ホビウタIF 歌はかき消され砂糖に溺れる
タッタッタッタッタッタッ
(まって!・・・いかないで!・・・)
とある町の道を一つの小さな影が走っていた
それは赤と白の二色のオモチャの人形であり本来なら動く筈の無いそれは町の人々の目を引いていた
だがここにいる人誰もがこの人形が元は人間だった事など知るよしも無いだろう
彼女の名前は『ウタ』
赤髪のシャンクスが率いる赤髪海賊団の音楽家であり船長シャンクスの娘でもある
そんな彼女が何故人形などになっているのか?
それはこの島で出会ったと少女が関係している
その少女と出会ったウタは同年代という事もありすぐに友達となり一緒に様々な遊びをした
そして赤髪海賊団がこの島を離れる日ウタがお別れの挨拶をしようとその少女と会った時
悲劇は起きた
気付けばウタはオルゴールが鳴らせる人形となっており喋る事は愚か大好きな歌も歌う事も出来なくなっていた
人形になった手を見たウタは驚愕しその少女が呼び止める声にも反応せず走り出した
シャンクスなら何とかしてくれる・・・
シャンクスなら元に戻してくれる・・・
それだけを希望とし慣れない小さな人形の姿で転びながらもシャンクス達がいる場所に向かった
そしてやっとシャンクスを見つけその足元に抱きつく
「ん?何だ?」
シャンクスが反応し足元のウタを見る
私だよ!シャンクス!ウタだよ!!
言葉が喋れずオルゴールの音しか出せない為身振り手振りで何とか伝えようとする
「なんだこりゃ?動く人形?」
だがシャンクスには伝わらず人形のウタを抱え疑問の表情を浮かべる
それでも何とか伝えようとするウタだったが
「お頭?何だその人形?持っていくのか?」
「いやこれは女の子向けの人形だろう?俺に『娘はいない』からな・・・」
えっ?今なんて言ったのシャンクス?
娘はいないって・・・私がいるよ?
赤髪海賊団の音楽家ウタだよ?
なのにどうして・・・?
動く人形のウタを見ようと赤髪海賊団のメンバーがシャンクスの周りに集まってくる
だがその誰もがウタがいない事に疑問を持たず娘はいないと言ったシャンクスをからかったりしていた
優しいベックマンも明るいラッキールゥも
いつも息子の話をしてくれるヤソップだって
その赤髪海賊団の反応はウタを硬直させた
それを見たシャンクスは大人しくなったのだと思い近くの積まれた木箱の上にウタを置く
「悪いな・・・俺達は海賊だからお前を連れてはいけないんだ・・・またこの島に寄ったら会いに来てやるから」
そうウタに言ったシャンクスは船員達と共に港に向かっていった
しばらく硬直していたウタはシャンクス達がいない事に気付き慌てて追いかけようとするが足が縺れて近くにあったゴミ箱に入ってしまった
ゴミ箱から出るのに苦戦しやっと出られても上手く歩けず転びウタの人形の体は汚れまみれになってしまっていた
うそだよね・・・シャンクス?
わたしをおいていかないよね?
まって・・・まってよ!シャンクス!!
そしてやっとウタがシャンクス達の船が停めてあった場所まで来た時には
すでにシャンクス達の船
『レッド・フォース号』が出航していた
・・・う・・・・・そ・・・・・
ウタは最早小さく見えるシャンクス達の船に向かって海に飛び込む勢いで走り出すがすぐに転んでしまいただ小さくなっていく船を見つめる事しか出来なかった
ま゛っでよ゛!?じゃんぐず!?おいでいがな゛いでよ゛!?じゃんぐずゥゥゥゥ!!?
言葉が出せないウタはオルゴールの音を鳴らしながら声無き叫びを出すのだった
「可哀想な『ウタ』・・・置いていかれちゃたのね」
そこに突然ウタに話しかける声が聞こえた
「ウタを忘れて出航しちゃうなんて薄情な人達・・・きっとあいつらはウタの事を何とも思ってなかったのね・・・」
ウタに話しかけてきた少女はウタを持ち上げるとウタのボタンの目に視線を合わせる
「でも大丈夫・・・わたしはウタを忘れたりしない・・・だってわたしたち・・・友達でしょ?」
あ・・・あ・・・
誰もが自分を忘れてしまった
誰もが『ウタ』という人間を消してしまった
そう思っていたウタは自分の名前を呼び自分との思い出を忘れていなかった彼女
『シュガー』の胸元に飛び込んだ
あ゛あ゛ァァァァ!!しゅがァァァァ!!
「大丈夫・・・わたしは忘れないわ・・・ ずっと一緒にいてあげる・・・ウタ・・・」
ウタを抱きしめるシュガー
ウタは涙が出ない人形の体で泣き叫んだ
自身が人形になったのがシュガーのホビホビの実の能力だという事にも気付かずに
「ほぅ・・・その人形を?」
「うん!いいでしょ?若様?」
「フッフッフまぁいいさ・・・ウタと言ったな?歓迎しよう・・・我がファミリーへ」
シュガーが若様と呼んだ男
王下七武海 ドンキホーテ・ドフラミンゴ
彼はシュガーが連れてきた人形のウタを受け入れ自分のファミリーに加わる事を了承した
「おいシュガー?ウタが大分汚れているようだ・・・洗ってきてやったらどうだ?」
「そうだね!ありがとう若様!」
シュガーはウタを抱え走っていく
それを見送ったドフラミンゴは人形の彼女・・・ウタの事を考える
(あの人形・・・シュガーの話では赤髪の娘と名乗っていたらしい・・・フッフッフ・・・上手く使えば赤髪の急所になるな・・・)
そう考えたドフラミンゴは怪しく笑うのだった
シュガーの寝室
そこではお風呂で綺麗に洗われたウタとパジャマに着替えたシュガーがいた
「良かったわねウタ
これで貴方もわたし達のファミリーの一員よ」
笑顔のシュガーがウタに告げる
それを聞いたウタは一瞬シャンクス達の顔が過るがすぐに消し全身で喜びを表す
シャンクスはわたしを置いていったんだからわたしはもう赤髪海賊団の音楽家なんかじゃない
シュガーの若様の部下でファミリーの一人だ
「ねぇウタ?良かったら・・・『歌』を歌ってくれないかしら・・・?」
それを聞いたウタは頭の輪っかを下げる
そっか・・・シュガーは知らないんだ
わたしはもう歌えないことを・・・
それを見ていたシュガーは笑みを浮かべる
「大丈夫『ウタは立派に歌える』わ
『自信を持って』」
・・・何故だろうか?
シュガーにそう言われると『歌を歌える』と謎の確信と自信が沸き上がってくる
シュガーの言葉に押され意を決して歌おうとする
~♪
その瞬間人形のウタから見事な歌が出てきた
・・・!!?歌が・・・歌えた・・・!!?
「すごい!やっぱりウタの歌は最高ね!」
シュガーが大喜びで拍手する
ウタも歌が歌えた事と親友に喜んで貰った事に嬉しくなりシュガーに飛び付く
シュガー!歌えた!わたし歌えたよ!?
すごいよ!シュガーはわたしの救世主だよ!
シュガーは飛び付いてきたウタを愛おしく撫でまるで子守唄を聞かせるようにウタに囁く
「ウタ・・・
『わたしとずっと一緒にいましょ』?
わたしは絶対に貴方を忘れない・・・
絶対に貴方を置いていったりしない・・・
貴方を忘れた人達なんて『全員忘れなさい』
一緒に『若様の為に頑張りましょう』?」
そんなにシュガーに想って貰っていた事が凄く嬉しくて綺麗なオルゴールの音を鳴らした
幸せだなぁ・・・シュガー・・・ずっと一緒にいようね・・・
安心したからかわたしを置いていった赤髪海賊団の顔すら最早思い出せない
まぁどうでもいいかわたしにはシュガーがいればいいから
バイバイ顔も声も知らない赤髪海賊団さん
・・・そういえばシュガー以外にも友達がいたような気がする・・・・・誰だったっけ?
12年後・・・ドレスローザ
そこでは麦わらのルフィ率いる闘技場の戦士達
そして王下七武海の一人ドフラミンゴ率いるドンキホーテ・ファミリーの戦いが起こっていた
ゴッド・ウソップが成功させた
『SOP作戦』によってシュガーが気絶し
ドレスローザ中のオモチャ達が次々と人間に戻っていった事によって暴かれた闇
ホビホビの能力が解除されたことによって
忘れていた記憶が思い出されていく
ある者は恋人を
ある者は家族を
ある者は親友を
誰一人例外なく記憶が甦っていく
そしてそれはこの戦いの中心人物も・・・
「ドフラミンゴォォォォォォォォォ!!!」
麦わらのルフィ
彼もまたホビホビの力によって記憶を奪われていた
12年前・・・
自分の前から突如消えた一人の少女
赤髪海賊団の船長の娘であり音楽家と名乗った幼馴染み
消えたことに誰もが疑問に思ってなかった
気にする素振りもなかった
ルフィ自身もこの国でウソップが作戦を成功させるその瞬間まで忘れていた
ルフィの目の前で兵隊のオモチャが人間に戻りヴィオラの説明を受けた後だ
彼女を思い出したのは
このタイミングで思い出したということはそういうことだろう
彼女は・・・ウタはオモチャにされたのだ
彼女を思い出したルフィは言い表せない感情に支配されたが何とか持ち直し
今現在2年間の修行によって習得したギア4でドフラミンゴを追い詰めていた
「早くしねぇと・・・時間が !!」
ギア4はエネルギーを大きく消耗する為時間制限がある
更にルフィはウタがオモチャにされていた事実に激昂しここまで来るのに覇気をかなり消耗していた
だがウタはこれ以上の苦しみを長い間味わっていたのだと思うと倒れてなどいられなかった
全ての元凶であるドフラミンゴをぶっ飛ばす為全力の覇気を込めた一撃を放つ
「獅子・バズーカ!!!」
ルフィの渾身の一撃を受けたドフラミンゴは大きく吹き飛び岩盤にめり込んだ
だが勝ったと思ったのもつかの間
ドフラミンゴが出した『鳥籠』がまだ消えておらず
つまりドフラミンゴはまだ倒せていないということだった
それに気づいたルフィは追撃しようとするが非情にも時間切れとなってしまい
ギア4が解除されてしまった
「後・・・一撃なんだ・・・」
早くドフラミンゴを倒して・・・ウタを・・・探しにいかなくちゃならないんだ・・・トラ男やみんなには迷惑かけちまうかもしれねぇけど放っておけねぇ・・・
地面に這いつくばったルフィを見た国民達は
ルフィを尻目に逃げ出そうとする
その瞬間
ルフィの周りにいた国民達が次々と倒れていった
突然の事態に驚くルフィだったがそこに現れた人物に更に驚くことになる
「あ・・・ああ・・・・・」
そこにいたのはかつての幼馴染み
共に夢を誓い合った赤髪海賊団の音楽家
「ウタ!!!」
ウタを見たルフィは色んな感情が押し寄せて涙が溢れてしまった
それほど彼女が生きていてくれたのが嬉しかったのだ
故に気付かなかった
ルフィを見るウタの目に一切の感情が含まれていなかったことに
ああ・・・思い出した
こいつは確かに私のかつての幼馴染みだった男
昔はよく一緒に遊んだものだ
だがこの表情を見るにこの男も一緒だ
『私のことを忘れていた』んだ
その事実がこの男に関する思い出がどんどん灰色になっていく
この男も赤髪と同じ『ウタ』を消したのだ
そんな奴がシュガーの全てを台無しにしたのか
シュガーが気絶した時私は傍にいなかった
私が傍にいればシュガーを守れたのに・・・
気絶したシュガーを見た時は腸が煮えくりかえり彼女を気絶させた男を殺したいという感情に支配された
だがすぐに若様になだめられ心を落ち着かせてくれた
シュガーが気絶したことによって私も人間に戻った
ということは自分はシュガーのホビホビによって人形になっていたのだろう
しかしシュガーを憎いとは思わなかった
12年間も一緒にいたのだ 彼女と共に何度も任務を遂行したし その過程でシュガーが人をオモチャに変える瞬間を何度も見た
しかもあえて私にわかるように
でもそんなことで私がシュガーを裏切ったりしない
シュガーはオモチャに変えた人間はすぐに忘れてしまうが私は・・・『ウタ』のことだけは一切忘れたことはなかった
私がシュガーの傍にいるのにそれだけの理由で十分だった
だがこの男は・・・部下を使ってシュガーを二度も気絶させ彼女が長い間かけて築き上げた王国をぶち壊したのだ
しかもシュガーの恩人である若様もボロボロにして・・・
シュガーが何度も話してくれた
若様に姉と共に救われた話
若様はシュガーにとって救世主なのだ
だから自分も若様に忠誠を誓った
私を救ってくれたシュガーの恩人なら私にとっても恩人だからだ
だからこそ自身のウタウタの力で若様に逆らう者達をシュガーと共に消していった
そして・・・今からそれと同じことをする
私を忘れていたんだったら貴方にとってその程度の存在だったってことでしょ?
だったら私も貴方のこと忘れてあげる
シュガーと若様とファミリー以外の人間なんて皆同じ捨てられたオモチャのような存在だ
私はシュガーと一緒に若様が創る新時代を生きていく
そこに貴方の居場所は無い"麦わらのルフィ"
でも大丈夫肉体が死んでも心があれば生きていける
せめて最後は幸せなウタワールドで仲間達と一緒に新時代を見ていてね・・・・・ルフィ
「やっと会えたね・・・ウタだよ・・・」