死闘
領域の押し合いは、自身の領域展開の速度、理解度がより洗練された方が勝利する。
純粋な技量の殴り合いである。
「「領域展開」」
「伏魔御厨子」「炎延灯火ァ!」
直輝は自身の領域に絶対の自身を持っていた。
あの藤原家直属の精鋭部隊日月星辰隊隊長、烏鷺にすら勝てる程である。
確かに、これが並みの強者との戦闘であったならば、けっして悪手とは言えなかっただろう。
最大の誤算は…相手が両面宿儺だった事に他ならない。
「……ッ!何やこの領域……!!」
宿儺の領域は本来設定すべき外殻を付属しない縛りにより、押し合いに圧倒的に強い。
領域展開後、僅か五秒で直輝の領域は破られてしまった。
そして……そのまま必中の斬撃が全身を襲う。
直輝は呪力を全開放して対応するが、このままではジリ貧になって負けるだろう。
全身に力を込めると御厨子の上に乗る宿儺目掛けて突っ走って行った。
(領域内で攻め切ったる!)
「ほぉ、外に逃げずに向かって来るか…面白い」
「そこから引き摺り降ろしたるわ宿儺ァ!!」
膨大な出力に任せた跳躍で御厨子の上まで飛びと、そのまま斬撃を浴びつつ斬り掛かった。
全く形のなっていない動きではあるものの、呪力強化による身体能力の向上が凄まじいために一撃一撃が重い。
宿儺は、最初はどうにか捌いていたものの、段々と厳しくなってくる。
(もう持たんな…)
直輝が余りにも苛烈に攻めるため、反転術式と領域の同時使用に限界を迎えた宿儺は領域を解いてしまった。
と、同時に即座に直輝との距離を取ろうとする。
(流石にヤツも呪力で解を相殺したとは言え、かなりの傷を負っている…一旦引くだろう)
だが、宿儺の予想に反して直輝は全身から血を吹き出しながら大刀を振りかざし、黙然と向かってくる。
「阿呆が…!」
「引くなんて甘いわ宿儺ぁ!!」
お互い領域展開後のために術式が焼き切れている。
後は回復するまで殴り合うだけだ。
(得物がある分ヤツのほうが有利……)
こんな時に神武解を裏梅に持って来させておけば…と思ったが、すぐに雑念を振り払った。
宿儺は上二本の腕で直輝の攻撃をいなし、下二本で攻撃をしている。
一見宿儺の方が有利には見えるものの、直輝の圧倒的なパワーにより押されつつあった。
(行ける…このまま攻めきれれば俺の勝ちや…!!)
ここで決める……!と思い、直輝が大刀に一気に呪力を込めた……瞬間だった。
バキィ!と小気味いい音を立てながら、刀が中心から真っ二つに割れてしまった。
(あっ…アカン……折れてもうたァァァ!!)
「フッ、焦りすぎたな」
宿儺が馬鹿にしたように笑ったが、直輝は逆にニカッと笑い返して
「まぁええわ!しゃらくさい!!」
と刀を納めて殴り掛かって来た。
当然宿儺も応戦する。
ズン…ズンと拳と拳がぶつかる度に重い衝撃波が発生する。
再び砂埃が舞い始め、二人の姿が見えなり、重苦しい音だけが響き渡る。
ズシン…ズン…ズシン……………
だが暫くの後に、それは止んだ。
そして、段々と晴れてきて二人の姿が見え始めると………
直輝が頭からうつ伏せで地面に突っ伏していた。
長期戦による出血で血の水溜りを作っており、もはや立ち上がる気力すらなさそうである。
「ぐあぁ……!!まだ…殺れるわ………!」
「……」
宿儺はそんな直輝を静かに眺めている。
「宿儺様、流石で御座います」
ふと後ろを見てみると裏梅が跪いている。
「ふむ…中々良き相手だったな、もう放っといても息絶えるだろう」
「帰るぞ裏梅」
「ハッ!」
二人が新嘗祭の会場から去ろうとしている。
(頼むぞ、直輝よ)
だが、逃がす訳には行かない、帝の勅命は絶対だ。それこそ、自らの命に変えても完遂せねばならない。
___直輝の術式は既に回復していた___
パチパチ………ゴォォォ……!!
「……この音は…」
先程まで直輝に背を向けていた宿儺が、思わずまた振り向いた。
そこには、全身から火炎を吹き出しながら静かに佇んでいる直輝の姿があった。
「宿儺、まだや、まだ殺ろうで」
「……やはり、"良い"な」
そして真顔になり、二人は自然と詠唱を唱え始める。
「火計」 「龍鱗」
「断金」 「反発」
「火熾原燎」 「番いの流星」
「極の番『火槍』!」 『解』
折れた大刀を術式で修復し、己の中に残った呪力を全て火に変換する。
当に、必死の一撃。
だが、それでも……
状態が完璧なら、あとほんの少しでも呪力が残っていたならば、もしかしたら勝てていたのかも知れない。
解と火槍が烈しくぶつかり、辺りには強烈な光が生じた。それはもう、本当に神々しく眩しい光で、輝いていた。
だが、しかし、その輝きが畢った時には、直輝の体は殆ど残っていなかった。
両腕が吹き飛び、体の傷口が全て焼きただれ酷い姿になっている。恐らく、もう助からないだろう
対する宿儺は四本ある腕を全て切落されているものの、身体自体は損害が少なかった。
直輝は痛みに耐えながら無理やり口を動かして、満面の笑みを浮かべた。
「カッカッカ、楽しかったわ、宿儺」
「あぁ」
宿儺は最後にしっかりと、直輝のキラキラと輝いた瞳を見た後に、立ち去った。
「俺は、この日を忘れんだろう」
ボソッと小さい声で呟きながら。