歌姫vs.旱害 第一楽章
屋上の決戦もいよいよ佳境に入り始める。そんな中、未だに戦況が読めていない者が1人。ウタの創り出した箱に閉じ込められたゼウスだ。
「ママ〜!!何があったの!?大丈夫!!?あ!!あれ!?消えた………ママどこー!?今行くよ!!助けるよ!!」
ウタの創り出した箱が突如消滅した事によりようやくゼウスは解放された。だが消滅したのは箱だけでなく、ウタが纏っていた鎧も消えていた。
「どうした歌姫屋…?」
「ごめん…能力使いすぎてもう眠気が……」
ここまでの屋上での戦闘において常に鎧を身に纏い、ゼウスを捕らえた箱を始めとして色々なものをウタウタの能力によって生み出していたウタの体力は既に限界のところまで来ていたのだ。
そして、ルフィがカイドウをブッ飛ばしてから鬼ヶ島中を揺らしたビッグ・マムの"震御雷(フルゴラ)"は当然ローも感知していた。ビッグ・マムが城に戻った事とゼウスを捜しに屋上へ来られたら厄介だと悟ったローはゾロとウタを抱えて下へ降りるために"ROOM"を展開する。
「おい!!お前1人残して全部連れてくぞ!!麦わら屋!!」
「ああ」
「わ」
ぱぱぱぱっ!と3人と雷雲1つが鬼ヶ島城内へと移動する。残されたのはルフィとカイドウの2人だけ。
「ウォロロロロロ…!!……楽しそうだな…窮地ほど笑い…笑う程に……!!……か」
互いに気にするものが無くなった両雄が"一対一"で激突する。屋上での決戦を制する者を決めるために……
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一方その頃城内2階──遊郭でブラックマリアに囚われていたところをロビンとブルックによって助け出されていたサンジが駆け抜けていた。なにやら荷物のようなものと1人の女性を抱え込みながら。
「懸賞金3億3千万ベリーの"黒足のサンジ"だ討ち取れ〜〜!!うわァ!!!」
麦わらの一味No.3の懸賞金を誇る黒足を討ち取ろうと百獣海賊団が襲いかかるも、サンジの蹴りの前にはただ吹き飛ばされるのみであった。だが目ざとい百獣海賊団の面々はサンジの抱えているそれらの正体に気が付く。
「見ろ!!あいつが背負ってんのもしかして"海賊狩りのゾロ"かも知れねェ!!!」
「それだけじゃねェ!!"海賊歌姫 ウタ"もおぶってんじゃねェかアレ!!?」
「えーー!?大金が大金を2つも背負ってる〜〜!!」
「言い方気をつけろ!!ハァ…ハァ…ウタちゃんだけなら天国だってんのによォ…!!お前が邪魔なんだよォマリモ!!」
数十分前─────
ボカァン!と爆発のする方向へと駆けていたサンジは突如頭上に現れたそれらに目を見張る。
「しまった!飛んでる何かと入れ替わっちまった!!あっ…黒足屋!?」
「トラ男!?それにウタちゃんにマリモまで…!!」
「受け取れー!!!」
飛んでる何かと"シャンブルズ"してしまったことで地面へと落下する3人をローの指示するままに受け止めるサンジ。
「おっと!こりゃ一体どういう…」
「わー!!ママはどこー!?今助けにいくよ!!」
「ゼウス!!お前ナミさんは……!!っておい!!」
落ちてきた3人と違いそのまま空中に漂っていたゼウスにも声をかけるサンジであったがナミの名前を出した途端に逃げられてしまう。だがローが放っておけと言ったことでサンジは自分の置かれている現状を見つめ直す。左肩には血だらけのマリモ。右肩にはウタを担いだローが寛いでいた。
「って何人の肩で寛いでんだ!!!それに何でお前がウタちゃん担いでんだトラ男!!ていうかどこから降ってきたお前ら!!」
「ちょうどよかった黒足屋、そいつを頼む」
そいつと指さす先には全身から血を流しているゾロ。一体何があったのかとローに聞こうとするも既にサンジの右肩から降りたローはその場にウタを残し去ろうとしていた。
「待て!!状況説明してけ!!」
「ゾロ屋はおそらく骨を2・30本やられてる。副木で固定し仰向けにして意識と呼吸を確保しろ。歌姫屋は能力を使いすぎて寝てるだけだ」
「2人の状況じゃねェよ!!」
「あっちの騒ぎはビッグ・マムか?ハァハァ」
「医者じゃねェんだぞ!!手当てなんかしてるヒマもねェよ!!!」
騒ぎのする方向、ビッグ・マムの元へと向かいローがその場から姿を消す。残されたのは出血が激しく意識も朧げなゾロとスヤスヤと寝息を立てるウタ、そしてそんな状況説明をすることもままならない2人を抱えたサンジのみとなってしまった。何も分からない状況ではあるが血を吐くゾロと起きる気配のないウタを置いては行けない。仕方ねェと人気のない場所まで2人を運んだサンジはローに言われた通りの治療をゾロに施し始める。
「お前…包帯なんて巻けんのか?」
「こんなもんハムを巻くのと変わらねェよ」
「フン…おれはハムか」
「そんな上等なもんじゃねェだろ…」
軽口を叩き合いながら手当てをするサンジと怪我人ゾロ。その傍らで相も変わらずウタはスヤスヤと夢の中。
「それで───お前がこんなに傷つく程の相手ってのは?」
「……カイドウとビッグ・マム」
「納得。よく屋上まで行けたな。ルフィは無事なんだろうな」
「何かを掴んだみてェだ…あいつが勝つ…!!」
「……わかってらそんな事…!!」
そして現在────
ぐがぁぁぐごーとイビキをかいているゾロと鼻ちょうちんを膨らませているウタをそれぞれ担いで運ぶサンジ。そしてそんな大金に次ぐ大金を仕留めようとする百獣海賊団を返り討ちにしながらサンジはゾロへ向かい叫ぶ。
「それよりウタちゃんだけ連れてお前をどっかに置いて行きてェんだが!!?」
だがそんなサンジの元へ3人の影がしのびよる。カッパの河松に元白ひげ海賊団16番隊隊長のイゾウ、そしてモコモ公国公爵のイヌアラシだ。
「サン五郎殿!!」
「お!!カッパ!!お前ら無事だったのか、よかった!!」
強力な助っ人3人を加えたサンジは百獣海賊団らを蹴散らしながら目的地へ向けて走り出すが、その助っ人らからどこへ向かうのかと聞かれ唖然とする。
「え!?おれ今モモの助の所へ向かってたんだぞ?お前ら違うのか!?」
「錦えもんが向かったゆえ大丈夫でござる!!」
「助太刀なら『ライブフロア』だ…」ぐー…
「依頼だけして寝るなてめー!!」
「行こう!!」
「戦力的に犠牲者は増す一方だ」
「ゆガラ、2人も抱えては戦い辛かろう。片方は私が背負おう」
「なっ!!てめェイヌアラシ!!なんでウタちゃんの方を取るんだよ!!!」
サンジの負担を憂いたイヌアラシが新たにウタを背負う形となり、彼ら6人はライブフロアへと向かう。だが彼らとはまた別にライブフロアを目指す者がいた。
「どうですか!?お体の調子は…!!」
「あァ…よく効いている……さすがはクイーンの兄御だ。これでようやく戦線復帰できる……侍もミンク族共も、そいつらとともに侵入してきた連中も………覚悟しろ!!おれが全て踏み潰してやる!!!」
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鬼ヶ島城内各地での激戦は苛烈を極めていた。城内2階では荒れ狂うビッグ・マムが味方であるはずのうるティ・ページワンをブッ飛ばした後、追いすがってきたキッドとぶつかる。城内3階ではモモの助のようなものを抱えたヤマトが暴れ散らす。他各フロアにおいても百獣海賊団の幹部らと新世代達が激闘を繰り広げる。
その中でも特に顕著だったのは鬼ヶ島の中心といえるライブフロアだ。そこではクイーンへの怒りに満ちたチョッパーがブラキオサウルスとなった非道な科学者を投げ飛ばしていた。だがその背中にはビッグ・マム海賊団の長男ペロスペローの能力で生み出された無数のキャンディの矢が刺さっている。
シーザーの助言によりモンスターポイントを従来の3分から30分に延ばしたものの、クイーンにはまるで攻撃が効いていない。勝者の息づかいでないながらも負けじとクイーンへと立ち向かうチョッパー。だがそこへ凶報がもたらされる。その全文はこうであった。
「鬼ヶ島全土へ報告〜〜!!決着がついたよ!!敵の最高賞金首"麦わらのルフィ"は〜〜〜!!敗けたよ〜〜〜!!カイドウ様に息の根を止められて"麦わらのルフィ"は暗い夜の海の底に沈んでいった!!"光月の侍"も"船長"も敗けたよ!!!次は誰!?誰か勝てる!?カイドウ様は下へ降りて"掃除"を始めるよ!!カイドウ様はお前達の『降伏』を認めるよ!!両手を上げて『降参』『服従』する者は!!命を助け"部下"としてェ〜〜〜迎えるよ!!!」
ルフィの、そして赤鞘の侍達の敗北。その真偽はどうであれ討ち入りに加わった者達の戦意を削ぐには充分な情報であった。動揺する者、怒りを示す者、朗報だと喜ぶ者、意に介さない者、泣き出す者…
反応は各種様々であったが、ライブフロアへ向かうサンジとそれに抱えられているゾロの2人は「ふざけんな!!」と怒りを示す者の側だった。
そして眠りについているがためにその凶報を聞くことはないと思われたウタの耳にもその報せは届いていた。言葉として表すことはなくとも眉間に皺を寄せ、苛立ちを募らせていることは明らかだ。それでも起き上がることなくイヌアラシに背負われたままなのはまだ眠いからなのか、はたまたこの後に来るであろう激戦に備え体力回復に勤しんでいるのか。それは本人にしか分からないことではあるがとにかく彼女は未だ眠り姫の如く眠っていた。
ところ変わってライブフロア。そこでは麦わらのルフィ敗北の凶報に戦意を折られパニックに陥っていたチョッパーをクイーンがもう終わりかよと声を荒らげる。
「やる気あったから遊んでやったのによォ!!」
『チョパえもんさーん!!』
「クククク…"大将"を殺されて大パニックだな………!!ペロリン♪"終末の雨(キャンディシャワー)"!!!」
ペロスペローがライブフロアの侍と裏切りの元百獣海賊団らへ向けてキャンディの矢を雨の如く降らせ殲滅を図る。続いてクイーンも完全に戦意喪失したチョッパーへ向けてより鋭利となった牙を向ける。
「ムハハハお前も終われ!!腰抜けモンスタ〜〜!!やわらかそうな肉だ!!!」
「………!!」
ブラキオサウルスにモンスタートナカイが捕食されようとしたその瞬間、城内2階の襖がバキィン!と蹴破られる。そこから飛び出したのは包帯でぐるぐるにされた男を抱えたイカすグルまゆの男。
「"悪魔風脚" "回転焼(ロティサリー)" "ストライク"!!!」
「ぎィやああああ!!!ああああああ!!!」
その男、黒足のサンジが放った灼熱の蹴りはクイーンの頬をメキメキと形を変えさせぐるんぐるんと回転させながら吹き飛ばしていく。ペロスペローの放った矢を弾き侍達を助けながら吹き飛ぶクイーンの行く先にはその矢を放った当人がちょっと待てェ!!と叫び、そしてペロリーン!!と大きく飛ばされてしまう。
矢が弾かれて一安心かと思われたが、そこへ再び矢の雨が降る。どうやら用心深い万国の長男は時間差で二重に矢を降らせるよう放っていたのだ。今度こそダメだと思われたその時、サンジが蹴り破った襖の奥から3人の男が飛び出し矢を弾き飛ばす。
「"滅南無川(めなむがわ)"!!!」
「"弾斬丸(だんぎりがん)"!!!」
「"犬大門風(いぬおどし)"!!!」
今度こそ全ての矢が無くなったことで助かったと安堵する侍達。一方、ブラキオサウルスを蹴り飛ばしたサンジは一服しながらチョッパーをよくふんばったなと労う。だがチョッパーは先の凶報によりルフィが負けたとサンジに泣きつくが泣くなバカと一蹴される。
「いくらでも見てきたろ?"奇跡"」
どれだけ枯らされようとも食らいつき雨を降らせ、落とされようとも黄金の鐘を鳴らし、司法の塔をぶち壊し、奪われた影を取り戻し、10億超えの男を倒したあの男を信じろとサンジは言う。そして傍に控えていたハムの如く包帯を巻かれたゾロをチョッパーの元へ預ける。
「こいつを頼む!!復活すりゃあ10人力だ」
「2千人力だ…!!」
「え…何これ……ゾロォ!?」
「あの恐竜はおれに任せろ!!!」
「てめェ…かァ〜!!ジャッジのせがれ〜」
自分の船の船長がやられたというのに戦いをやめないサンジになぜ…?と疑問に思う侍達であったが、そこへすぐにメアリーズを通じてモモの助から鬼ヶ島全土へルフィ敗北の凶報を塗り替える吉報を届ける。ルフィは生きていると。どれだけ痛く辛くても、命のかぎり戦いを続けて欲しいと。ルフィは必ず勝つのだからと!!その言葉に戦意を失っていた者達が再び立ち上がる。戦いはまだ、終わっていない!!
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鬼ヶ島を包み込む戦火は留まることを知らない。お玉の号令により鬼ヶ島中のきびだんごを口にした"ギフターズ"が裏切り、勢力図が大きく動いた事によりさらにそれは加速する。ライブフロアにおいても人獣モードへ移行したクイーンが自慢のレーザーを連射し、より地獄絵図へとなっていく。
ゾロを託され、ランブルボールの副作用によりベビジジーと化したチョッパーは助手のトリスタンに抱えられながらミヤギが持ち込んでいた「超回復」を可能とするゾウの薬を包帯の上からブスッ!!と差し込みゾロの回復を図る。
一方、依然としてイヌアラシの背に揺られウタは眠り続けている。イヌアラシもそんな彼女を守ろうと河松・イゾウと共に襲い来る敵の魔の手を払い除ける。
それから十数分後、各地で新世代達が百獣海賊団の屈強な幹部"飛び六胞"を討ち沈める中、ライブフロアはさらに苛烈を極めていた。だがそこで行われていたのは戦いというにはあまりにも一方的な処刑であった。
「おい元百獣海賊団のゴミクズ共ォ!!!」
「裏切り者の代償は高くつくぞ」
「ギャアアア〜!!!」
お玉によって百獣海賊団から離反したギフターズらが次々と焼かれ斬られ潰されていく。SMILEによって能力を得たにも関わらず大看板であるキング・クイーンとの力の差は歴然であった。だがそこにさらなる絶望がドシンドシンと鳴らしながらやって来てしまう。マンモスの姿へと変身したジャックだ。
「ゼェ…ゼェ……兄御達ィ!!遅れてすまねェ!!加勢する!!!」
「ジャック〜!!どうしたその傷ゥ!?」
「屋上で手酷くやられちまった……!!だがもう大丈夫だ。クイーンの兄御の薬のおかげでまだ動ける!!」
「"エキサイト薬(ガン)"を使ったのか………だが気ィつけろよォ!?アレは一時体を騙すだけの薬!!後で来る反動は知らねェぞォ!!?」
"エキサイト薬"…一粒飲めばそれまでに受けたダメージや疲労を一時的に吹き飛ばしまるで超回復をしたかのように錯覚させる劇薬だ。当然、効果が切れれば忘れさせていたダメージが戻るばかりか薬の効果中に受けたダメージが倍化し、それらが重なることでさらなる苦痛を味わうこととなる。28歳という若さで大看板を務める弟分の覚悟を見たキングは動けるなら何よりだと言い、クイーンを指さす。
「クイーンのバカが作る薬のせいで苦労をかけるな」
「アァ!?じゃあてめェに作れんのかよォ!?アホのクセによォ!!?」
売り言葉に買い言葉、赤鞘の侍達の討ち入りから始まったこの戦で今も尚軽口を叩き合う2人の兄御達を見てさすがだ…と尊敬の眼差しを向けるジャック。そして、そんな彼らの圧倒的な強さを知る元百獣海賊団の面々は恐怖におののく。
「嘘だろ!?大看板が三人も!!マルコさんは!?何とかしてくれー!!!」
「彼はもう体の限界だ!!おれ達が戦るしかねェ!!」
元白ひげ海賊団一番隊隊長・不死鳥マルコ、ライブフロアを侵食した氷鬼の鎮静化に一役買い10億超えの怪物を引き留め続けた男はすでに満身創痍。クイーンと対峙していたサンジもマルコの相手を終えたキングが加わった事により2人相手はキツイなと弾き出されてしまっていた。そこに加え、彼ら2人と同じ肩書きを持つジャックの登場は絶望という言葉では生温い衝撃をライブフロアへ与えることとなる。
「ジャック……!?あの傷でまだ動けるとは!!これはマズイな」
「………!!」
そしてその衝撃はジャックの手により国を滅ぼされたイヌアラシとその背中に寄りかかる歌姫の元へも届いていた。寝息を立てるその姿に変わりはないが眉間に皺を寄せ何かを感じ取っているのは間違いない。そしてゾロの方も「超回復」の薬によりドクンドクンと回復が進む。
だがそんなことは許さんとゾロを、そしてウタを捜し出し息の根を止めろとキングが指令を出す。それに対抗しようとサンジが飛び出しクイーンの顎を蹴り上げるがキングを抑えることは叶わず、百獣海賊団からゾロを担いで追われるチョッパー達の元へ先回りされ、キングが炎を拳に宿し殴りかかる。
「わー!!やめるんじゃー!!」
「くそ!!世話の焼けるマリモめ!!」
「"不死薊(ふじあざみ)"!!!」
「"炎皇(アンドン)"!!!」
先程までダウンしていたマルコがキングの拳を受け止め、昔話を始める。赤い壁のその上に"発火"する種族が住んでいました…と。
「"火災"の"キング"か…まさかその…」
「まだ生きてやがったのかマルコォ!!」
「イゾウに加えお前までいるとはな"不死鳥マルコ"」
そこへクイーンとジャックが追いつきそれぞれ苛立ちと驚きの表情を見せる。だがそんなものは関係ないと目の前の死にかけの男を大看板達は仕留めにかかる。
『さっさとくたばれ"白ひげ海賊団"!!!』
キングが炎を生み出し、クイーンがレーザーを構え、ジャックがその鼻に覇気を纏わせ振り上げる。万事休すかと思われたマルコであったが笑みを浮かべながら両手を上げる。
「ああ…降参!!もう気が済んだ…おれァここまでだ……!!」
「…ッ!これはいかん!!我らが助太刀に……」
「その必要はないよ」
白旗を上げたマルコの元へどこからともなく3つの影が飛来する。全身に包まれた包帯をバリバリと突き破り、その足に燃える情熱を携え、その必要はないとイヌアラシの背から離れ黄金に輝く鎧を纏い、飛び出す。
「"花形"登場だよい!!」
「"三刀流"………!!"煉獄鬼"…」
「『悪魔風』…"ムートン"」
「"魔王の行進曲(エルケーニッヒマーチ)"…」
「"斬り"!!!」
「"ショット"ォ!!!」
「"円舞曲(ワルツ)"ッ!!!」
ゾロ・サンジ・ウタが百獣海賊団きっての怪物である大看板を一斉にブッ飛ばす。先程までの絶望的状況が嘘だったかのようなその光景に侍達や元百獣海賊団らは歓喜する。
『うおお〜〜〜〜!!"麦わらの一味"ィ〜〜!!!』
だがそんな彼らとは対照的に、意気揚々と"花形"として登壇した3人は至って冷静であった。そしてこの戦いの果てを見据え、言葉を交わす。
「おい、ウタ、ぐるぐる。この戦を制したらよ」
「言わなくても分かるよね?ゾロ、サンジ!!」
「ああ見えてくるなァ…ルフィが『海賊王』になる姿!!!」
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「ゾロ十郎が復活したァ〜〜!!!」
「サン五郎さんやっちまえー!!!」
「おウタさーん目に物見せてやってくれー!!!」
息のあった同時攻撃により3人の怪物を吹き飛ばした3人の新世代達。派手に倒された大看板を憂い生意気なガキ共へ百獣海賊団が銃を向けるが河松がやめておけと斬り捨てる。
「そうだ河松…!!おい親分衆!!この決闘に加勢しようなんて思うんじゃねェぜ!!」
「ヒョウ五郎親分!!───しかし敵は『大看板』!!」
「敵も味方も全員あの戦いに近づけるな………!!見ろ…!!邪魔だけァしてくれるなって顔に書いてあらァ!!」
ヒョウ五郎の言う通り、麦わらの一味の3人の顔には大看板共はおれ達が倒すとはっきりと浮き出ていた。そしてヒョウ五郎の言うことに同意するようにイヌアラシも彼ら3人の邪魔はさせまいと河松と共に並び立つ。
「ヒョウ五郎親分の言う通り…!!あティア達に横槍を入れさせはしない!!」
「よかったのか?お前にとってもジャックは因縁の相手の筈だが……」
「構わぬよ……それにこの戦いは我らミンク族の遺恨を晴らす戦いではない。たとえ千年続いた都市が滅びようとも、世界に"夜明け"をもたらす!!そのための決戦なのだから!!!」
ヒョウ五郎や親分衆率いる侍達とイヌアラシ・河松が横槍を入れさせまいと百獣海賊団と対峙し、三対三の構図となった大看板と麦わらの一味の21歳トリオ。そんな若造共に向かってクイーンは大見得を切る。
「yo!!兄ちゃん姉ちゃん達…!!倒せるつもりになっちゃいけねェ。何も効いちゃいねェんだからよ…『旱害』『疫災』『火災』!!おれ達ァカイドウさんを守る三つの災害!!!倒せねェから『大看板』よ!!!」
大見得の後、レーザーを連射され三手に散るゾロ・サンジ・ウタ。だがその時、う!とサンジが呻き声を上げる。
「!?どうしたお前」
「──いやさっき三度目のレイドスーツを着たあたりから…体がちょっと…」
「──ちょっとォ?足ひっぱんないでよ?」
「いや悪くはないんだウタちゃん『変』なんだ」
「マユゲが?」
「『体が』っつったよな!!?」
大看板3人を相手にだべってる若造共に対しキングは無感情に刀を抜きサンジへと斬りかかるが、それをゾロが阻止する。
「貸し『1』!!」
「"ブライダル熱拳(グラッパー)"!!!」
だがそこへ髪に取り付けたアームに熱を持たせたクイーンが襲いかかる。するとサンジがゾロをかばうようにその熱拳を蹴り飛ばす。
「借りなし!!」
「ふざけやがって…まとめて吹き飛びやがれ!!」
貸しだの借りだので張り合ってる2人のところへ今度はジャックが向かってくる。凄まじい勢いのマンモスの鼻を振るう攻撃に2人があわや吹き飛ばされるかと思われたその時、ウタがその鼻を自慢の槍と盾で受け止める。
「貸し『2』!!」
「どいつもこいつも目障りだな…"炎皇(アンドン)"!!!」
「ムハハハハ!!そこから離れなジャック!!"ブラック光火(コーヒー)"!!!」
ジャックの鼻にかかりきりとなったウタの背中めがけてキングがその拳に炎を宿し、クイーンは左腕にエネルギーを充填させレーザーを放つ態勢を整える。そこへゾロがキングの拳を受け流し、サンジがクイーンの左腕を地面へ叩きつけレーザーを不発に終わらせる。
『借りなし!!!』
大看板3人の怒涛の連続攻撃を抑えられ、ジャックはフン!と鼻を鳴らし目の前の小娘に問いかける。
「随分と仲がいいなお前達。だがそんなお遊び感覚でおれ達に勝てると本気で思ってるのか?」
「まさか、そんなわけないでしょ?私達はこれがいつも通り!!いつだってこうやって色んな修羅場を潜り抜けてきたんだから!!!」
時に笑い合い、時には協力し、時には真剣に…これまでの短くも濃密な冒険の中で培ってきた経験と心構えを語るウタに対してくだらねェと斬り捨てたジャックはマンモスの姿から人の姿へと形態を変化させ、その両手にはフックのような形にしなる刀が握りしめられている。
「鎧に盾…それに槍か。てめェの相手をするんならこっちの方がやりやすい」
「へェ…珍しい形の刀だね。しかもその耳当て…?私の能力対策はあんた達3人ともバッチリってわけね。でもそれを使ったからって簡単に勝てるような女だと思わないでよね!!行くよ!!!"魔王歌音階(エルケーニッヒスケール)・5(クインテット)"!!!」
「その台詞、そっくりそのまま返してやる!!!『大看板』の恐ろしさ、その身にとくと刻み込んでやる!!!」
音階5…未だ完全制御には至っていない魔王の力、その半分を用いてウタはジャックに槍を突き出し、斬りかかる。対するジャックもウタの攻撃をいなしつつ刀を振るうもウタがそれを盾で弾く一進一退の攻防が繰り広げられる。
一方他所の、他2人の大看板を相手にするゾロとサンジもそれぞれキングとクイーンに自慢の刀を、足技を食らわせ対抗する。
ゾロvsキング・サンジvsクイーン・ウタvsジャック…三対三の戦いはそれぞれが一人の敵を見定めて一対一の勝負と移ろいで行く。互いに負けるわけにはいかないこの戦いの決着は如何に……