欠落を埋める

欠落を埋める




胎が軽い。

傍らが寒い。

なにか、どこか足りないナニカがある。



「今日も、呼んでいただきありがとうございます。…父さん。」


「っふ、ファーミン。まだ勃つなら使わせてもらうぞ。」


「エピデムお前…そこまで身体を動かさないのは流石に不健全だろう。ヤろう、お前が上だ。」


「今日はもう飲むな。…私の部屋にいくぞ。抱いてくれデリザ。」


「…セル。解ってはいるんだが…。その、部屋が広くて、な。準備はしないでいい。今夜来てくれないか?」



寒い。寂しい。埋めたい。

すぐ近くにあったはずの体温がない。

どこにもいない。


私たちの末弟。

父さんが求めた最後の器。

私が産んだ、大事な大事な弟。


あの子は魔力を持たずに生まれた子だから、名前をつけることを許されなかった。

探したいのに名を呼ぶことができない。


どこかで生きていることだけは父さんが感知しているらしい。


どうかこのまま一生見つからず逃げ切ってくれ。

頼むから早く見つかって私の側にいてくれ。


鍛錬でも性交でもいい。何かしていなければあっという間に脳内が相反する衝動に埋め尽くされる。


空っぽのナカが、なぜか酷く恐ろしい。




あの子はきっと、どこでもやっていける子だ。


簡単にへし折れそうなほど細いのに異様に頑丈な指や手足だった。

なぜか大工仕事が巧く、ドミナの魔力暴走の後片付けをしていた。

まだ立てもしないのに緻密な重心移動で機敏に動いていた。



あの子の音も、体温も、気配も、どこにもない。


ここで父さんに嬲られることなく暮らしていけるならば、それが一番いい。

そう、ちゃんと本気で思っている。

こんなところから逃げたいなんて、ずっとずっと願い続けて、でも自分たちにはできなかったものだ。

そのはずなのに、自分の感知できる範囲にどこにもあの子がいない事実に、無闇に焦燥が募る。

ここにいてほしくないのに、ここにいてほしい。


私は、どうすればいい?






「…兄者はドミナでは代わりにならなかった。僕だってドミナを失ったらきっとそうなる。」


いつも通りの無感動な声音。

いつもの何を感じているかわからない眼差しで、一つ下の弟に宣告された。


「もう一度子を作っても、満たされないぞ。」



毎日毎日、ここ最近は日に一度は誰かしらに抱かれている。

今日は父に呼ばれた後、自室に戻ってからファーミンと貪り合うことになった最中だ。


今日一日だけでも、何度もナカに出されている。

これでまた身籠ったら、この渇きも埋められるのだろうか。

わからない。でもきっとそんなことでこの焦燥が消えることなんてない。

だってこういう…自分たちが追い詰められている時にファーミンが告げる言葉は、いつも正しいから。


「…そう、だろうな。」


それでも、足りないんだよ。

どこにも、あの子がいないんだ。




それなりに長くドゥウムを貪ったファーミンは、今日はもう勃たないようだ。

こちらも二人に抱かれ、何度もナカで達した余韻と敏感になった後孔で身体のあちこちがヒクついている。


だが、お互いまだ体力は残っている。

自分より数センチだけ小さい身体をひっくり返した。


「や♡、あぁ♡♡!、ひ、♡あ、あ゛♡♡♡!!、や、あ゛ぁん♡♡♡」


父に快楽で歪められたファーミンの身体は異様なほど過敏だ。

受け手に回ってすぐだというのにもう顔から流せる液体はすべて垂れ流している。覆い被さって首筋にキスマークをつけるとその感覚だけで身を震わせる。

ヒクヒク蠢いて寂しげにしている身の裡に指を2本挿入れて軽く拡げると、プシ、と股間と胸から白濁が飛び散った。


ファーミンは可能な限りドミナに乳をやっている。

ドゥウムも少し前までは、そうだった。

吸われなくなってしばらくが経ち、ドゥウムからはもう母乳が出なくなってしまった。


弟の胸元を流れる母乳を舐め取る。

敏感な胸を吸われ、過ぎた快感に目を見開いてくったりと力が入らない肢体を抱え上げる。

目の端から絶えず流れ落ちる雫を指で拭うとその刺激で背がビクリと震えた。

抱きしめる形で拘束して深く口づけながらゆっくり挿入する。


「あ♡♡♡、やあ゛、♡、きもち♡♡ぃ!♡、おく♡♡♡、お、くぅ!♡♡、い゛れ、てぇ♡、あ゛あ゛あぁ♡♡!!、もっ♡、とぉお゛♡♡♡」


身動きを封じて焦らすようにゆっくり動かすのがファーミンの好みだ。

そのまま奥にぐりぐり擦り付けると全身をビクつかせて気持ちよさそうにそのまま潮と母乳を噴いた。



どれほど体力を使い果たしてもどれだけ達しても、弟は限界を訴えることがなくなった。

いやだともやめろとも決して言わず、腕を突っ張って抵抗を示すこともない。

快感を逃す素振りすら見せず、消耗して力の入らない身体で脚を絡め、腰を振り、もっともっとと強請るだけ。


僅かに感知できる魔力には、非常に強力な発情の呪いの気配がある。

ずっと、満たされないままなのだろう。


涙でぐしゃぐしゃになったファーミンの目元には、普段は魔法とコンシーラーの重ね掛けで徹底的に隠された濃い隈があるらしい。

性感に耐えられず寝てもすぐに起きだして自慰をしてしまうから。

治まらない衝動に苛まれ、それでも未来を直視し続ける。次男の姿は、ドゥウムからするとあまりにも靭く眩しい。




「あ、ぃじゃ♡♡、あにじゃぁ♡♡♡」


ファーミンに頭を抱え込まれ、目元にキスを落とされる。

数年前に父に潰され、用をなさなくなった目。

父に逆らったらすぐに必ず壊され殺される。

逆らわなければ、いずれ全て奪われ殺される。

弟たち、共々。



「ああ、口が寂しかったか。…いいぞ、いくらでも。」


くちくち、ぐちゅぐちゅと粘膜を擦り合わせる。舌を絡ませ、開きっぱなしの口から垂れる唾液を舐めとって飲み込み、唇を喰む。

気持ちいい。


エピデムが心臓を抜かれるまで、もう時間がない。

ドミナもいつ引き離され処分されるかわからない。


大事な末弟まで失い、枷は増える一方。

ドゥウムはぼんやりと考える。

自分たちは、どこまで堕ちればいいのだろう。






イノセント・ゼロを主人として戴くマゴル城。

その居住区の長男ドゥウムの部屋。イノセント・ゼロの手によって誂えられ、整えられた部屋。


ここは、イノセント・ゼロの作った鳥籠の中。


主の器であり玩具でもある少年たちは、縋るように互いの欠落を埋め合っていた。


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