死にゆくウタ

 死にゆくウタ



 閲覧注意・胸糞悪いシーンが入ってます

 ごめんウタちゃん でもまじでウタは悪くないよ














 「このガキぃ!!」

 何度も何度も髪を引っ張られながら顔を海水の入った洗面器に沈められる。

 だがウタは笑っていた。

「お前のせいでこっちは『ジョーカー』に殺されるのは決まったも同然だ!!! どう落とし前つけてくれるんだぁおい!!!」

 そう言いながら初めて脱獄したときのように何度も何度も沈められる。

 それでもウタは笑っていた。

 相変わらずしょっぱいし、汚いし、苦しいし、痛い。

 でもそれ以上に心は死んでいない。

 それもそうだ。すでにウタは勝っている。

「お前以外奴隷が全員いねぇなんてふざけたことがあるかよ!!! この疫病神がよぉ!!!」

 ウタは『自分以外』の奴隷をすでにこの地獄から開放しているのだ。

 男は油断していた。前回アレ程痛めつけ、わからせたと思っていた。表面上でもなく心底自分を怖がっていたのも間違いなく従順になったのも違いない。

 『救世主』と勝手に奴隷たちに崇められて奴隷たちを操りやすいコマだなと思った程度だった。

 だから油断した。

『私はウタ! 救世主ウタ!!! この期を逃さないで!!! みんなは家族のもとに帰れるんだよ! 帰ろう!! 帰り道は1つ! 帰り道は1つ!!!』

 どんな方法を使ったのか知らないが、一部の奴隷たちの首輪を外し、奴隷たちを扇動し、賛同した奴隷たちは奴隷たち同士で次々と開放し看守たちを殴りつけ武器を奪い逃げ出してしまった。

 だがそんな救世主も最後には仲間に裏切られこちらと協力関係にある海兵たちに引き渡されるという目にあっている。

 まぁ無理もない話だと男は思った。そもそも脱出の際に殺さないように気絶するように指示をしていたらしく倒された看守たちの殆どは目を覚ましている。

 こんなイカれた女は百害あって一利なし。切られて当然だ。

 それでもこちらとしては溜飲は下がらない。反乱の首謀者を怒りで殺して逃げた他の連中の情報をみすみす逃しては本当に『ジョーカー』から切り捨てられる。だからこそ、この女を拷問しているのに一向に吐こうともしない。

「さっさとどこに逃げたか教えろ。じゃないとこっちもいい加減に我慢の限界だ。じゃねぇと本当にころすぞ」

 多少、傷がついてももはや構わない。というよりもこいつを支配しないと腹の虫がおさまらない。

「いいよ、別に」

「はぁ?」

「やりたいなら、やればいい。私の肉体が消えたところで私は死なないよ。私はまだ生きてる」

 いかれちまったのか、この女? そう思った男は不意に髪の毛をもつ力が緩んだ。

「だから教えない、私は救世主のウタ。みんなが救われるなら私はどうなってもいい」

 男は益々気味悪がった。普通の人間なら痛みに耐えられないのにこんな戯言を吐くなんて常軌を逸している

「フッフッフッ。ずいぶんと仕事熱心じゃないか、なぁ?」

「なっ・・・あんたが! 貴方様がなぜここに!? 『ジョーカー』!!」

「なんだ、きちゃまずいのか?」

 びくりと体が強ばる。もちろんまずい。なぜならすでに『ジョーカー』にこの大失体がバレているというのは明々白々。

 もはや女にかまっている暇はない。なんとか、なんとか言い訳を考えないとそう内心で無い知恵を絞りながら言葉を紡ぐ。

「そ、そんなことはありません!」

「まぁ安心しろ。別にお前を責めてるわけじゃねぇよ。ちょっとその『救世主』におれが興味を持ったんだ。一体どんな顔なのかってな」

 そう言って『ジョーカー』は男を素通りし、女の顔を持ち上げじっと見つめる。

 ウタには首を絞められた苦しさがあった。だがそれ以上に他の奴隷たちを守れるならこの男に自分が殺されても良いという覚悟でそのサングラスの奥にある目を見つめ返していた。

「・・・なるほどな、こりゃお前みたいなクズには手に負えないわけだ」

 そう言うと『ジョーカー』は女の顔を雑に手放す。

「昔おれもこういう人種にさんざん手こずらされてな、だからこの手のやつに煮え湯を飲まされた先達としてこういう奴の心を折るぴったりな拷問を教えてやるよ」

 助かった、男はそう思った。ジョーカーさえも認める危険な女。それを認めてくれるなら命だけは

 突然、『ジョーカー』の手から伸びた糸が男とウタの体を縛り上げる。

「な、なに!?」

「じょ、ジョーカー一体何を!?」

「フッフッフッこの手の人種のやつはな、どんな相手だって傷つけるのは我慢ならねぇのさ。例えばお前みたいなクズでもな」

「いや、ダメダメダメダメ!!! いやいややめてやめて!!!」 

 不思議な糸で操られたウタは身動きを取れない男の首をギュッと締め上げる。ウタは抵抗するも動けば動くほど糸が絡まりどんどん腕に力が入り、男の顔はみるみる青くなっていく。

「こんなの駄目! いやぁあああぁああッ! 死んじゃう死んじゃうよ!! なんで!? どうして! どうしてこんな酷いことするの!?」

 ウタにとって自分の生死は良くも悪くも他人と比べたら二の次だ。ウタは元来他人との共感性が非常に高く、その感情を歌に込めて歌うのを最も得意としている。

 だからこそ、自分の手で人が死にゆく。死にゆく人の絶望、恐怖、そしてなによりも自分がその人を殺す。その総てがウタにとってこの世で最も耐え難いことだった。

「フッフッフッだからいっただろ、こういうやつにはこの手のが効くんだ」

 知らなかった。世の中にはこんなこわいことがあるなんて。

「やめて、やめてぇよぉ言うことききますからいい子にするから!」

「それはどうだろうなぁ?」

 知りたくなかった。シャンクスたちのいない外はこんなにも冷たく暗く醜悪だったなんて。

「いうこと聞きます! ききます!! だから助けて、助けてあげて!!!」

 そんな嘆きを嘲笑うかのようにキュッと糸に力がこもり、ついに男から泡が吹き出る。

 

 ポキリと何か大事なものが折れる音が聞こえた。


「フッフッフッ。こりゃ酷い、お前だ。お前のせいでこの男は死んだぞ。まぁ元々こいつは奴隷売りな上に殺人鬼の屑だ、気にすることはないフッフッフッ・・・ハッハッハ!!」

 嘲弄、嘲笑、侮笑、ありとあらゆる吐き気を催すような嗤いが場を支配する。

 糸は離されウタはその場にへたり込む。

「おいおい、まだ一人目だぞ? これからお前が生かした看守全員をお前の手で殺すんだ。そして理解するんだ。お前はおれたちの商品で『おもちゃ』だということをな・・・フッフッフッ」

 こんなことならシャンクスの言いつけをずっと守っていればよかった。ずっと船から出なければよかった。

 会いたいけどもう会えない。

 ふとマークを見つめる。

 大事な大事なマーク。

 そのマークは塩水と泥で穢れ切っていた。

「思ったよりもあっさりと折れたな…まぁいい。ディスコに預けりゃいいだろ」


 糸で再び操られ歩く。


 その日、救世主のウタは、赤髪海賊団のウタは死にゆく運命にあった。


麦わら帽子を被った海賊と再開するまであと1ヶ月…


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