる人物と、調教師との会話は自分の精神力に打撃を与えるには十分な内容だった。

女侍、おそらく自分の事なのだろうが…つまり自分は男じゃなくて女というか、牝馬ということで…


「どうした?さっきからボーっとして。」


同期の子が話しかけてきた、彼は確か…いや、今はどうでもいい。


「あの、さ……俺って女だったりするの?」

「え?もしかして今まで気づかなかったのか?あー、でもそうか。俺達って自身の後ろが見えないもんなあ」


何かの間違いであってほしいという願いはあっさりと崩れた。顔から血の気が引くのを感じる。

女ということはつまりあれだよな?俺が大活躍で現役生活を終えることが出来たとしても今度は母親として生活させようとするだろうし、つまり種付けをする側じゃなくてされる側になっちゃうわけで…俺が妊娠して子供を産むわけで…


「な、なあ!レースで一着ばっかり取るようになったら人間たちは俺を引退させないよな!?」

「おい、どうした急に?」

「質問に答えてくれ!」

「そりゃあ…辞めさせないんじゃないかな?たしか勝つと『オカネ』ってのが人間たちの元にたくさん入ってくるんだろ?アイツらアレがあれが大好きらしいから、ちょっとでもレースに出そうって思うんじゃないか?」

「そ、そうだよな、絶対辞めさせないよな!が、頑張るぞー!」


前世だってまともに女を抱いたことなんてないまま逝っちまったんだ。男に、まして馬に抱かれてたまるものか!

自らを鼓舞しながら生き残ろうと改めて決心する。空元気が混じっているのはきっと気のせいだろうと自分に言い聞かせながら……

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