歌姫たちのその後

歌姫たちのその後

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あの日から私の生活は大きく変わった。


「みんな!また会えたね!ウタだよ!」


配信を行うことについては全く変わらなかった。しかし、内容が大きく変わった。


「今日は何を歌おうかなー……うん?みんなどうしたの?」


「うんうん…そっか…今日こそ、私の踊りが見たいんだね…あとはもっと私と話していたい…かぁ…」


「うーん…今日もだけど、ごめんね!歌に合わせて踊るならともかくダンス単体ではもう踊らないかな!あと、もう一つの方もごめんね?みんなとあまり話しちゃダメって言われてるんだー」


歌に加えて、踊りの練習を見せたり、みんなと会話を楽しんでたエレジア時代の配信とは違い、ほとんどみんなとも交流することなく、歌のみ配信をするようにしていた。


「ほんとにごめんね…代わりにいーっぱい歌うから聞いていってほしいな!新曲もどんどん作っていくからね!じゃあ一曲目はーーーーーー」


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「じゃあ、今日の配信はここまで!『ウタちゃん!』!どうしたの?」


『さっき新聞が届いたんだ!そしたらこんなことが……』


「なになに?えーっと…」


そこには…


四皇麦わらのルフィ、歌姫と熱愛!?


堕ちた歌姫!?


……などなど。あることないことが書かれていた。


「………………」


『嘘だよね!?ウタちゃん!?ウタちゃんが海賊のとこにいるなんて!』


嘘に決まってる!ありえないだろ!ウタは海賊が嫌いなんだから!わたしたち、これから何を信じればいいの!きっと騙されてるんだよ!ウタちゃん!ウタ!ウタ!?ウタ!!


「…………………はぁ…」


思わずため息がこぼれてしまう。


『ウタ……?………』


先ほどとは様子が違う私の様子を見て、一気に静かになる視聴者たち。


「ま!いずれバレることだし、もういいよね!新聞の通りだよ!私は今!麦わらのルフィの船に乗ってまーす!」


視聴者たちは混沌としている。…………面白い♪


「熱愛っていうのもほんとだよ♡ルフィと再開したその日の夜にね……ルフィにいーっぱい愛されたんだ♡」


再び静まる視聴者たち。


「初めは痛くて、嫌だ!って、何度も言ったんだけどね?そんなの無視して、私のことをメチャクチャに抱いてきたんだ♡そうされてくうちにどんどん気持ち良くなっちゃってね♡最後の方は私からルフィのことを求めるようになっちゃったの♡ルフィのもね♡もう……ものすごい大きいんだよ♡おかげでルフィにしか目がいかなくなっちゃったんだ♡ルフィもルフィで私の中で何度も何度も溢れるぐらい出してくれてね♡はぁ……♡思い出すだけで濡れてきちゃった♡」


私が赤裸々に話すたびに叫んだり、泣いたり、怒ったり、笑っていたり……ほんとに面白い♪もっと話しちゃお♪


「それから…………あれ、切れちゃった」


「ウタ…話しすぎだぞ…」


映像はルフィの手によって切られていた。


「あーんもうルフィ!せっかくいいとこだったのにー!」


「そういうな!ウタ!今日の夜、あの日以上に抱き潰してやるから!」


それだけ言ってさっさと立ち去ってしまった。


「………あの日………以上………あは♡」


今夜のことを想像し、自分以外の誰もいない部屋で1人、悦に浸るのであった。


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ウタにそう告げ、甲板に出る。そこに、


「おい!ルフィ!これどういうことだ!」


新聞を持ったウソップが現れた。


そこには、四皇麦わらのルフィ、歌姫と熱愛!?………ではなく……


堕とされた歌姫!麦わらのルフィの卑劣な作戦


あの映像は歌姫のSOS!?歌姫は救われるのか!?


「さっきの映像も見た!お前!プリンセスウタに何をしたんだ!」


ウソップにそう詰め寄られる。他の船員も集まっている。







ゾロだけは、まるで何を言っても無駄だと言わんばかりの雰囲気で佇んでいる






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ルフィに詰め寄るウソップ。当然だ。できるなら今すぐにでも蹴り飛ばしてやりてェが…これとさっきの配信のことが本当かどうか確かめる必要がある。


「………………あー、その……よ………」


ルフィが恥ずかしそうに、申し訳なさそうに答える。


「ウタが…………生きててくれた嬉しさとかで………勢いに任せて………その………」


「なーにが勢いに任せてよ!女を無理やり襲うような男とは思わなかったわ!しかも幼馴染!嬉しかったからこそ大事にしてやりなさいよ!あんた本当に幻滅するわよ!」


「流石に擁護できんぞ……ルフィ……!」


「………………………」


ジンベエとナミさんに責められるルフィ。


「……ルフィ…おれは、レディを最悪の形で傷つけるような男の船に乗った覚えはないぞ…」


ルフィを見つめ、そう呟く。


思いの外、冷静になれている自分がいることに驚く。


そこに………


「みんな!待って!」


被害者であるはずのウタちゃんがルフィの前に立った。


「ウタ!?何してんの!ルフィから離れなさい!」


「そうだぞ!ウタ!流石に今、ルフィには近づくな!」


ナミさんとウソップがウタを引き剥がそうと試みる。


「違うの!みんな!ルフィは悪くないの!……その…誘ったのは……私なの…」


「「「「「「「「は?(え?)(はぁ!?)(あら)(エェ!?)」」」」」」」」


「おい!?ウタ!?」


「………………………」


突然とんでもないカミングアウトをするウタちゃん。


「……待て待て待て待て!ウタから誘ったって…じゃ、じゃあ、今の配信で言ってたことは何だったんだよ!」


「そ、そうよ!それに新聞にだって……」


「さっきの配信は…みんなが騒いでるのを見てちょっと悪ノリしちゃった…っていうか…あ、後でちゃんと誤解は解くようにするよ!その新聞のことは嘘に決まってるよ!ルフィはそんな卑怯なことはしないからね!」


不満げな顔でそう告げるウタちゃん。そこに……


ドカ!


「いっ!いったーい!何すんのさ!ナミ!」


「それはこっちのセリフよ!あんな紛らわしいことして、拳骨一回で済ませてあげたのに感謝しなさい!」


「ルフィ…お前さんもじゃ…!」


ドガン!


「ぶえっ!」


「迂闊に誘いに乗るな!これがお前さんを騙すための罠だったらどうするつもりじゃ!」


凄まじい拳骨がルフィを襲い、ルフィが沈んだ。


「おおい!?ジンベエ!?やりすぎだ!い、い、医者ァーーー!!?」


「お前だろ!」


誤解が解け、いつも通りの日常に……いつも通りか?これ……


「ハァ……人騒がせな話だ…全く……で…だ…」


隣を見る。ことの顛末を黙ってみていただけの男がいる。


「お前は何で何も言わなかったんだ?あんな疑いがあるんだったら、真っ先に詰め寄ると思ったんだがな……」


「……………お前はあいつをみて……どう思う………」


鋭い眼光を向けている先にいるのは、医務室に運ばれるルフィだ。


「どうっつってもなァ……らしくねェとは思うがな……」


「………何がらしくない……」


「は?………勢いに任せて、ヤッたところだな……」


「……………」


目で続きを促される。いつのまにか甲板には、おれとマリモ野郎しかいなかった。


「ウタちゃんは可愛いし、美人だ。スタイルもいい。そんな子に夜の誘いなんてされたら、例外はいるが、ほぼ全ての男が乗るだろうよ。その例外の1人がルフィだ。」


「………………」


大人しく話を聞くマリモに不気味さを感じる。


「あんな恋とか愛とか……性欲とかに興味なさそうな男がウタちゃんとヤるのはなんからしくねェ……と、思ったな。」


「…………………そうか」


それだけ呟き、立ち上がる


「おい!何でこんなことを聞きやがった!」


「………おれが感じてる違和感がおれ以外にもあるのかを確認したかっただけだ…」


そう告げて、今度こそ立ち去っていった。


「違和感だァ?…………そういえば…ルフィの話を聞いている時…いや…今もだ…見聞色がおかしい……確か………見聞殺し……だったか?確かに話をするだけなのにそれをするのはおかしいな……これがあいつの言ってる違和感か?」


ゾロが抱え込むルフィの狂気に気が付く最後のチャンスを逃したサンジ。


正解に近づきながらも、見聞殺しを使っていることをゾロの言う違和感だと思い、ウタの尊厳を守るために使っているのだと思い込んでしまった。


「ま!あんま考えても仕方ねェな!みんなにおやつでも作るか。」


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その夜


「ウタ…ありがとな…お前が頑張ってくれたおかげでバレずに済んだよ…」


「んーん♡ルフィが困ってたんだもん♡助けるに決まってるでしょ…」


2人は配信部屋に置かれたベッドの上に座っていた。


当然だが、ウタが誘った、などという事実は存在しない。ルフィが勢いに任せて、と言う事実も存在しない。


「咄嗟だったけど、うまく信じてくれてよかったね…」


「ああ…本当にウタのおかげだ…ご褒美をあげなくちゃな…」


勢いになど任せず、お粗末ながらも作戦を立てて襲ったのだから。


新聞は正しいと言えるであろう。


「ご褒美♡……じゃあさ♡あの時の再現して♡」


「そんなんでいいのか?いくらでもしてやるぞ…それぐらいだったら…」


「そんなのダメだよ♡ご褒美でもらえたらもっと気持ち良くなれるから♡ルフィったら!そんなに自分を安売りしたらダメだよ♡」


「…………それをお前が言うのか………」ボソ


「え?何か言った?」


「何でもねェよ……じゃあ…覚悟しろよ…」


「あ♡」ビクッビクッ


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気絶したウタを横目に呟く。


「ウタはこれで離れねェ…ゾロも気づかれたが、海賊王になればいいだけだ…あとは……」


頭の中に恩人を、約束した男を思い浮かべる。


「…………シャンクスか……」


「シャンクスならウタとおれのことを認めてくれるかな……それとも……認めてくれねェのかな……………………………………ま!会ってみればわかるか!」


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時間が経ったある日、とある島での出来事


「約束通り、立派な海賊になったぞ、シャンクス…」


「ああ…まさかロジャー船長と同じ海賊王になっちまうなんて思ってもいなかったがな!」


「なんだと!バカシャンクス!」


「ははは!……本当に立派になったな……ルフィ」


「…おう!……じゃあよ……この帽子をシャンクスに返す。おれに大事な帽子を預けてくれてありがとう!」


「………久々だな…この感覚も……ああ、確かに返してもらった。なら次だ!」


「次?……わぶっ!」


「この帽子をお前にやろう…そして、さらにこの帽子が似合う男になれ!」


「いいんだな…シャンクス!これ!おれがもらっても!」


「ああ…その帽子はもうお前のものだ。それと……ウタを救ってくれて…ウタに会わせてくれて…ありがとう…!」


「………ウタ…なんか言ってたか…?」


「……『会いたかった。信じ切れなくてごめんなさい。』とだけ言われたよ…謝るのはおれたちの方だってのに……あとその前に一発ぶん殴られたな。」


「だからほっぺた赤かったのか」


「……じゃあ、おれたちはまた海に出る。ウタのことをよろしく頼む。」


「……………………ああ!任せろ!」


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「シャンクス、本当に良かったのか?ウタを船に乗せなくて。」


「あいつはもう麦わらの一味だ。少し悔しいが、あの場所が一番輝けるだろう。」


「………それもそうだが…本当にルフィのそばにいさせて大丈夫なのか…?」


「あの新聞のことだろ?……あれは真っ赤な嘘だそうだ。ウタが言うにはルフィが襲ったんじゃなくて、ウタか「もういい喋るな…何が悲しくて娘の性事情を聞かなきゃいけねェんだ……」………確かに酒を飲んでもいないのに話す内容じゃあねェな…」


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「……これで全部の邪魔は無くなったな」




「これからはずっとそばにいてやれるぞ」




「お前はずっとおれの“もの”だ」




「お前がおれを嫌いになっても、おれを邪魔だと思っても、おれの前から消えようとしても……………おれが死んでも、お前が死んでも、ずっと一緒だ。」












「愛してるぞ……ウタ………」



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