比翼連理

比翼連理



雨が降り風が吹き荒ぶ嵐の中、行く末の見えなかったルフィとウタの逃亡生活に終わりが近づく。

幾度と受けた裏切りと襲撃により手を差し伸べる者達を拒み、身内とのわだかまりが晴れぬまま、お互い以外の誰も信じられず、数多の賊や強敵を蹴散らしていく強さを持ちながらも多くの勢力に追われ続ける二人の精神には限界がきていた。

追い詰められるように逃げ込んだ島で、二人は脱出案が決まるまでしばらく隠れようと少し小さな洞穴に身を隠した。しかしウタが持ち前の見聞色でもう何処にも逃げられないと悟ったとき、幼い頃からルフィに募り続けた混濁する想いと欲望が決壊したダムの如く抑えきれなくなった。

ルフィが見聞色で周辺を警戒しつつウタに大丈夫かと声を掛けた時、ウタは両手でルフィの愛しい顔と視線を独占するように優しく寄せて、口付けした。数秒の安らぎと離れた後も残る多幸感を味わいながら、光のない大きな瞳でじっとりとルフィを見つめ、「好き」と、「愛してる」と、感情の濁流に震えながらも言葉を紡ぎ始める。ルフィは一瞬戸惑ったが、ウタの溢れる想いを感じ取り静かに聞く。そしてウタは望みを告げる。二人だけの新時代を創りたいと。

「ルフィは私の隣が居場所で、私の笑顔と歌で救われてるんだよね?私もルフィに感謝しきれないぐらいいつも助けられてる。でも、ルフィを失いたくないし、ルフィのことがもっと欲しくなったの。私にだけ笑って、愛し合って、置いていかないで。そしたら私は心から笑えるし、歌える、救われるの。けれど他の誰もが私たちの邪魔をする。

だから…ねぇルフィ。私たちの、私たちだけの新時代を創ろうよ。私はルフィだけの歌姫になるから、ルフィは私だけの騎士になって。我慢できなくなっちゃった私を助けて。ずっと…一緒に居てほしい」

ウタの際限なく溢れだす愛と願いを聞き入れたルフィは、ウタを見つめたまま笑顔で迷いなく答える。

「当たり前だ」

限界だった二人はお互いだけの世界を望んだ。二人以外に関わっていた人たちの記憶が、逃げ続けて抑え込んでいたお互いの愛で塗り潰される。ルフィが背負っている麦わら帽子は、今やただのトレードマークに過ぎない。愛する人と共に幸せに過ごせるならそれで充分だと、他者のことなどどうでもよくなっていった。

もう余所者の言葉は、二人には届かない。

ルフィはウタの嫌なモノ全てをぶっ飛ばし望みを叶え、二人でずっと笑い合える為にニカへ変貌する。

ウタはルフィに向けられる邪悪から救い、世界を変え二人で永遠に幸せに暮らす為に、呪いの楽譜を歌いトットムジカを呼び起こした。

外で複数の勢力が乱戦しながらも二人を探していた時、どこからともなく不思議なドラム音と共に聴き覚えのある歌声が響いた。思惑は違えど歌姫の存在に皆が喜んだその直後、強力な覇王色が放たれ大量の音符の兵士と譜面が出現。"邪魔者たち"を襲い、島中を混乱に陥れた。

無論、召喚された魔王に対抗する為の人員がウタワールドには誰もいないうえ、想定していたはずの最悪の事態に大規模な混乱と暴走が発生。さらには最終形態への成長までに、音符の兵士たちだけでなく歌姫から加護を受けている解放の戦士が本体を護っていた。まるで手慣れた共同作業をこなすかの如く付け入る隙もない二人の前では、大将や四皇たちの奮戦も虚しく妨害できず失敗に終わる。魔王はウタから湧き続けるルフィへの想いと他者に対する憎悪で混濁した激情を取り込んで急速に進化していった。

二人だけの世界を新時代とする為に召喚され、思うがままに暴虐を行う魔王の勢いに、不必要とされた現世の住人はなす術なく屠られる。思想の違う力ある者たち全員が一丸となり目前の破滅に対抗する『奇跡』すらも、ダメージが通らぬ魔王には意味を為さず悉く殲滅される。もはや二人が加勢しなくとも、人類が滅んでいくのは時間の問題だった。

二人が1つめの島を破壊した後。地獄と化した地上には目もくれず、自由になったルフィとウタは空中に延びる譜面の上で抱き合い、唇を合わせる。追われることなく側に居られる幸せを共有し、お互いの存在と愛を身と心で感じ取り確かめ合う。

そして抱擁が終わるとウタは指を鳴らし、来たる新しい時代に向けて小さなライブステージを作りだす。ウタの擦れて汚れた衣服を歌姫の衣装に変化させ、ルフィのボロボロになった服は白いTシャツと赤いズボンに。ウタは左腕のアームカバーに描かれた二人だけのマークを掲げ、世界の終焉を背景に、ルフィの為だけのライブを開催した。

魔王はそれを聴きながら、ウタの想いに応えるように旧時代を蹂躙し続ける。

晴れた青空の下で世界が混沌に蝕まれていく中、望みを叶えた二人を太陽が祝福するように燦々と照らしていた。

「愛してるよ、ルフィ。一緒に居ようね」

「おう!愛してるぞ、ウタ」

ルフィとウタだけの、新時代が始まる。

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