"歌声 赤髪"
───────それからウタは決して自分の部屋から出ることはなかった。私は毎日、朝昼晩の食事を運びその時にどうにかしてウタを元気づけようと話しかけたが、一度も返事が来ることはなかった。返ってくるのは焦点の合わない虚ろな視線だけ。
もはやただ呼吸をするだけの、とてもじゃないが生きているとは言えない状態だった。そう過ごすうちに三週間の時が流れようとしていた………
シャボンディ諸島へ寄港予定のある交易船がエレジアを訪れる前日、この日は朝から雨が降り続けていた。
「……いよいよ明日か……ウタ…どうすれば彼女を元気づけられる…?あのままではあの娘があまりに不憫だ…!!」
それでも!と、自分が落ち込んでいては彼女を元気づけることなど出来はしないと奮起する。ウタが部屋に引きこもるようになってから毎日・毎食この繰り返しだ。あれこれ考えているうちにウタの部屋の前まで辿り着く。さぁ、今日も朝から元気よく!今日という一日を始めよう!
「おはようウタ!今日の朝ごはんには先日ウォーターセブンより取り寄せた水水肉を使った料理を……ウタ!?いない!どこへ行った!!?」
ウタがいない。いつもこの時間ならベッドの上で窓から外を眺めているか天井のシミの数を数えているか、どちらかのはずなのに。備え付けのトイレにも、浴槽にも、クローゼットの中にも、何処にもいない。いない。いない!いない!!
ふとベッドへ目をやると書き置きらしきものがあることに気がつく。書き主は当然、ウタであった。
〔ゴードンへ
黙って出ていってごめんなさい。でも、もう耐えられないんです。エレジアを滅ぼしたこと、シャンクス達にその罪を被せたこと、そしてなによりこんな私が一緒にいてはルフィ達の身に危険が及ぶことに。たとえ政府や海軍がどれだけ追ってこようとルフィ達なら私を守ってくれる。それでも、私から発せられた魔王には敵わない。
私にはもう、シャンクス達と会うことも、ルフィ達と一緒に笑い合う資格も、貴方とも合わせる顔がない。だから本当に、ごめんなさい。〕
「!!!?…ウタ!!ダメだ早まってはいけない!!!君の冒険は!!未来は!!!まだこれからなのだから!!!ウター!!!!」
エレジアの街から橋で繋がり、かつては野外ライブ会場として主に使用されていたアリーナの升席の上にウタはいる。雨に打たれながら、その両手には手頃なサイズのナイフを握りしめて。
「雨……ま、なんでもいいけど……」ギュッ…
……これで喉を一突きしたら……痛いだろうな…でもいいんだ…!私は……
「ねぇルフィ……黙っていなくなっちゃうけど、許してね?……アンタはちゃんと、その麦わら帽子がもっと似合う立派な男になるんだぞ…!!私は…私の冒険は……ここで終わりだけど、たとえ身体が死んでも心は生き続けるから……!!
……ッ心は…!!
…こ、こころは……!!!
……ッ……ッッ!!!ウゥッ……!!!ウアアアアァ!!!!」
ヒュッ
パシッ…
「……シャン、クス……?なんで……」
「……久しぶりに聞きに来た。お前の歌を」
「………ウタ…何があったのかは知らないが……赤髪海賊団の"音楽家"が船長であるこの俺に黙って別れるなんて筋が通らないだろう…?それに……娘がこんなことをして黙ってる親がどこにいる?」
「シャンクス………わたし……………!!!会いたくなかった………でも……会いたかった……!!!………ッ