正しい猫の愛し方
おれの所に猫が来るようになった。実際には猫と呼べる程かわいらしい存在ではないが、便宜上猫と呼ぶことにする。頻々と通って来てはおれのことを睨みつけて訊問していく。上の命令で仕方なく来ているものの、目当ての情報が思うように手に入らず、無駄足を運び続けるはめになっているようだ。雇われの身のつらいところだな。
ところが、不思議なことに猫はこの状況を苦にしている風がない。こちらが積極的に追い払わないからかもしれないが、いつも気ままに猫らしくふるまっている。やってくるとまず無遠慮に睨みつけながら差し入れを押し付けてきて、何をしていたか変わったことはないかと聞いてくる。別段隠すこともないから正直に話してやると何故かそれに満足して機嫌よく帰っていく。愛想もなく態度がいいとは言えないが、至って真面目にノルマをこなすといった様子で、ウワサに聞いているのとは違うところも多い。凄まじくとんでもない奴だという話も耳にしたんだがな……。猫なのに鳩を連れているのもよく分からない。全く面白い猫だ。
そうこうするうち猫は次第に自分のことも話すようになった。政府の猫のくせに投獄中の海賊に向かって仕事の愚痴まで漏らす始末だ。後から考えると笑ってしまうが、深刻な顔で訥々と話すのでおれもつい真剣に相談にのってしまう。マネジメントに関わることなら興味がないとも言えないしな。猫の雇い主がどれだけの大局を見ているかは知らないが、差配が不味ければ人材を枯らすことになる。この猫は猫らしいワガママなところもあるが仕事には使命感を持って取り組むようだし、決断も早い。おれがこいつを雇うなら重用するだろうな。……おれがこいつを? 何をバカなことを考えてるんだ。どうやら獄中暮らしで頭まで鈍ってきたらしい……。しかし左右に頭を振ってみても、おれの脳裡から猫の顔は消えてくれなかった。
あれから二年ばかりが過ぎ、いろいろなことがあった。おれは脱獄して新しく会社を興している。猫は相変わらず猫のままで、今日もおれの周りをウロウロしている。
猫は自由にさせておくのが一番だ。手元に縛りつけるなんてできはしない。飼い主にならなくとも自由に生きる様を見ていられたらそれでいい。そうしていつでもやってきて、勝手に膝の上で眠り始めればいい。