死で二人は分たれず
if 霊王化ルート兵主部に導かれて、石田雨竜と平子撫子は原型を留めていない霊王宮に居た。
もうすぐ、世界が崩れて消え去ってしまう。
「アタシ、雨竜を好きになってよかったって思っとるんよ」
「僕も、君を好きになってよかったと思うよ」
最初はユーハバッハに敗北した一護を霊王に据えようとしていたのだ。
友人が犠牲になりそうだった滅却師と死神は、友人の代わりに二人で世界の楔になることを選んだ。
「ね、雨竜はまだ17年しか生きとらんやろ?アタシは100年生きたからええけど、ほんとにええの?」
「いいんだ。君に比べれば少ない年月だけど……いろんなものを見た。だから、いいんだ」
「……そっか。雨竜が納得して、後悔もないんやったら……。……あーあ、デートしてみたかったなァ。高校卒業して、進学とか就職とかして……結婚とかも、あったんかなァ」
二人は互いに向かい合う。その瞳に迷いはなかった。
「ねえ、雨竜。好き。大好き」
「撫子さん……好きだ。君が、好きだ」
そっと、優しく唇を重ねる。
最初で最後のキスをして、二人は抱きしめ合った。
二度と、離れないように。
世界を、繋ぎ留めるために。
「ずっと、いっしょに」
**
「おはようさん雨竜」
「ああ、おはよう撫子さん」
「訊いた? 一護と織姫ちゃん付き合い始めたんやって!」
「そうみたいだね。やっとって感じだよ」
「せやなあ。にしても……好きな相手のタイプって遺伝するんやろか」
「そうかな……」
「やってほら、一護のお母さんと織姫ちゃん、どっか雰囲気似とるもん」
「それを言うなら母さんと君が似てることになるけど」
「……どう? アタシ雨竜のお母さんに似とる?」
「似てな……いや、似て……うーん……」
夢を見ている。
「それだと君の父親と僕が似てることになるよ」
「それは無いなァ。アイツと雨竜が似とるとこ眼鏡しかあらへんよ」
「じゃあ好きなタイプが遺伝する説は否定されたね」
「そっかァ」
**
「うーりゅーうー、おーきーてー」
「んん……」
「朝やでー。朝ごはんできとるでー。おはよー」
「……」
「ねぼすけさんやなァ。はやく起きんとイタズラするで」
「……おはよう撫子……」
「はいおはようさん。大学遅れるで」
「うん……」
夢を見ている。
「はい、お弁当。いってらっしゃい」
「ありがとう。行ってくるよ」
「勉強頑張ってなー」
**
「おはよう……」
「おはよ雨竜」
「……あれ、二人は?」
「キリエもユヅルもお義父さんとこ。お義父さんとお義母さんに会いに行っとるよ。ひよ里姉もついとるから大丈夫」
「なんでまた実家に?」
「滅却師の弓出せるようになったからお義父さんたちに見せるんやーって言っとったよ」
「それで朝から……」
「朝いうてももう10時やで。昨日は病院立て込んでて大変やったんやろ? たまには起こさんといてもええかなって」
夢を見ている。
「……撫子」
「なあに?」
「幸せ?」
「……幸せやで。好きな人と一緒に居れるもん」
「寂しく、ないかい」
「……ちょっとだけ、寂しいかな。ほんのちょっとだけ。雨竜こそ、もっと生きたかったんとちゃう?」
「……そうだね。君と、生きていきたかった」
二人はずっと夢を見ている。幸福な夢を。
ユーハバッハは逃亡し潜伏。
ユーハバッハを代わりの霊王に据えることを条件に、10年後に救出されたりされなかったり