極天永生航路淀 5節【為合わせ】後編

極天永生航路淀 5節【為合わせ】後編

トプロ産駒特異点SS筆者

──地下馬道にて。

クニヒコ「これでよし。いつも使ってる調律器やないから、応急処置しかできひんけど」

シゲピン「十分よ、ありがと」

クニヒコ「……あの、ダイヤ」

シゲピン「言っとくけど、もう謝られても聞かないからね」

クニヒコ「ぁ……せやね、こんなのに巻き込んどいて今更……」

シゲピン「違うわよ!そうじゃなくて、謝ってほしくないの。あなたのためにも……あの牡馬(おとこ)のためにも」

クニヒコ「え……?」

シゲピン「特異点を作ったことは間違ってると思う。血統書き換えられたのも腹立つわ。……でも、そうした理由は、トップロードがあなたとたくさん夢を見たかったって気持ちは、間違いじゃないから。だから、謝らないで。クニヒコだけは、あの牡馬の気持ち、否定しないであげて」

クニヒコ「……うん、わかった」

シゲピン「もし次謝ったら、全力で蹴飛ばすわよ。幸のジャーマンスープレックスも追加するから」

ヒデアキ「ナベちゃん前より重いからなー、上手く手加減できるかなー」

クニヒコ「ひどくない!?」

シゲピン「ひどくない。じゃ、ウィナーズサークルで待ってて」


──観客席にて。

ユーイチ『見てみ、この出馬表、ほとんどトプロ産駒になっとる』

リュウセイ『思ってた以上に書き換えが進行してますね。にしても和田さん、ダイヤちゃん乗らなくてよかったんですか?主戦でしょう?』

リュージ「んー、ゲートは不安あるけど、今回は大丈夫やろ。こっちきてから何度か走っとるし。そもそもあかんかったら、さっきの時点で本人から言うてくる。それがないってことは、ダイヤがそう決めたってことや」

アキラ『正史の勝ち馬はえーっと……あっ、スイープか』

マシュ江『オースミハルカが逃げ粘って、掲示板内はほぼ中団以降の馬、上り上位3番目までの瞬発力勝負だったの。スタミナがもてば勝負に加われる可能性は出てくるわ。でも……』

ウチダ「うん、今回重要なのは、自分の勝ち負けじゃない。特異点発生のトリガー、ベストアルバムを『勝たせない』ことだ。通常より難しい競馬になるよ」


──ゲート裏

シゲピン「何よ、その含みのある顔は」

ヒデアキ「優しいなーと思って。ナベちゃんにはもちろんだけど、トップロードにも」

シゲピン「……わよ」

ヒデアキ「ん?」

シゲピン「したくてしてるんじゃないわよ!クニヒコはともかく、あの牡馬になんて!あいつのせいで私、負けヒロインだのマゾなの?だの散々言われてるのよ?!違うわよ!失礼ね!そもそも死んだ相手となんて、どうやったって最初っから同じ土俵に上がれるわけないじゃない!勝ち逃げとかふざけんじゃないわよ!もうほんと!ほんっっっと!」

ヒデアキ「ダイヤちゃんステイ、ステイ!レース前だから!」

シゲピン「コホン。……まあ、思うところは山ほどあるわ。彼の全部持ったまま逝っちゃって、私たちには入り込む隙間も残してくれなかったのよ?腹立つでしょ?

でも、あの牡馬がいたから、私を選んでくれたクニヒコがいる。だったら、その思い出ごと大事にしたいじゃない。私が好きか嫌いかなんて、どうでもいいの。彼が宝物だっていうなら、そこら辺の小石だってビーストだって、守ってあげる。それだけよ」

ヒデアキ「……やっぱり優しいね、ダイヤちゃんは」

シゲピン「トーゼン、私いい女だもの」


『全馬揃って、体勢完了……スタートしました!』


〜戦闘パート〜

(サポートのミユピー&シゲピン単騎固定)

(エネミー16体、10ターン耐久)

(開幕直後自陣デバフ【??????】)

(自陣デバフ解除【階層判明:仁川】)

(自陣固定バフ【アトラス院礼装:ブロッケン・マークⅡ】最大HP1500アップ+ターン終了時にHP残比率が最も少ない味方単体のHPを500回復+弱体無効1回)

(自陣固定バフ【沖厩舎式魔力調律】毎ターンスター20個獲得状態を付与&NP獲得量アップ)


私はサラブレッドだから、悲しいことに持って生まれた素質が全部だ。


『先頭は完全にオースミハルカ!あと300m!今年はついに逃げ切るか!』


勝ち鞍は1600、馬券内に入ったレースは全部2000以下。

安田記念も有馬記念も好走したパパのおかげで、スタミナはそれなりにある。ママ似だから、上手いこと脚を残せば差し切れる。京都も阪神も結構好き。たぶん完走できるだろう。

でも、それだけ。

努力とか技術とか、鞍上の戦略とか、運とか。そういう次元の話じゃない。どうやったってあと1ハロン足りない。勝てない。この脚は、この体は、そういうふうにできている。

それでも。


『外からアドマイヤグルーヴ来た!上村の夢を乗せて!』


馬場の真ん中、上がらない脚を無我夢中で芝に叩きつける。目の前がチカチカして、ちゃんと地面を踏めているのかすらわからない。ハミを噛んだ口の中が鉄錆くさい。幸が誘導してくれたおかげで、いくらかマシなところを走れているけど、正直今にも崩れ落ちそうだ。

点滅する視界の端に、真っ赤なメンコが見えた。その馬上で、見間違えるわけない顔が、黄色赤縦縞黒袖の勝負服を着て、手綱を扱いていた。目尻の笑い皺が、ちょっと物足りない気がした。


(こんな状態で、会いたくなかったなぁ)


ごめんなさい、私の知らないクニヒコ。これから、貴方の世界で一番大事なものを奪います。

一瞬胸の中で小さく謝って、最後の力で足を伸ばす。


だって私が貴方にしてあげられる愛(こと)は。

貴方が選んでくれたこの脚で走る、それ以外ないから。


フラッシュ「残り300mです!」

リュージ「いけ、ダイヤ!」

クニヒコ「ダイヤ……!」


シゲピン「────ぁ、ああああああああああああああ!!!!」


『しかし外からスイープトウショウ!スイープトウショウです!差し切りました!』


リュージ「スイープが勝った!」

ウチダ「幸くんたちは!?」

リュウセイ『ギリギリ、ベストアルバムをハナ差抜いてます!』

アキラ『優勝トロフィーから聖杯出ました!』

リュージ「よっしゃ!あとはこれをダミーと入れ替えて回収……」

マシュ江『待って、もう一つ魔力反応!……何これ。なんでこんなぐちゃぐちゃな数値が?』

クニヒコ「……トップロード?」

全員「えっ!?」

ボンド「あの聖杯に引き摺られてるもの、トプロさんプボ……?」

フラッシュ「とても美しい馬、なのですよね?先生の前で大変失礼なのですが、あれはどう見ても、馬の姿ではありません……」

ユーイチ『いや、間違いない。あれは正真正銘、ナリタトップロードの魂や』

リュージ「なんであいつ、あんな崩れかけとるんや……!?」






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