止り木こそ辿り着いた幸福
人理保証期間ノウム・カルデア。
地球白紙化現象解決のために残された最後の希望として足掻き続ける日々、苛烈な戦いの中にも確かに安息の日々は存在した。
些細な事で笑い、惑い、怒り、泣き、或いは暇を持て余し……歴史に名を連ねる多くの英霊が織りなす日常は平凡とは言い難いが、それでも確かに日常だった。
その中心とも言える人類最後のマスター藤丸立香——彼は今、ある事で苦悩していた。
「んっ……♥何難しい顔してるのよ」
「いや……」
二人きりのマイルーム、備え付けられたベッドに身体を沈めながら彼の股間に身体を埋めている彼女は虞美人。
かつてクリプターとして敵対した真祖であり、今ではカルデアに所属するサーヴァントの一人であり……その身を持て余した女達の熱に充てられ彼と関係を結んだ者の一人だ。
気付けば召喚された時よりも一回りも二回りもサイズを増した胸で彼のペニスを挟み、慣れた手つきで奉仕を行っている。
「流石にこんな事を続けるの悪いなって思って……」
「何を言うかと言えば今更……」
呆れた、と顔で語りながら彼女は奉仕を再開する。
「……♥」
圧を加え、上下に擦り上げ、それでも埋まり切らず顔を出している剛直の先端を舌でねっとりと丁寧になぞる様に舐めあげる。
ザラついた柔らかな肉の感触にぶるりと背筋を震わせると彼女は得意げに/嬉しそうに鼻を鳴らしてより奉仕に熱中していく。
「だ、だって先輩は項羽を待って……こうなったのもほとんど、事故みたいなものだし」
「人の身体を何度もケダモノのように貪った男の台詞とは思えないわね」
立香の言葉も虞美人からすればそれこそ今更だ。最初は事故のようなものとはいえその後も身体を重ね続けたのは当人の意志。今更悪いなどと遠慮を出すのはそれこそ失笑ものである。
あるのだが……この底抜けのお人好しは恥知らずだろうと正しい事を選ぼうとするのはもう理解していた。
だから「項羽と巡り会うために英霊となった虞美人」とこのような関係になっているのに後ろめたさを感じるのも理解できる。
だが、
「そもそも、その肝心の項羽様を召喚してくれないじゃないの。アンタだってまんざらでもないじゃない」
「それについては誠に申し訳ないと……」
その肝心の項羽はまだカルデアに召喚されてはいない。
いずれ召喚されるだろうがそれがいつになるかはそれこそ神のみぞ知る事であり——居ない以上、この関係を咎める者もまた存在しないのだ。
だから問題はないと誤魔化すように、或いは先の言葉を言わせないように虞美人は奉仕を続ける。
それでも、立香は言わずにはいられなかった。
「俺は、先輩みたいな綺麗な人とこういう事が出来て確かに嬉しいけど……それでも好きな人が居る先輩とこういう事をするのは……」
何よりも先輩自身に悪い、と。
恥知らずでも愚かでも彼女を想っての言葉に虞美人もようやっと手を止めた。
シンと静まり返るマイルーム。うつむいたまま止まった彼女は言葉を発する事はなく痛い沈黙で停滞したまま時間ばかりが流れていく。
伝わったのだろうか?或いはここまでしておきながら今更拒否する自分に幻滅した?それならそれでも構わない。
彼女のためになるのならその程度は甘んじて受け入れなければと一人悪人になる覚悟を決める。
「…………………………はぁーーーーーーーーーーーーーーーー」
だがやっと開かれた彼女の口から出たのは罵倒や理解の言葉ではなく……心底呆れたという溜息だった。
「まさか、本気で理解してないとは……何人もの女を手籠めにしておきながら……」
「あの、先輩?」
眉間に指を当てる彼女に声を掛けると物凄い形相で睨まれた。殺意さえ籠ってそうな目つきにいよいよもって命の危機を感じる。
それでも彼女のために譲る訳にはいかないと目を逸らす事はしない。
そんな状態がしばらく続いて……再び彼女は深く溜息を吐いた。
「お前のような唐変木にはもっとはっきり言わないと分からないってことね……良いわ、私も覚悟を決めた」
そんな言葉を口にする彼女は何か大きな決心をしたように見える。
何を、と聞こうとしたその瞬間——花のような香りと共に、立香の口は塞がれた。
なんの変哲もない唇が触れ合うだけのキス。いつもと違うのは強く、離さないとばかりに背中に回された腕と触れ合う時間。何かを確かめるように長く……十秒か、一分か、或いは一秒だったか。それはやはり彼女の方から熱っぽい吐息と共に離れる事で終わりを告げる。
「せん」
「虞、と」
何かを口にしようとした立香を遮るように彼女が有無を言わさぬ口調で語りかけてくる。
強く、そして今まで見せたことの無い表情で。
「虞とお呼びください、立香様」
「……え?」
まるで違う態度、まるで違う口調……まるで知らない彼女の姿に困惑する。
こんな姿はまるでそう、かつて異聞帯で見た項羽とのやりとりのような……
「せん、ぱい?」
「項羽様に未だ巡り会えず周囲に流されての行為——初めは確かにそうでした。ですが、今はもう違うのです」
見たことの無い彼女の姿が別の女性の姿と被る。マタ・ハリのような、ブーティカのような、パールヴァティーのような……自分を見つめる彼女たちの姿と被る。
「未曽有の危機にか弱き人の身でありながら立ち向かう姿を、多くの英霊と絆を結ぶ在り方を、そして……ありのままの私を受け入れてくれた貴方を、愛してしまったのです」
堰き止めていた堤防が壊れたかのように彼女の熱は高まっていく。
熱く、熱く、燃やし尽くすような熱が少しでも目の前の人に伝わるようにと。
「交わり、悦び、満たされ……そのような愛もあるのだと貴方に教えて頂きました。虞は、貴方様の愛に……溺れてしまったのです……♥」
事故であろうとも満たされて、満たされた以降は寂しくなり、求めれば求めるだけ応え満たされ……気付けばドロドロに溶け堕ちている。
気付いた時には愕然とした、後悔もした、迷いもした。それでも……
「もう貴方様に愛されない日々など想像できません、したくもありません。例え項羽様が召喚されようとも私は——んっ♥」
それより先は言わせてはならない。言わせるよりも先に自分が言葉にしなければならない。
だから彼女と同じように口を塞いだ。突然の口付けに彼女は驚き、すぐにその意図を察して感じ入るように瞳を閉じる。
短い、十秒にも満たない口付け。それだけで互いの意志は確認できた。
「俺も覚悟を決めるよ……ありがとう。だから虞、俺の……俺の女になって欲しい」
「——はい、はいっ♥」
想いが通じた言葉に彼女は花のような笑顔で笑った。今まで向けられたことの無いそれに見惚れた立香はもう自分が引き返せない事を理解する。
たとえそれがいずれ召喚する者への裏切りでも構わない、と思えるほどに。
「虞は——今生の愛の全てを、立香様に捧げることを誓います♥」
薄暗いマイルームに肉を叩きつける音が響く。
パン、パン、パン、と断続的に響く音はそれと同じ数だけ虞美人に絶頂を味わわせていた。
「お゛ほっ♥イグっ♥イグイグっ♥ほぉぉおおおおおおおおおお♥♥♥」
「凄い、乱れよう……!そんなに、気持ち良いのっ!?」
「は、はいぃっ♥立香様の♥魔羅♥♥素敵過ぎて、突かれるだけでぇ♥んあぁああイクゥゥっっ♥♥♥」
自身の心に素直になり箍の外れた彼女の乱れようは今までにないほどだった。
ずっと伝えきれていなかった愛情を全て伝えんとばかりに情熱的に肢体は踊り立香を求める。
「は、初めて交わった時からっ♥立香様の魔羅で貫かれた時からっ♥♥子宮を立香様の子種で満たされた時からっ♥♥♥ずっとお慕いしておりましたあっ♥♥♥」
「っ……悪い人だ、虞っ!」
パァン、と一際大きな肉を打ち付ける音。
一息に子宮を潰された彼女は受け止めきれない快楽に限界まで背を仰け反らせ、つま先までピンと伸ばしながら一瞬で絶頂する。
「ん゛んひぃぃぃいいいいいいいい♥♥♥イグイグイッックゥゥゥウウウウウウウウウウウ♥♥♥♥」
身体を痙攣させながらだらしなく舌を伸ばし愛する者からの愛を堪能する。
だが立香はまだ満足していない、お構いなしに腰を振り虞美人を自分の手で蹂躙していく。これ以上は無いと思った至福は次の瞬間にはまた愛する者の手で更新された。
「素敵です立香様♥数多の英霊を♥女を♥貪り、蹂躙し、屈服させる♥貴方様こそ人類最後のマスターの名に相応しい英傑♥♥並ぶ者などいない無二の御方です♥♥」
立香の手で蹂躙される事を誇るように虞美人は彼を褒め称える。今までの彼女からは想像もつかない姿は項羽に向けていた愛を立香に向けた結果のものだ。
即ち、愛する者をこそ素晴らしいと称える姿。
かつて項羽にそうだったように立香もまた彼女にとってこの世の何にも勝るものとなったのだ。
いや……或いは今この瞬間は、それ以上に。
「ああっ♥感謝します、これまでの全てに♥立香様の女となれた運命に♥愛しております立香様ぁっ♥♥」
「俺も、愛しているっ!誰にも渡さない、虞は……俺のものだっ!!」
「あ、ああぁっ♥♥♥はい、立香様のものです♥この、貴方様好みの身体も♥心も♥全てぇっ♥♥」
その言葉で、感激のあまり彼女はまた絶頂した。
涙と涎ではしたなく歪んだ顔であろうと立香は躊躇なくその唇を奪い、舌を貪り愛してくれる。それが嬉しくて虞美人はまた愛を深め女の幸福を極めた。
「お願いします♥私に、虞の子宮にお情けを♥立香様の優秀な子種をどうか、虞にお恵み下さいっ♥♥」
「分かった……じゃあ遠慮なく、出すよっ」
絶え間なく男根を求めて刺激を与えてくる極上の肢体に立香もまた限界だった。
これ以上はないと言えるほどに蕩けた瞳で子種を強請る虞美人に応えるべく動きは激しさを増していく。
その間にも何度も絶頂し、意識を飛ばしかけながらも絶対に受け止めなければならないと脳天を突き抜ける快楽の奔流に耐え……そしてついにその時は訪れた。
「ぁ————————お゛っ、ほっ♥」
どぷんと、固形物かと錯覚する様な精液が波打ち、子宮を我が物顔で占領し支配していく。
焼けた、と錯覚した。敏感になった肢体にはそれだけ刺激が強く——最高の射精だった。
「ん゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おおぉおぉぉぉぉっ♥♥♥イグっ♥子宮♥焼かれて♥♥支配され、てぇ……っ♥イ、クゥゥゥウウゥゥゥウウゥウウウウウウウ♥♥♥♥」
収まりきらず逆流してきた精液が勢いよく溢れ出る。
精液が子宮に吐き出される度により高く上り詰め天国のような快楽地獄を虞美人は幸福のままに漂った。
「愛、して……おります……♥立香様ぁ……♥」
最後にこれだけはと愛を伝え……虞美人は意識を失うのだった。
「……ふ~~~~~ん、ぐっちゃんそんな感じで立香の女になったんだ~」
「うるさい、お前だって似たようなものでしょう」
マンションの一室、クッキーをつつきながら紅茶をたしなむ美女が二人。
どちらも人間離れした美貌を誇る彼女達は共に形は違えど真祖という名を共にする者達だ。
「けど夜以外は先輩風吹かせて私達に対するようなフランクな態度よね。なんで?」
「それは……立香様が、普段はそっちが良いと仰ったから……あと程なくして項羽様も召喚されたし……」
「ああ、貴女も後になって愛していた人が来たのね。隠すの、大変だったんじゃない?」
彼と関係を結んだ多くの女性はその大半が後になってから愛する相手が召喚された。
最も、既に立香に操を立てているためそういう関係になる事は無かったが。
「確かに大変だったけれど……流石は立香様、項羽様もすぐにあの方を認め最後には私を託されたわ。多くの英霊と絆を結ぶ器を持つ御方だから認めて当然だけど」
「気持ち良く送り出してくれるのは嬉しいわよね。だからその気持ちに応えるために私達は幸せにならなくちゃね?」
「ええ、立香様の妻として今度こそ幸福な時間を」
その時、無機質な音を立ててドアが開く。聞きなれた声が床を叩く音と共に近づいてきた。
その手には買って来た物が詰め込まれたレジ袋が一つ。
「後輩、ちゃんとアイス買って来たわね」
「ダッツですよー。あ、いちごは残しといてくださいね、式用なので」
「はいはい、さっさと寄越しなさい」
「私もちょーだいっ」
和やかに時間は過ぎていく。
二度目のせいで別の愛を選び取った女達はこれからもその愛を一心に受け、溺れるような幸福に身を震わせながら彼の女として生きていくのだ。
だから虞美人はアイスを受け取る際にそっと耳に口を寄せ囁いた。
「今夜のご寵愛、お待ちしておりますね……立香様♥」