次の星へ
宇宙の旅は長く、娯楽が少ない。いやさ流石に客船などともなれば充実のアミューズメントといったところであろうが、こちとら未だニュービーの宇宙海賊。
即ちアウトロー、所詮は無法者でありその駆け出しともなればないない尽くしの素寒貧である。
まぁ元所持艦艇(てつくず)を売った金は多少なりとも足しにはなったがそれでも娯楽に金を割く余裕は無く、襲撃して来た先輩方から奪い取ったこの船にもそれほど備蓄も無し。
つまり暇なのである。次の星まで約三日、その間の暇潰しは無い。
ともなればやれる事は寝るか、食べるか、ヤるか。未だ人類と分かち難い三大欲求を満たす事なのだがずっと眠っている事は出来ない。
ではヤるか?馬鹿野郎、無理矢理ヤれるわけないだろちょっと抵抗されれば肉体が爆発四散してサヨナラだ。せめてもうちょっと仲が深まれば良いけど流石にまだ時間が足りない。
では残る選択肢は食べる事。飯というわけなのだが——————
「ひぃん…………」
あゝ、今日も台所で悲しゐ物体が生まれてゐる。
物陰から船のキッチン(荒れ放題だったので頑張って一人で掃除した)を伺えば、今日も今日とてシャーロットが悲しゐ物体……失敗した料理を産みだしていた。
シャーロット・T・ホルスティン。KBの「俺は宇宙海賊となり(沢山の)嫁さんをこさえるのだぁー!!力を貸してくれる奴、あーつまれ!(意訳)」というスカウトとすら言えない宣言に一本釣りされたお嫁さん志望の第一船員。
そして生身で宇宙を泳ぎ素手で戦艦をぶち壊すような戦闘民族「ブルタリアン」の一人、「流星のシャーロット」。ほんの数年前に武装惑星一つを壊滅に追いやったという傭兵たちのおとぎ話。
KBでは逆立ちしたって勝てやしない女傑が、台所でエプロンを着けて泣いていた。
「うぅ……!こ、こんなの船長さんに食べさせられません……!」
曲がったフライパンをぐにっと戻したりしながら、シャーロットは涙目で皿を持った。そうしてコンポストと皿を互い違いに見て、たっぷり五分間見比べた後、グッと目を瞑ってその皿の上のものをコンポストに—————
「あっ……せ、船長さ」
KBは、ガバっとその皿を奪い取り。上のものを口の中に放り込んだ。バリバリゴリゴリ、焦げやら生焼けやらが入り混じったものを咀嚼するほどに苦みとえぐみが溢れ出す。KBはちょっと泣き出したかった。
「だ、駄目ですよ!船長さんがそんなの食べたら!お腹壊しちゃいますよ!」
言外に私は大丈夫ですけどと言いたげなシャーロットを見つつ、KBは口の中のものを飲み込み、胃に納めた。お世辞にもというかコレを美味いとは言いたく無い、普通にゲロマズ、オブラートに包んで言っても不味い。
……だがそれでも、KBにとっては自分を思って女性が作ってくれた料理である。それを無下にするのはハーレムを目指す者としては憚られる事だった。
「その……すみま」
言葉を遮り、KBは包丁を握った。別にKB自身も料理が特別得意なわけではない。
だが彼女ほど苦手なわけでもない。あれもこれも一人で生きるだけならば幾らかは熟せる。だから—————
「………こう、ですか?」
美味しいご飯が作れるようになるまで、付き合おう。力加減はどうにも出来ないが、包丁の握り方や火加減位なら教えられる。
船長として部下の面倒を見るのは当然の事だ。覚えたいというのなら一つ一つ、教えていけばいい。
次の惑星に辿り着くまでの三日間。KBとシャーロットは同一の船内という事を差し引いても、殆どの時間を一緒に過ごした。