死神の災難
ああ、とんだ災難だ
死神はローブに覆われた肩を上下させながら呟いた
事の発端は現世でのこと
死神はいつものように人間の魂を回収しようとしていた
目の前に横たわるは若葉色の髪をした若い男
死の象徴たる彼を捉える瞳は鋭い闘気を宿していたが、その命は既に風前の灯火であった
死神は男に向かって鎌を振り下ろした
だが、刃が魂を狩ることはなかった
振り下ろした鎌を阻んだのは、男を庇うように立つ一人の女の刀だった
降り積もる新雪の如き純白の髪
日焼けなど知らぬ肌に氷のような微笑をたたえた美しい女
女は微笑みを崩すことなく死神を捉える
「主様は、渡さない」
女はそう言うと刀を構え、一気に振り抜いた
直後、鋭い斬撃が死神に向かって飛んだ
死神はすんでのところで避けたが、すぐに次の斬撃が飛んでくる
女の瞳には、「けっして渡さない」という強い覚悟があった
死神は止まることのない攻撃を必死にかいくぐり、なんとかその場から逃げ出すことに成功した
現世と黄泉を繋ぐ三途の川のほとりで、死神はやっと安堵のため息をついた
亡霊の横槍に魂の回収を邪魔されるとは、なんと情けない
だがまたあんな目に合うのもごめんだ
あの男の魂を回収するのは暫くよしておこう
死神はそう心に誓った
だが死神はまだ知らなかった
黄泉の中で女と再会することも、あの時の男がいずれ自身の王となることも