楽園形成

楽園形成

真の情報:柱間の妻の高頻度の浮気。柱間は妻の浮気を誘導していない。扉間は義姉に指一本も触れていない。扉間は義姉の不貞も腹の子の父親も知らない。柱間も腹の子の父親を知らないが自分ではない自覚がある。チャクラ感知では腹の子の父を特定できなかった。

 火影である柱間に用があり、男は柱間の妻に取り次いでもらうつもりで屋敷を目指して足を動かしていた。直接会えるのならそれでいいが多忙な火影様だ。家に行ったところで会える可能性は低い。大した用でもないのもあって最初から男は奥方に伝言を頼む心積もりで屋敷に向かっていた。

「ごめんください」

「ん、ああ、浅井殿。兄者は奥だ。案内しよう」

意外にも男を出迎えたのは柱間の弟である扉間だった。肉親なので扉間が居てもおかしくないが、普段は出入りしているところを男は見たことがない。扉間の家に向かう柱間の姿は度々見ると言うのに。奥方が、義弟である扉間のことを嫌っているという噂を男は思い出していた。真実かどうかは知らない。誰からみても兄弟二人仲が良いにも関わらず、兄の妻と居る姿をあまり見かけないのは事実だった。

 そんなことを男が考えているうちに柱間の居る部屋に辿り着いたのか、扉間が立ち止まる。扉間が、兄者、お客様だ、と声をかけ襖を開けた。部屋には穏やかな顔で火鉢に当たっている柱間が居た。扉間に促されるまま、男が置かれた座布団に座る。柱間も男と向かい合わせになるように座った。扉間が黙って置いた座布団に合わせて。

「浅井殿、茶は」

「いえ、すぐ済む話ですので」

「なら、オレはこれで」

「扉間。後でオレに茶を頼む」

奥方ではなくて、と男が首を傾げる。柱間が男の疑問を察して諸事情あって実家に帰っておっての、と言った。ああ、どうりで、と男が頷く。帰った柱間の妻の代わりに扉間が世話をしていたのだろう。そう思った後、男は首を振った。身の回りの世話なら女中でもなんでも雇えばいいだけだ。弟である必要などない。にも関わらず男は何の疑問も持たず、扉間が世話をしているのだな、と思った。そのことが妙に男には怖かった。

「で、オレに何の用だ」

「ああ、実は」

男が柱間に頼みたかったことを話していく。柱間は頷きながらそれを聞いていた。話し終えた男が、ふぅと息を吐いた。柱間は疲れた様子の男に、大丈夫か、と訊き、そして、お主が語ったこと心に留めておこう、と言った。用件は済んだので帰っても良かったが、男は怖い気持ちのまま帰るのが嫌で、妻のことを訊ねることにした。

「その、奥方様が里に戻られたというのは?」

「いやぁ、実は子が出来たそうでの」

「は、はぁ」

喜ばしい話であるはずなのに、一切嬉しそうではない柱間に男はそう返すしかなかった。目が笑っていない。柱間の子ども好きは有名だ。それに、当主である以上子は生さなければならない。そんなことを柱間が理解していないわけがない。柱間が喜ばぬ理由が解らず男は心の中で呻いた。

「オレが、何故喜ばぬのか、と思っているであろうな」

「いえ、そんな……はい。私のような凡夫には喜ばしいことにしか聞こえませぬ」

「うむ。お主は正しい。オレも子そのものは嬉しいぞ」

柱間がパッと笑った。扉間と居るときによく見る太陽のような笑みだ。問題は子ではないなら……と男が考え、思いついたことがそのまま口から飛び出そうになって咄嗟に唇を噛む。奥方の浮気なんて、と男が冷や汗を掻く。柱間にも、奥方にも失礼だと男は頭に浮かんだ下世話な発想を振り払おうとする。柱間は、男を見て笑っていない笑顔を浮かべた。

「概ね想像通りだ。オレの子か分からん」

「ヒッ、それは、その」

「気にせずとも良い。忙しい上に偶に帰ってもそのまま寝ることが多かったからな」

だから、アレに子が出来たらしいことを扉間に教えられて驚いたぞ、と柱間が囁くように、だがはっきりと聞こえる声で言った。その声には一切の感情が乗っていなかった。男が身震いをした。妻に対して怒るほどの価値もないと柱間が思っていることが分かってしまった。

「り、離縁されるんですか」

「まぁ、流石にオレも面子というものがあるからな」

「その、お子さんは?」

「二人ともオレが引き取るぞ」

質問をしておきながら男は馬鹿な質問をしたな、と反省した。離縁した妻が誰と再婚するにしても子は邪魔で、柱間は跡継ぎとなる子が必要。千手関係なく力のある一族の当主はそうするのが普通だ。だが、魚の骨が喉に引っかかったような違和感を男は抱いていた。何かおかしい。しかし、これ以上藪を突く気になれず男は違和感をそのままにしてこの場を辞すことを決めた。

「余計なことを聞いてしまいました。申し訳ありません」

「気にするな、来年には公表せねばならんことだ。まぁ、それまで離縁のことは黙っていてくれると助かるの」

「承知しました。では、私はこれで」

「うむ。寒いから身体に気を付けろ」

男が襖を開け廊下に出る。玄関に向かう途中男は部屋を掃除している扉間を見つけ声を掛けた。

「扉間様」

「浅井殿」

「寒い中熱心に掃除されますね」

「ああ、義姉様が戻ってこられたときのためだ」

おや?と男が扉間の言葉に疑問を抱いた。扉間は兄夫婦が離縁するという話を知らないような雰囲気である。

「奥方様はご出産だと聞きました」

「兄者が話したのか。遅くても二月には出産予定だそうだ。オレは何も手伝えんから家の保持くらいはしようと、な」

「そうですか。きっと奥方様も喜ばれます」

「だと良いな」

義姉への悪感情など一切ない笑みで扉間が笑う。男は、扉間が何も知らぬことを察し己の口を塞ぐことを決心した。では、私はこれで、と男が去る。男の耳に柱間が扉間を呼ぶ声が小さくはあるが確かに入った。待ってろ、と言う扉間の返事も。相変わらず仲の良い兄弟だ。そう思いながら玄関で草履を履いていると不意に男は違和感の正体に気が付いた。浮気相手の子どもかもしれないのに引き取る理由は?汗がブワッと流れた。男が騒ぐ心臓を落ち着けるように息を長くゆっくり吐いた。

 扉間が浮気に気付いていない、ということは腹の子どもの父親は確実に千手一族の男だ。だが、普段の忙しさと本人の証言から言って柱間が父親である可能性は非常に低い。それを分かっているはずなのに柱間は子どもを引き取ると言った。顔から言って渋々ではない。男は柱間と格別に親しいわけではないが、それでも腹芸が上手くないことは知っている。子どもを引き取りたいのは柱間の本心と見て良い。何故?まさか!男は人目がないことを良いことに首を大きく振った。頭に浮かんだ悍ましい答えを頭から振り払うように。戸を開け、男は屋敷から逃げ出すように出て行った。

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