櫻の下には

櫻の下には







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「ん……」

 眠っていたようだ。"春眠暁を覚えず"かの高名な詩歌がまた頭のなかに想起された。この時期は毎朝のように脳に反芻される。

 カーテンを開けると春の陽光に照らされた町並みが眼下に広がった。既に櫻の街路樹は満開で、どこかに遊びに行くのだろうか、数人の生徒たちがその下を談笑しながら進んでいく。


「今日は…まだ時間は大丈夫」

 夢を見ていた───入学式。今日のようなうららかな日だった。満開の櫻の下、ユウカちゃんと真新しい気持ちでミレニアムの校門をくぐったあの日。

 駄目だ────ふらふらとした足取りで外出の準備をする。シャワーを浴びて、適当なものをコーヒーとともに口にする。起床は記録しない。そして着飾った服装は、簡素なもの。ミレニアムの制服に比べればだいぶラフで、それは出先でどうせ着替えるからという自分らしくないがさつさだった。


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「……確認いたしました。それでは案内された部屋でご準備ください」

「ありがとうございます」


 百鬼夜行自治区の邸宅街の、築地に仕切られた入り組んだ路地を進んだ先、あるお屋敷にて。案内の大人に追従する間に見える庭園は見事だった。ここも春らしく櫻が咲き誇り、もし可能ならみんなで花見に訪れ、じっくりと記録して詩を詠みたかったところだ。

 それでも今日という日は記憶に蓋をし、また一切を記録したくなかった。これからのことを考えるとぞくぞくと胎の下側から恥辱にまみれた喜びが湧き上がってくる。案内された部屋に準備された衣装は透けて露出が多く、それでいて華美な浴衣のようなものだった。有り体に言えば行為目的のなんちゃって和服。手伝ってもらって袖を通すと肩周りは露出し、胸が半分はだけているし丈は異様に短い。下着は用意されてなかったしそういうことなのだろう。さらにメイクアップしてもらえば準備完了。ちなみにおめかしを手伝ってくれたのは生徒だった。挨拶にさえも反応しなかったが、無言でいるよう教育されているのだろう。

 そして、左の肩に刻まれた0227の焼印と首輪。指先でそっとなぞる。姿見に映った自分の姿はいつもみんなが目にするものとはまるで別人だ。ある意味気楽だった。私は今からセミナー書記という立場を棄て、記録という生業を辞め、ただご主人様とお客様に奉仕する淫猥な娼婦になるのだから。


 昔の私は本当に愚かだった。ミレニアムでは研究開発が至上とされる。そのための情熱も発想力も持ち合わせない私は替えのきく存在でしかなかった。みんなが自分のゆずれないモノに熱中する中で、孤独に囚われて無力感に絶望していたそんな私を救けてくださったのはご主人様だった。書記の重圧から、記録の煩わしさから開放し、娼婦として利用され、管理され、犯していただける幸福を授けてくださったのだ。あらゆる技や心構えもお教えしてもらい、今日のような場で使っていただけることは望外の喜びだった。


 パンパンと手拍子が鳴った。合図だ。しゃなりしゃなりと庭へ歩み出る。ご主人様とお客様は櫻の木陰に毛氈を広げ野点をお楽しみなさっていた。お二方の前で地面に三つ指着き平伏する。


「0227番です。本日はお愉しみください」


「これはまた…余興にしてはいささか上玉すぎやしませんかな」

「ふふ……うちの中でも稼ぎ頭ですよ。ひとつ舞ってみよ」


 促され、立ち上がって一礼したあと舞い始める。これも仕込まれた芸の一つだが、振り付けはやはり扇情的だ。派手に動くと当然浴衣から胸が、局部がまろび出る。あらわになった局部を強調し、頭の後ろに手を組んでガニ股で腰をへこへこ振る。しっかりお二方に媚びなくては。すると服の上からでもわかるようにお二方の股間がいきり立った。今からこれで犯していただける───恍惚とした蜜が股を濡らした。


「よし、次は自慰してみせろ」

「はい。オナニーしてイキます」


 腰を突き出して陰唇を広げてみせる。膣の内部にひんやりとした空気が入り、また注がれるお二方の視線が快い。さらに蜜が溢れた。右手で周囲をそっとなぞりつつ左手は胸へと忍ばせる。そのまま乳首とクリトリスをカリ、カリと弄る。段々とペースを上げ、いよいよ膣に指を挿入した。指の動きは激しく、既に昂ぶっていた秘部と勃った乳首で快楽を貪る。ほっほっ、と浅く呼吸して絶頂を我慢する。


早く────

「…」

まだ────

「…」

っ────「…イッていいぞ」

「0227番、イギますう゛ぅぅ~~~ッ゛!」


 視界が白黒に点滅して、びくびくと全身を痙攣させる。同時にまんこから液体を吹き出した。なんて無様で気持ちいいんだろう。


「むほほ これはこれは」

「お使いになります?」

「是非ともよろしいですか?」

「0227番、お客様にご奉仕なさい」

「はい…」


 呼吸をやや整えてお客様の前に進み出る。跪き、這いつくばって足の甲にキスをした。

「0227番が今から、お客様の魔羅にご奉仕させていただきます」

挨拶を述べて、股間のファスナーを加えてずり下げる。そうしてまさぐると雄雄しいイチモツが現れた。軽く口づけをして、続いてちろちろ舌を這わせる。

「おおっ…」

そのまま咥えて舌を絡ませて亀頭をカリをじっくりと責める。丁寧に…さらに玉を揉みしだいて気持ちよく射精いただけるようにする。膨らんできたので竿を前後にしゃぶっていると────

「────っっ!」

射精なさった。「まだ飲みこむなよ」───口内で精液をゆっくり咀嚼し味わう。なんて濃いオスの匂いだろうか。

「よし」

飲み下し、口を開いて見せつける。さらにげっぷが出てしまった…がお客様の股間はまたむくむくと大きくなった。


「下も?」

「どうぞ」


 心内でお二方のやり取りに歓喜する。

「それでは続いて、下の口でご奉仕させていただきます。ぜひ0227番のおまんこに御子種をコキ捨ててください」

再び土下座し口上を述べる。楽にお座りになってるお客様の上に跨り、ずぶぶっ、

一息に挿入した。

「はぁあん♡」

お客様の魔羅はとても立派で、ミチ♡ミチ♡と胎が押しつぶされる。

「それではぁっ…♡動かさせてっ♡いただぎぃっっ!?」

「雑魚まんこが…さっさと扱かんか」

ごりゅん♡

子宮の入り口が貫かれて変な音が体内に響く。しかし既に勝手にイッた雑魚まんこでは雑魚ご奉仕しかできず、お客様の不興を買ってしまう。

「ほれほれ!全くこれではどっちが愉しんでいるかわからんな」

「申し訳ない…仕方ないな」

ご主人様が懐からスイッチを取り出す。あれは

「お゛っ♡お゛っ♡ご主人様あっ♡それだけはっ♡」

必死に拒否する言葉もむなしくピーと無慈悲な動作音が聞こえた。喉元の首輪が熱くなる。


 瞬間、思い出される完璧に記憶された青春の日々────

 『ノア見て、見事な櫻よ。これも記憶できるんでしょう?ちょっと羨ましいわ…』

 『私たちもセミナーとして、みんなが花を咲かせられるようこの大樹のように強くありましょう』

 一字一句、声音も表情も、雰囲気も全て覚えている。あの日の決意。


 ユウカちゃ────

「ち、ちがっ♡私はぁっ♡そんな、つもりじゃなくてえ♡ふぎぃいっ♡」


「ぬおっ急に締まりが…これは?」

「記憶をいじってな…そういうことが出来る生徒だった」

「なるほどそれはいい」


「あれ?私?♡名前なに♡♡0227番?ノア?わからないのぉ゛ぉ゛っ♡♡♡」


『0227番、さっきの接客はなんだ!』ご主人様に鞭を賜った

『ありがとうノア。いつも頼りっぱなしで悪いわね』そんな、私は───

『イチから仕込んでやる。這いつくばれ』ありがとうございます♡

『お礼にってわけじゃないけど…してほしいこととかある?』なら────

『ふん』雄らしい立派な脚でぐりぐりと頭を踏みつけてくださりました♡

『なでてほしい…そんなことでいいの?』優しく彼女の柔らかい手が頭の上に載せられる。慈しむような手付きだった。『変なノアね…まあいいけど』

『ありがとうって……そんな大したことじゃないのだれど』彼女はにっと微笑んだ。


「射精すぞ!0227番!」

「はい!0227番、イギまずううぅぅ゛っっっっ♡♡♡」

全身を跳ねさせて歯をくいしばって押し寄せる絶頂に意識を保とうとする。白濁液に思い出が、尊厳が塗りつぶされ、快楽が心の穴を埋める。


 ごめんなさい、ユウカちゃん────


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 気がつくと帰りの電車だった。股はじんじんして、今日あったことが現実だと突き付けるようだった。帰って薬を飲んでおかなければ。

「ううっ……」

 今日は、やはり記録したくなかった。




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