殺せぬ苦痛、地獄の業火すら生温い熱
満月が照らす夜。昼間のように、とまではいかずとも明るい夜だった。
外部から遮断された座敷牢に光が差す。
届いた光は月光ではない。太陽も月も光を届けない真の闇を松明が煌々と照らしていた。
重い扉。猫ですら出入りできない隙間。一人しかいないのに広すぎる空間。
およそ人が生活する場とは到底思えない内装。自由を奪う鎖と尊厳を奪う首輪。人間扱いをされていないことは明らかだ。灰に近い瞳からは希望という光は浮かんでおらず、どうにでもなれという自棄すら残っていない。はだけた白装束が妙に艶めかしく、全身で退廃的な雰囲気を醸し出している。
「 」
何をしようとも外部には届かない空間に悲鳴があがる。泣き叫ぶという表現すら生ぬるい、苦痛を訴える悲鳴が。地獄の業火に見舞われたってここまでの苦痛は表せまい。
痛みは耐えるもの。苦痛は飲み込むもの。痛覚は存在していたが、それを表現する手段はとうに切り離されていた。それでも耐えることができない程の熱に襲われた。
獣のような悲鳴。意図などなく、ただ苦痛を示すだけの言葉。いいや、言葉ですらない音。喉が枯れ、血が滲むほどの叫び。それを下卑た笑いが覆い隠す。熱を与えたものにとってはただの娯楽にすぎないのだろう。
戯れに押しあてられる煌々と赤く熱された火かき棒。一度、二度、三度と与えられるたびに苦痛の濃度は増していく。あまりの痛みに気絶することすらできず、男たちが消えても苦痛は終わらない。日光を知らぬ柔肌には赤く痛ましい痕が残っていた。
歯を食いしばって言葉に表せない痛みに耐える。今はそよ風すら毒だ。体を投げ出せないことが苦しかった。歯の隙間から漏れる嗚咽が未だに味わう苦痛を伝えていた。