歌姫とはこういうものだぁ‼
ウタが左手を天に向かって突き出すと同時にエレキギターの力強い音が会場に響き渡る。
「さぁ怖くはない。不安はない 私の夢はみんなの願い 歌唄えば ココロ晴れる 大丈夫よ私は最強 」
そうウタが歌い始めると会場は待っていたと言わんばかりの歓声に溢れかえる。
『私は最強』
落ち込んでいた時の過去の自分を励まし、自分と向き合い立ち直れた経験と応援してくれているファンのために感謝を込めて作られた元気で明るい曲である。
そしてウタの懐かしき最愛の日々やルフィとの誓いにあてた曲でもある。
これを知るのはウタとシャンクス達とルフィぐらいであろう。
ウタウタの力によって彼女の身体が光に包まれ背中からピンク色の羽がパッと生えたその姿は歌姫としてよりも天使を想起させるようであった。
彼女は自分の背に生えた翼と共に宙に浮き、その歌声を披露する。
その歌声は激しい動きにも関わらず微動だにブレることが無い。
無論ウタワールドの中だということもあるがウタが大事なのは観客に如何に見せるかである。ライブを盛り上げる為にもこうした工夫はかかせない。
ウタは天使のように会場を縦横無尽に飛び回りつつファンの人達にも手を振ったりアピールをしている。これも一重にウタの良さである。
彼女が歌姫として愛されている理由としてその愛嬌や優しさがあげられる。
誰にでも平等に優しく接してくれる彼女は人の心を掴み、実力人柄共に人々を虜にしていった。
一部では彼女の事を「救世主」と崇めるものもいるがウタは気にしていない。
大事なのは自分が唄う歌を聴いてる人が幸せになれるかどうかである。
彼女にとってそれが唯一出来ることなのだから。
ウタがルフィ達の席の近くへと近づいてくる。誰にでも振り撒く幼さが残るようなその笑顔でルフィ達の方へ大きく手を振る。
サンジやウソップ、ベポやチョッパー達は両腕にサイリウムを手に取り大腕を振ってそれに応える。特にサンジはUTAのポーズをとっているようだ。ロビンやナミやブルックもウタのファンサービスに手を小振りではあるがそれに応える。ゾロやジンベエ、フランキーはウタを視線に捉えつつ口元に笑みを作っている。
ルフィは例にもれなく太陽の如き元気な笑顔で大きく腕を振り返す、彼女が結婚式で披露した時よりも活気にあふれそして成長した姿を見ることができ嬉しいようだ。
ハンコックも片手でホムラを抱えつつ手を大きく振り、友人の勇姿とその歌を称賛するかのように身体をピョンピョンさせている。
クウはもうウタの歌とその姿や立ち振る舞いの全てに目を奪われたようである。小さなその身体いっぱいで彼女への愛を伝える。クウにとっての初めてのライブは彼女に影響を与えるのには十分だったようで体に響き渡る音と臨場感に当てられているようだ。
「最愛の日々 忘れぬ誓い いつかの夢が私の心臓 何度でも何度でも言うわ」
「『私は最強』 『アナタと最強』」
かつてのフーシャ村での日々・ウタとの日々・シャンクスとの日々・ウタとの誓い・シャンクスとの誓い・それら全部の思い出が彼女の歌と共に乗せて彼の頭に流れ込んでくる。
それはウタも同じであった。
シャンクス達やルフィと過ごした日々・あの日の誓い・エレジアでの日々・それらすべてが彼女の最愛の日々であり、そして今抱いてる夢こそ自分の心臓であるのだと。
夫の様子がさっきまでとびきりの笑顔だったのから顔に少し笑みを浮かべ、どこか懐かしむような表情となっているのをハンコックは気付いたようだ。
彼女自身ルフィの過去を完全に知っているわけでは無い。
彼の兄・エースの事や恩人のシャンクスの事は耳にしていたので聞いていたがウタの事に関しては結婚式当日であるくらいだ。それにまつわる話など聞いたことが無い。しかしそれはルフィが自分から話したりするほどでもない限りそこは踏み込むべきではないと思った彼女の心故である。
彼は自分の凄惨な過去さえも受け入れ、愛し、娶ってくれた。
その事実が覆ることは何も無い。現に彼女は彼との間に子を2人もうけているのが何よりの証拠である。だからそれは重要ではないと今まで思っていた。
ただこうした時に愛しき人が過去にどのような事がおきていたのか…やはり思い出が共有できてない事は少し寂しいものであると思った。
ただ今更どうしようもないのである。彼女にとって今できることは身体を自らの亭主に寄り添うことくらいしか出来ない。知らなくとも彼が生涯自分が愛する唯一の人であることには変わりはない。なれば黙って寄り添う事が彼女が彼女たる所以である。
そう彼女が寄り添うと夫の方は少し彼女の方に目を向いた。寂しそうな顔を彼女は浮かべていない。ただ何か思うところがあったのは事実なようだと察した。
彼としても自分に出来ることは彼女を自分の側に置くことだけである。彼は自分の妻の腰に手を掛けて自分にもっと密着させた。彼女の方も離れたくなくなったのか両手を彼の身体の周りに回して思い切り抱きしめる。今は自分を愛してくれていることがわかればそれでいいようだ。蕩けそうな顔を彼女は浮かべてるがそれは彼の夫しか知らない。
曲が終わり少し間が置いた後、今度は先ほどとは毛色の違うエレキギターの音奏でられた。
『逆光』
幼い頃の彼女がシャンクス達との航海で目にした『現実』
非道な海賊どもへのNOサインとして虐げられた民の意を反映するように叩きつけられた曲である。
海賊というものが冒険に生きロマンを追い求めるものであると思っていた幼きウタにとっては衝撃的な出来事であったであろう。
自分を育ててくれたシャンクス達のような『海賊』と世間一般で言われるようなイメージの『海賊』のイメージの落差というものは大きくかった。
しかしシャンクス達はシャンクス達だ。私を娘同然に育ててくれたことには変わりはない。
一番忌むべきは徒に民衆への略奪を行う海賊共である。だから彼女は代弁する。民衆への怒りを届けるために怒りを込めたような声色で歌を歌う
先ほどまでの明るい曲調とは違い叩きつけるような荒々しい怒号ともいえるその歌い方は先ほどまでの曲調に慣れていた者は驚愕するであろう。
しかしこれも彼女の欠点とはなりえない。
ありとあらゆるメッセージや曲を届けられずして何が歌姫か。
彼女は何物にも分類されない、だから歌姫ウタなのだ。
彼女がリズムに合わせて手を仰ぐと彼女の背後のスピーカーのようなものが振動し呼応する。メロディと共にカラフルなレーザービームが会場中を走りまわりライブ会場はライトとペンライトの赤一色と変わる。
彼女の雰囲気もさっきまでのファンに手を振っていた笑顔の姿とは異なり怒りを帯びたような表情を浮かべている。
歌声だけでなく身体全体でその怒りを表現するようなダンスも先ほどとは違って会場が赤一色になったことによって人々の様子もライブ会場の熱気の盛り上がりに、その歌に吞み込まれていく。
まるで一種の狂気にあてられたかのように人々は身体を縦に動かしペンライトを使ってリズムを取る。
その熱は珍しくもキッドにも通じたらしく彼も小刻みにではあるが身体でリズムをとっている。アンチ海賊の曲ではありつつも彼の音楽的嗜好に合っていたようだ。
彼女の歌っている後ろのステージではイメージビデオが流れる。
かつて見た海賊の悪行や村や虐げられる人の様子を映したものだ。
この歌のメッセージを伝えるためにウタは自身の声や身体、そしてそのライブパフォーマンスで披露して伝えていく。
彼女の万感の思いを込めた最後のシャウトが響きわたり歌が終了した後会場は多くの歓声に包まれた。
代表的な『新時代』から明るい応援ソングである『私は最強』、どちらともウタの明るいイメージにぴったりの曲であった落差もあってか新たなウタの一面にまた観客は虜となる。
流石に3曲ほぼ絶え間なく歌い続けたおかげかウタも少し息を切らす。次の曲の準備もあるのでその間の会話を繋ぐ
「ありがとう!!それと今回は私の初のライブを記念して特別ゲストをお呼びしております!!みんなも知ってるあの伝説のトップミュージシャンだよ!!では!どうぞ!!」
次の3曲はウタの曲ではなくカバーだ。内一曲はデュエット。
しかしそれでも楽しい事には変わりは無い。この最高の祭りを彼女自身も楽しんでいるのだ。
ライブはまだまだ続く。