歪んだ救世主/書き換えられた楽譜

歪んだ救世主/書き換えられた楽譜


時は大航海時代。みな自らの身が1番大切であり、まるで生きてるかのように揺れ動くこの時代において情報1つで人々は一気一憂する。そんな時代。また、一つの事件で世界は変わる。

その事件は、瞬く間に世界に広まった。歌姫を奴隷にしようとした天竜人を海軍の期待の星が殴って逃亡中。

ーー歪んだ救世主ーー

その反応は様々だった。堕ちた英雄に嘆き悲しむ者。ただ、2人の身を案じる者。2人にかけられた莫大な懸賞金に舌舐めずりをする者。そして、彼を救世主と崇める者。その事を知り煽る者もまたいた。

『海軍の英雄だった"麦わら"のルフィは空白の100年に世界政府に敗れた解放の戦士の生まれ変わりだ!!過去天竜人に逆らい彼らに泥を塗った人物であるフィッシャータイガーは太陽を崇拝していた。また、"麦わら"のルフィを太陽のようだと形容する人間は多く居た!!ゆえに、彼はこの世界に太陽の神を背負い生まれ変わった解放の戦士なのだ!!』

世界経済新聞に載せられた与太話。奴隷解放の英雄と堕ちた英雄を並べその共通点を捻り出しただけの拙い理論。だが、それでもこの荒れ狂う時代に置いてそれは支持された。"救世主"ルフィ!!人々は口々に叫んだ。天上金が払えずに保護を受けられない貧しい国の人々も、天上金に苦しめられ苦境を余儀なくされた人々も、大切な人を奴隷として天竜人に連れてかれた人も。人々は口々に言う。海賊も天竜人も許さぬ救世主だと。この時代を終わらせてくれる救世主だと。太陽信仰。空に浮かぶ最も明るい太陽と救世主を重ねる。人々はその救世主に救いを求めた。それはただの与太話であった筈だった。

遠い昔に神がいた。奴隷達に信仰された解放の戦士。太陽の神。その力は確かに救世主の内に宿っていた。故に唯の与太話では無くなった。不完全ながらも信仰は回復した。歪であろうとも確かにその与太話は符号した。故に目覚めた。たとえ不完全であろうとも、どれだけ歪んで居ようとも解放の戦士は目覚めてしまった。人々の望む声に導かれて。歪み移ろいその名前は失われた。だから信仰に則りその名が、今はかの者の名だ。

"救世主"ルフィ

ーー書き換えられた楽譜ーー

荒れ狂う時代。海軍は力を落とし四皇が暴れる混沌とした時代。その中で人々が求めたのか過去と平穏だった。"歌姫の音貝"とある事件以降販売中止となったそれはその後に裏社会で作られた物も含め多量に世界に出回った。その歌に人々は遠い過去を思い出し偽りの平和に縋る。海賊が憎い。僕たちの村を壊した海賊が。海軍なんてクソだ。どれだけ願っても守ってくれない。戦争が…国が…召喚稼ぎが…。世界に出回った歌を通じ、魔王は世界中から負の感情を集める。それは怒り、憎しみ、悲しみ。力をつけた魔王はさらに力を手に入れようとその手を伸ばす。なんで奪われなきゃいけないんだ!!結局誰も助けてくれなかったじゃないか!!おとーさん…おかーさん…おきてよ…。慟哭。喪失感。現実逃避。歌姫の歌に逃げた者達から負の感情を集める。力をつける。だから気が付かなかった。余計な物まで集めてる事に。ウタちゃんの歌は心が落ち着くね。ウタちゃん、君の歌を聞いてるだけで幸せになれるんだ。ウタちゃん…ウタちゃん…ウタちゃん…。人々は歌姫の歌に平穏を見出した。それを使い魔王は感情を集めた。故に余分な物までついてきた。"歌姫の歌"である魔王にも安らぎと平穏が付与される。"歌姫の歌"であるならば負の感情の集合体である魔王であろうと人々は救いの歌と言うだろう。承認欲求、孤独感、助けて欲しい。そんな魔王の在り方は世界の人々の逃避により書き換えられる。絶望と破壊の歌は安らぎと平穏の歌になる。ならば、もはやそれは魔王ではないのだろう。まだタイトルすら付けられてないその歌はいつか歌姫に歌われるのをゆっくりと待つのだ。

"歌姫の歌"ーーーー

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