森でも店でもない新天地

森でも店でもない新天地



アロメルスはいつも、そこにいるだけだった。

蟲惑魔を利用したビジネスは需要があったが、決して楽な商売ではない。度重なる試行錯誤の中、成長していくうちに偶然にも人間基準の美しさとやらが期待よりずっと高かったことが判明したアロメルスはオーナーの商売魂に火をつけた模様で、客に見えるよう展示され技術力を誇示するという展望のため、非売品と印字されたリストバンドを付けられオーナーが扱える限り最新の技術に囲まれて過ごした。

オーナーの目算は間違っていなかった。ショーケースの中でただ生活する美しいアロメルスに心惹かれる人間は後を絶たず、アロメルスが展示されるようになってから売り上げは確かに伸びていた。

アロメルスを買いたいという申し出は何回もあった。だがその度にオーナーはアロメルスに合図し、アロメルスは客に歩み寄って、リストバンドに書かれた「非売品」の文字を見せるだけだった。

波乱もなく管理されたいつもの日常が続くだけで、悪く言えばつまらなかったが、存在だけで人を魅了し金を積まれても手放すのが惜しいという自分の価値にアロメルスは誇りを持っていた。

だが、ある日アロメルスは自分が売られるという事実を知った。

寝耳に水の話だったし、すぐには信じられなかったが、早急にとのことでてきぱきと出荷の準備を進めるスタッフを眺めているうち実感が湧き、そしてにわかに不安が襲ってきた。

自分はどんな人間に売られるんだろう。

相場の5割増しの値を提示されてもオーナーは売らなかったのに、どれだけ積んだんだろう。

自分を買う金持ちなんてどうせ豚みたいな奴だ。

金の匂いを嗅ぎつけることしか能がない豚みたいな人間に売られるんだ。

自分にもたれかかりながら失意にのまれるアロメルスをよそに、出荷の時間は迫ってきていた。



アロメルスが着いたのは、大きな洋館だった。

屋敷と言ってもいいだろう。アロメルスは研究所以外でこんな大きな建物に入るのは初めてだった。

スタッフによれば中庭にアロメルス向きの木があるらしく、それを使っていいし、室内も主人が止めない限り自由に歩いていいと伝えられた。

アフターサービスも契約しており、定期的にスタッフが来るので足りないものがあれば届けられる手筈は整っているという。アロメルスは驚いたが、しかしだからと言って自分の未来が大して明るくなったようには思えず、何もやる気が起きずに自室としてあてがわれた部屋に向かった。

部屋は広く、ベッドやソファなど必要なものは一通り揃っており、クローゼットには服がずらっと並んでいる。使われた形跡はなく、だいたいはアロメルスが着れそうなサイズだった。

机の上には花瓶が置かれており、そこには色とりどりの花々が生けられている。

微かな匂いに誘われるようにアロメルスは花に近づく。

こんなものまで用意しているなんて。アロメルスは自分を買った人間のことがわからなくなってきた。

じっと花瓶を見つめていると、不意にノックの音が響いた。

「…はい。どうぞ」

誰だろう。さっき別れたスタッフが、何か忘れたことがあって戻ってきたのかもしれない。

ゆっくりと開いた扉の向こうにいるものをアロメルスの黄金色の目が捉える。

それは年端もいかぬ少年だった。

「あ…!」

「はじめまして。このたびお買い上げいただきました、アロメルスです」

こんな喋り方でいいのだろうかとアロメルスは懸念する。一応教わっているが元が非売品、付け焼き刃でしかない。

「あ、アロメルス、…さん?」

「はい。どうぞアロメルスとお呼びください。…失礼ながら、この館のご主人様にご挨拶したいのですが、よろしいでしょうか?」

「え?…………ああ、えっとあの、これからよろしく…?おねがいします…?」

アロメルスには少年の言葉の意味がわからなかった。

ご主人様に挨拶したいと申し出たら少年が挨拶を返してきた。これはどういうことなのか。

二つの要素は、少年が次に発した言葉でようやく繋がった。

「その、そんなにかしこまらないで。主人といっても、まだこんなだから…」

…この少年が、ご主人様?

……こんなかわいらしいのが?

私はこの子に買われて?

これからこの子と過ごすの?


よっしゃあ!!!


アロメルスは生まれて初めて叫び出しそうになった。



少年はアロメルスが状況を知らないままに連れてこられたことを知ると、自分の家の事情を話して聞かせた。

富豪の家に生まれたこと。

優しい両親に恵まれたこと。

そして、その両親はもういないこと。

寂しさから逃げるように外に出て、あてもなく歩いているうちに、ショーケースの中に居る女の子を見つけたこと。

「それで……アロメルスにどうしてもうちに来てほしくなっちゃって」

「そうなの…人肌恋しい、ってやつね」

「人肌っ…」

「恥ずかしがらないでいいの。私にできることがあったら、なんでも言って」

「う、うん。ありがとう……ぁ、ぅ………」

少年は何か言いかけて口を噤んでしまった。

「どうしたの?ほら、何か私にお願いしたいことがあるんでしょ…?なんだっていいのよ?」

言いながらアロメルスは少年に歩み寄っていく。茜色の髪がふわりと揺れた。

「ぁ、の、ちょっと、近い」

「あら、そうだった?ごめんなさい、ガラスを挟まずに人と触れ合う機会があまりなかったものだから」

アロメルスは微笑みを絶やさず、しかしそれでもなお止まろうとはしない。

確信していた。この子は人の温もりを求めている。心でも…体でも。

ならば、自分が満たしてあげなければいけない。

この体はこの子にそれを与えてあげることができる。

ぎゅっ、とアロメルスは少年を優しく抱きしめる。

突然のことに硬直する少年だったが、アロメルスに優しく頭を撫でられると、抵抗することもなくされるがままに身を委ねる。

「よし、よし……大丈夫、もう寂しくなんかない。これからは私がいる。いつでもこうして抱きしめてあげられる」

「……本当に?」

「本当。私は出来がいいし、それにとっても強いの。絶対にあなたを一人にしたりしない。約束」

「約束…」

少年の表情が少し和らいだ気がした。

「そう。あなたが望めば、私はいつだってあなたの側にいる。側にいるだけじゃない。あなたのしたいこと、してあげる」

アロメルスは少年を慈しむように、ゆっくりと言い聞かせる。微かに感じる少年の鼓動をもっと感じたくなって、身体を密着させた。

「あっ…!」

「窓の外に怖いものでも見えた?大丈夫、何が来ても私が追い払ってあげる…」

「ち、ちが……ぁ……」

少年は顔赤くして何かに耐えている。アロメルスはそれに気づかず、ただひたすら少年の背中をさすっていた。

「怖かったらお風呂も一緒に入る?洗ってあげるけど」

「お、お風呂!?それはいい!一人で入れるから!そっそれよりも離れて!」

「遠慮しなくていいのよ。私は蟲惑………、……?」

アロメルスはふと、身体の下の方に何か触れていることに気が付いた。

「これは……」

「ご、ごめんなさ…!」

「……謝ることなんてない。男の子なんだから、当然の反応だと思う」

「ううぅ…」

「こちらこそ、ごめんね。女の子のカラダだもんね。胸、当たってたよね」

少年は顔を真っ赤にして俯いてしまっている。

「かわいい……」

思わず言葉が漏れ出たことに自分で驚くが、アロメルスは構わず続ける。

「……ねえ、触りたい?」

「へ……?い、いやそんな、ぼくは」

「いいの。こっち、来て」

少年をベッドに誘うと、アロメルスは着ていたものをはだけさせる。

「な、何を」

慌てて目を逸らす少年。だがアロメルスはその手を自分の胸に誘導する。

小さく震える手がアロメルスのふくらみに触れた。

「ほら、好きにさわって…?」

「……っ…」

少年の手が恐る恐る動き始めた。アロメルスは優しく微笑みながらその様子をじっと見つめ続ける。

アロメルスの胸は大きさこそ控えめではあるが、柔らかさは充分だった。

「んっ……」

「いっ、痛かった!?ごめんなさい!」

「ううん、だいじょうぶ。気持ちよくて声出ちゃった」

「えっ、あ、あの」

「もっと強くしても平気だよ……?」

「う、うん……」

少年の手に、先程より少しだけ力が入る。指が胸の突起に触れ、アロメルスの口から吐息がこぼれた。

「ふっ……あ、ん……どう?おっぱいやわらかくてきもちいい?」

「うん…おっぱいすごい…」

少年はもうすっかりアロメルスに夢中になってしまっていた。

アロメルスの方はといえば、こちらも完全にスイッチが入っていた。

目を釘付けにしながら自分の身体を触っている少年を見ると、不思議な満足感で満たされていく。

同時に湧き上がる衝動があった。

―—もっとこの子を喜ばせてあげたい。

「ここ、苦しいでしょ…?出してあげるね…」

アロメルスは少年のズボンに手をかけると、そのままずり下ろしてしまう。

露になったそれを手で包み込むようにして優しく刺激を与える。

途端に少年の腰が小さく跳ねた。

アロメルスは手の動きはそのままに、少年の耳元に唇を寄せると囁く。

「大丈夫だよ。優しくするから」

その言葉で少年の緊張はいくらか解れたようだった。

アロメルスは空いている方の手で少年の髪を撫でながら、ゆっくりと上下に動かす。

少年の呼吸が荒くなり、顔には切なげな表情が浮かぶ。

「あっ…!アロメルス、だめ……!」

「だめじゃないよ…?いっぱい気持ちよくなって…」

アロメルスは少しだけ手の動きを速めた。少年はアロメルスのたおやかな指がもたらす快感に太もものあたりを細かく震わせている。

先端から透明な液が溢れて、アロメルスの手を汚していく。

「えっちなお汁でてきた…私にちゅこちゅこされるのきもちいいね…もっときもちよくしてあげるからね…」

アロメルスの言葉に、羞恥と興奮が入り混じった表情を浮かべる少年。

もう少年の限界が近いことを察すると、アロメルスは少年の耳を唇で軽く数度挟み、

「いいよ、出しちゃっても…我慢しないでいいからね……私に抱きついていいから…」

アロメルスに更にペースを上げられ、少年の身体が強張る。

「出しちゃえ…!」

「あぁっ!うっ…!」

アロメルスにひしと抱きついたまま、少年の身体が大きく痙攣した。アロメルスの手のひらに熱い白濁した液体が吐き出される。

アロメルスは少年の精を受け止めると、優しく微笑む。

少年はしばらく荒い息を立てながら呆然としていたが、やがて我に帰ると慌ててアロメルスから手を離して目を逸らす。

「ぁ、…ぁ……ぁりがとう……」

恥ずかしさで消え入りそうな様子の少年を愛おしく感じ、アロメルスはそっと頭を撫でる。

「こんなに出したの…すごいね」

手のひらの上の白濁を見て言うアロメルスに少年はますます縮こまってしまう。

そんな少年に、アロメルスは優しく語りかける。

「恥ずかしがらなくていいのよ…?これは男の人が気持ち良くなった証なんだから。いっぱい出せるのも自信を持っていいことなの」

「…うぅ……ふ、拭かないと」

少年はティッシュを手に取ると、おろおろしながらもアロメルスの手に付いたものを丁寧に拭っていく。

アロメルスのことを気遣ってくれているのだろう。しかしアロメルスにとってみれば、自分の手を少年が綺麗にしてくれていると思うと、それはそれで更なる愛おしさと興奮を覚えるのだった。

「きれいにしてくれてありがとう。…あなたはご主人様なのに、こんなことしてもらっちゃった」

アロメルスは少年の首に手を回すと、ゆっくりと少年ごとベッドに倒れ込んだ。

「お礼をしないとね」

少年に唇を近づける。少年が思わず目を閉じて数秒後、二人の唇が重なる。

柔らかな二人の唇が優しく触れあうだけのキスだったが、それでもお互いの心を満たすのには十分すぎるほどだった。

名残惜しそうに唇を離すと、アロメルスは少年の目を見つめて言った。

「んっ…ふふ、私のファーストキス、あげちゃった」

その言葉に少年は顔を真っ赤にして口をぱくつかせる。

アロメルスは目の前で可愛らしく狼狽している少年の姿を見て、言い様のない幸福感に包まれていた。

誰かを愛するという感覚がどういうものなのか、アロメルスは知らなかった。

けれど、今こうして少年の温もりを感じていると、こころの中から湧き出すような感覚があった。

アロメルスがまだ名前を付けていない、不思議な感覚があった。

「ねえ…なんで私だったの?あそこには他にも蟲惑魔がいたし、私は非売品だったのに」

「………そ……それは…」

少年は目を閉じて、深呼吸を数回するとアロメルスの目をしっかりと見据えた。

アロメルスはわずかに首を傾げながら、次の言葉を待つ。

そして、

「…一目惚れだったから」

「―—!」

アロメルスは今自分がどんな顔を形作っているのかわからなかった。

ただ、胸の中で暴れる何かを感じていた。

「ぁ、ぁりがとう…」

どうにかそれだけ絞り出すと、アロメルスは自分の胸に少年の顔を埋めさせるように抱きしめる。

少年は何も言わずにアロメルスの胸に顔を埋める。

しばらくして、アロメルスが口を開いた。

「……このまま…添い寝してあげる」

「うん………」

少年はアロメルスの胸の中で静かに目を閉じる。アロメルスもまた同じように目を閉じた。

二人は寄り添いながら眠りについた。

アロメルスの胸の中には、確かな熱があった。




「……おはよう。そっか、もう…」

「おはよう。そう、もう一人じゃない。これからは私がいる。…よく眠れた?」

「うん、元気いっぱい。ありがとう、アロメルス」

少年の返答にアロメルスは微笑むと若干視線を下げ、

「…元気いっぱい」

「っ!」

慌てて股間を隠す少年に、アロメルスはくすりと笑う。

そして、優しい声で告げた。

「ねえ…あなたは私に一目惚れしてくれたんでしょう?」

「ぇ、あ……う、はい」

「じゃあ…私ともっと、昨日よりもいろんなことがしたいって思う?」

少年は顔を赤くしながらアロメルスを見る。答えはもう言葉で聞く必要はなかった。

アロメルスは擦り寄るように身体を近づけていく。少年にぴたりと身体を密着させ、耳元で囁いた。

「今からしちゃおっか」

少年が恥ずかしそうにこくりと小さくのを見て、アロメルスは少年の太腿に自分の股を押し当てながら至近距離で言葉を流し込む。

「私の全部であなたを喜ばせてあげる。あなたの全部を私が受け入れてあげる」

アロメルスの言葉と感触に反応して紅潮した耳に赤い舌が這い寄り、熱っぽい吐息と共に舐め上げた。

少年の身体に、再び甘い痺れが走る。

朝の柔らかな陽光が差し込む部屋で大きなベッドが僅かに揺れる。

ふたりの一日はまだ始まったばかりだ。



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