死んで花実が咲くものか
凪代理の人
鬱カイロレのスナッフィーサイドみたいなやつ
愛し子が酒を飲めるようになったら飲みたい酒があった。
あの子の名前と同じワイン。【ドン・ロレンツォ】。辛口の、お高いやつだ。それを飲みながら今までのことを話して、俺の子供になってくれてありがとうだなんて言って抱きしめてやるつもりだった。
あいにくあの子は過去の経験と体質から酒は苦手なようだったが、最悪酒なんてなくったってあの子を抱きしめて愛を告げることができればなんだって良かったのだ。いつでもできる、だから何かの機会があったときに改めて伝えたかった。
見込みの甘かった俺の馬鹿な考え。
「息子さんが交通事故に巻き込まれ亡くなられました」
スポンサー主催のつまらないパーティーで飲みたくもない酒を飲み、ニコニコと微笑む。心の支えは、救いは、予約していたナポリで1番美味しいと評判のお気に入りのレストラン。息子と一緒に行く予定だった。
衝撃、空白、混乱。そして怒り。
感情の動きとしてはこんなもん。まだまだパーティー真っ最中だったけれど、そんなこと気にせず俺はすぐにタクシーを呼び寄せ伝えられた病院に行ったさ。
そこに眠っていたのは、たくさんの管に繋がれた愛しい愛しい息子。一緒に夢を追うはずだった息子。さいあいがそこに、土気色の苦痛に歪んだ顔で横たわっていた。
「あ、あ、あ、」
へたり、と触れられない厚い厚い透明な硝子の檻に指の跡を残しながら座り込んだ。
虚な病院の集中治療室前、がらんと寒いその白い廊下に。俺の搾るような呻き声が響いた。
「お前、お前」
俺の息子を世界で1番幸せなやつにすると言って幸せそうに笑っていた義息子のお綺麗な顔を殴る。わかっている。こいつは悪くない。悪いのは頭のおかしい厄介なファン。だけど、
(なんでお前が生きている。お前が生きて俺の息子がなぜ、)
元チームメイトだった青い監獄のニコやセンドーにはがいじめにされる。惨め、惨めだ。年下の子供に。息子と同い年の、若い子に。死ねばいい、だなんて。
息子は火葬場で燃やされて小さな骨になってしまった。蘇ることはできないが、今の風習だと土葬は宜しからずだから。
義理の息子にはちゃんと謝って、骨と金歯の一本を渡して。俺の元には31本の金歯が残った。
カラカラと、小さい頃ロレンツォに渡したクッキーの缶の宝箱にそれを入れる。やわやわと抱きしめて、俺はさみしいひとりの家で蹲った。目を瞑り涙をこぼすと瞼にニコニコと笑うあの子が写っていた。
(酒、飲みたかったな)
もっと愛を伝えてやればよかった。あの子がもういいって、苦しいって、うざいって嫌がるまで俺の愛で溺れさせてやれば、あんなこと言わせることはなかったのかな。
「アイツの最期の言葉は『俺の代わりなんてすぐ見つかる』だった」
義理の息子に静かにそんなことを言われたのを思い出す。
子供なんていなくてよかった。最悪、お前の脚が引きちぎれてしまってもお前が生きて、笑顔でいさえしてくれればよかった。幸せに生きてさえくれれば、よかったのに、
「死んでしまったら、なにも、もう何もできないじゃないか。馬鹿息子め。」