機動戦士セイバー
>>1〜第5話『赤き来訪者』〜
二度目の戦闘を終えたシロウとセイバー。
そんな二人の前に、新たなるサーヴァントが降り立っていた。
「クソッ、まだ居たのか…!行くぞセイバーッ!」
『無理です、シロウ!!もうエネルギーがありません!!』
「うぇっ!?なんでさっ!?」
『元々のエネルギー量が少なかった上、昨日と今日の戦闘、加えて先程のジェット噴射により、残量エネルギーのほとんどを消費してしまいました…!』
「そんなにエネルギー少なかったのかよっ!?」
(ちゃんと充電しといてくれよ爺さんっ!!)
亡き養父へ、心中でクレームを叫ぶシロウ。
二人が絶体絶命の危機に陥った、次の瞬間。
セイバーのコクピット内に、電話の着信音の様な音が鳴り響いた。
「この、音は…?」
『外部からの通信…!?あのサーヴァントからです!』
「えっ!?俺達と話そうとしてるって事か!?」
『……出ますか?シロウ』
「あ、あぁ。頼む…」
セイバーが正面へ手をかざすと、そこに空中ディスプレイが出現する。
ディスプレイには、目の前の赤いサーヴァントに乗っていると思われる、ツインテールの少女が映し出されていた。
『───こんにちは、フユキのマスターさん』
「………」
こちらに語りかけてくる少女に対し、どうすれば良いか分からず硬直してしまうシロウ。
すると、少女は困惑した様子で後ろに振り返る。
『…ちょっと、アーチャー?これちゃんと向こうに聞こえてるの?反応無いんだけど?』
すると、少女が座る座席の奥から、男の声が聞こえた。
『あぁ、確かに繋がっている。突然現れた我々にいきなり話しかけられたのだ。相手が何も言えなくなるのも無理はない』
『むぅ、それもそっか……』
少女は再びこちらを向く。
『ごめんなさい、私達は貴方と戦う気は無いわ。私は『協会』に所属するマスター。貴方が今倒したサーヴァントを追ってここまで来たの。…それにしても、まさかこんな辺境のコロニーが、サーヴァントを所有しているとは思わなかったわ』
「お、おい!ちょっと待て!追ってきたってどういう事だ!?それに、協会って……?お前は一体何者なんだよ!?」
シロウの言葉に、少女は驚いた様子を見せる。
『はぁ!?協会を知らないって……、アンタまさか一般人!?何で一般人がサーヴァントに乗ってるのよ!?』
「いや、それは───」
『待った。……ここで長々と立ち話をしてたら、お互い面倒な事になるんじゃない?』
少女の言う通り、街の真ん中に居座り続けていれば、避難シェルターから出た人々にセイバーを見られてしまう。
『どこか、サーヴァントを隠せそうな場所はある?』
「あぁ、それならウチの地下室がある。割と広さがあったし、サーヴァント二機ぐらいなら入ると思う」
『そう、じゃあそこに案内してくれるかしら。詳しい話はそこでしましょ』
「…分かった。セイバー、一旦家に戻るぞ」
『シロウ!彼女を信用するのですか!?』
「どのみち、今の俺達は戦えないんだ。ここは相手の言うことを聞こう」
『……分かりました』
〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
セイバーと赤いサーヴァントは、土蔵の地下へと移動した。
その後、シロウと赤いサーヴァントのパイロットは、それぞれのサーヴァントから降り、その場で話し始める。
「…さて。それじゃ、まずは自己紹介から始めましょうか。私は『リン・トオサカ』。協会に所属するマスターよ」
「えっと、俺はシロウ・エミヤ。このコロニーで生まれ育った学生だ」
「そう。じゃあ、エミヤ君。先に私の質問に答えて頂戴。……何故、一般人である貴方がサーヴァントに乗り、あのサーヴァントと戦っていたの?」
「それは───」
シロウは、セイバーを発見した時の事から、今までの事を説明した。
「……成程ね。にしても、サーヴァントを保有してるなんて、貴方のお父さん一体何者?」
「それが、俺にもよく分からなくて……。爺さん、自分の事は全然話してくれなかったから……」
「まぁいいわ。それで、次は私が話す番だけど」
「あぁ。まず始めに、お前がさっきから言っている協会っていうのは、一体何なんだ?」
「協会は、地球とその近辺にあるコロニーから構成された"聖杯を巡る戦争の終戦"を目的とする組織よ。」
「戦争を、終わらせる…!?」
シロウは、リンの言葉に驚愕した。
戦争の終結。
それはまさに、シロウが今まで願い続けてきた事だ。
「今現在、宇宙全土で行われている戦争は、聖杯を巡る戦い。目的である聖杯が力を失ってしまえば、戦いは終わるわ」
「でも、聖杯の力を失わせるなんて、出来るのか?」
「聖杯、及びそのパーツは、バラバラに分解する事は出来ても破壊は不可能。…けれど、協会は研究の末に"聖杯が完成した状態なら、その機能を停止させられる"という事実に辿り着いたの。」
「聖杯が完成した状態での、機能停止……。けど、聖杯って確か、何百ものパーツに分解されちまってるんだろ?それを完成だなんて、可能なのか?」
「確かに昔はそうだった。でも、現在に至るまで、聖杯のパーツを持つコロニー同士は潰し合ったり、吸収し合ったりしてきた。必然的に聖杯のパーツも集合して、今では十数個にまで集まっているの」
「成程。……協会については分かったよ。けど、さっき言ってた"俺が倒したサーヴァントを追ってきた"っていうのはどういう事だよ。」
「昨日、このフユキを協会と敵対する勢力のサーヴァントが襲撃したという情報を、協会が入手したのよ」
「あぁ。確かに昨日、このコロニーをサーヴァントが襲撃して、俺とセイバーが倒したぞ」
「……サラッと言ってくれてるけど、戦闘未経験者が兵士相手に2連勝だなんて、普通じゃ考えらんないのよ……?」
呆れた様子でため息をつくリンだったが、すぐに気を取り直して話を続ける。
「こんな辺境のコロニーを襲うなんて、必ず何かしらの理由があるハズ。そう睨んだ協会は、私にフユキ周辺を監視するよう命じたの。そしたら案の定、新たなサーヴァントがコロニーへ入って行くのが見えてね。捕縛しようと追いかけたら、突然現れた貴方達が倒してしまったってワケ」
「そうだったのか…」
『おい、リン。一般人相手にベラベラと喋ってしまって良いのか?』
突然、地下室にシロウでもリンでもない声が響く。
「あら、私が何の考えも無しに話しているとでも思ってるの?」
リンの視線の先は、自身の右手首。
そこには、腕時計型のデバイスが巻かれていた。
デバイスには画面がついており、そこには褐色肌の男が映っている。
「なぁ、なんだよソレ?」
「コレはサーヴァントとの通信用のデバイス。これを使えばコクピットの外でも、サーヴァントの人工知能と会話出来るの」
「へぇ、便利だな」
興味を持ったシロウは、リンの隣へと近づき、デバイスの画面を覗き込む。
すると、画面に映った男が馬鹿にする様に鼻を鳴らした。
『一般人でありながら二度の戦いを制したと聞き、一体どんな猛者かと思えば……。何も考えていなさそうな、とんだ阿呆面だな』
「なっ!?なんだ急にっ!!初対面で失礼だぞっ!!」
男の口の悪さに、普段は温厚なシロウも思わず声を荒げた。
「ごめんなさいね…。ウチのアーチャー、意地が悪くて性根がひん曲がってるのよ…」
そう言いながら、リンは自分のサーヴァントの脚部装甲を軽く蹴りつけた。
『事実を述べたまでだ。……それで、リン。その考えというのは?』
「あぁ、そうだった。それじゃあエミヤ君、早速だけど、貴方のサーヴァントを渡しなさい」
「………はぁっ!?」
リンの言葉に、シロウは声を裏返す。
「セイバーを渡せって……、どういう事だよ!?」
「そのままの意味よ。このサーヴァント───セイバーは、マスターがド素人にも関わらず、熟練マスターの乗ったサーヴァントを既に2機も倒している」
『ド素人』という部分を強調したリンに対し、シロウは少しムッとしたが、一般人の素人なのは事実である為に何も言えなかった。
「セイバーはそれだけの性能を誇るサーヴァントなのよ。こんな片田舎で腐らしとくにはもったいなさ過ぎるくらいにね」
「……セイバーを持っていって、どうするつもりだ」
「そりゃ勿論、協会のサーヴァントとして運用するわ」
「それは困る!もしまたフユキがサーヴァントに襲われたら、セイバーが居なきゃフユキを守れないだろ!」
「そこは安心して。私から上にかけ合って、このコロニーを協会の護衛区画に入れてもらうから。そうすれば、またどっかのサーヴァントが襲って来たとしても、今度は協会のサーヴァントが守ってくれるわよ」
「そ、そこまでしてくれるのか…!?」
「このコロニーから唯一の戦力を取り上げて、後は放置だなんて、そんな無責任な真似しないわ」
リンの言葉がセイバーを手に入れる為の虚言だとは、少なくともシロウには思えなかった。
外見からして、リンはシロウと同い年くらいだろう。
しかし、とてもそうとは思えない程に、リンには強い責任感が備わっている様に感じられたのだ。
「これで、貴方がセイバーを持ち続ける理由は無くなったんじゃない?」
「それは……」
リンの言う通り、今のシロウには、セイバーのパイロットであり続ける理由は無くなった。
フユキは協会が守ってくれる上、リンの元ならばセイバーも悪いようにはされないだろう。
何より、これでシロウはもう、戦わなくていい。
もう、誰も殺さなくていい。
───しかし。
「……セイバーは、爺さんの事を知れるかもしれない、唯一の手掛かりなんだ…」
シロウにとって、誰よりも尊敬する人物であり、誰よりも謎に包まれた人物でもある、養父・キリツグ。
今、セイバーを手放してしまえば、シロウはキリツグの事を知るチャンスを逃す事になる。
「俺は、爺さんが何者だったのかを、知りたい…!」
シロウの言葉を聞いたリンは、ほんの一瞬だけ目を見開いた後、ため息をつく。
「……父親の事が知りたい、か…」
そう呟き、しばらく悩んだ後、リンはシロウに向き直った。
「……なら、エミヤくん。貴方、私と一緒に協会へ来る?」
〜第5話 終〜