死体・屍・遺体・骸・魂の抜け殻・肉の塊・糞袋
血を分けた兄✂死ネタ死体描写
✂原作にない機械
新世界の前に行かねばならない場所があった。
あの戦争の日、影がこっそりと寄越した紙切れには雑な保管場所と、
『かってにしろ』
と特に親しくない七武海の一人の筆跡が綴られていた。
墓場も庭も城も破壊され尽くした夜の廃墟は蝙蝠が主人がいなくてもお構いなしに飛んでいくのを見かけるだけで静かなものになっていた。あんなに騒いでいたゾンビ達は其処らに転がり、影を失い嘆く人間ももうここには用はないと言うように消えていた。
やたらと巨大なゾンビを踏み越え、地図の地点へとたどり着くとそこは以前あの肥えた蝙蝠がいつも寝そべっていた場所──メインマストの真下の様だった。
慎重に瓦礫を砂に変え掘り返していき時計の針が半周した頃、ようやく目当てのらしきモノが顔を出し更に注意深くそれの周囲を取り除き目の前に置かれた時には結局一時間は過ぎていた。
それは鉄製の大きな黒い棺だった。世界一の医者だという男が用意したとびきり頑丈で腐敗せずに保管できるその機械は確かにこの激しい戦闘の後も自分の所有物を守りきっていた。
パスワードを入力して棺が重苦しい音を立てて開く。
布張りの上クッションまであるそこにはあの頃から時間の止まったままの男が寝ていた。
横に押し込められて置かれた鋏を手に取る。人を斬る度「美しい」と褒められていた刃は変わらず月光を反射させていたがそれを賛美する男は目を閉じたままだ。
あの横長の不気味な瞳孔は見えない。
甘いものを欲しがり突飛な事を喋り出す口は開かない。
突然天竜人を斬り出し二人が別れるはめになった迷惑な手は動かない。
「キャメル」
ああ困ったものだ。こんなデカい荷物捨てていった方が楽だ。大きいし邪魔ばかりでこんなモノ持っていっても新世界でどうしろというんだ。
「キャメル」
影が入っているならまだしも今やそれも無理な話となってしまった。
元から影が入っている時に話しかけた事もないから場合によっては即刻バラバラにしたかもしれず⋯⋯ああそれならずっと手っ取り早かった。さっさと話しかけて壊してしまえば良かった失敗だクソ。
「キャメル」
優しく笑う瞳は見えない。
おれを心配する口は開かない。
服を楽しそうに作っていた手は動かない。
「キャメル」
ただただ幸せそうに眠っているだけしか能がなくなったこの男を
「アニキ」
おれはどうすれば良いのか分からなくなってしまった。
ここに最初に持ってきた時から全く、どうしようもなく、手の施しようもなく。
「アニキ」
動けないままだった。
日が昇る頃には兄弟は姿を消していた。