梯子を外すペパーSS

梯子を外すペパーSS


一応閲覧注意(ぬるい描写、湿り気重力ペパー有り)

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ペパーお手製の特別ディナーは、今日もアオイの舌を大いに喜ばせた。腹も心も満ち足りるのは、隣に彼がいればこそである。

「やっぱりペパーの作ってくれるご飯が一番美味しいよ!最高!天才!秘伝の料理人〜!!」

「そんなに美味そうに食ってくれて、作った甲斐があるってもんだ。デザートちゃんもあるからな。お腹いっぱい、たっぷり召し上がれだぜ!」

「やったー!ありがとペパー!!」

ペパーはわたしが食べる様子をとても楽しげに見つめてくる。あんまりじぃっと見つめられると流石に恥ずかしい……特に今日は先程のこともあるので。

それにしても、まさかパルデアには『告白』の文化が無いなんて思っても見なかった。そんなこと、アカデミーじゃ教えてくれなかったし!なんてつい八つ当たりもしたくなる。

生まれも育ちもパルデアのペパーからすればとっくの昔にわたしは恋人って認識だったらしいのに、急にお見合いするなんて言い出したらそりゃあびっくりするし不安にもなるよね……。知らなかったとはいえ申し訳ないことしちゃったな。

お互いのすれ違いをなんとか擦り合わせられて本当に良かった。ネモとボタンには、わたしからもお礼を言わなくっちゃ。

「なんだかごめんね?わたしがこっちの風習知らなかったばっかりに……」

「アオイはなんにも悪くないちゃんだろ?それならオマエの気持ちを確認せずに先走ってたオレもダメだったんだって。セイジせんせの講義じゃねえけど、ちゃんと口に出して伝えるのって大事だなって、改めて思ったしな」

気にすることはないとワシワシ頭を撫でられる。豪快なようでいて髪が乱れない絶妙な力加減だ。


……にしても、ペパーがわたしに向ける視線はこんなにも甘かっただろうか?それに今日の彼はなんだか普段より距離感が近い気がする。なんというか、スキンシップが多いのだ。

今もわたしの隣に座っているのだが、肩が触れそうなほどに近い。そのことにドキドキしているわたしがいる。

食事中はずっと手を握られていたし、今はぴったりとくっついて座られている。

「えっと、ちょっと近すぎないかな?」

「ん?普段とそんなに変わらないだろ?手を繋ぐのも、くっついてるのも。むしろいつもはアオイから寄ってくるじゃんかよ」

確かに今までは遠慮なしにペパーに抱きついたり、隣に陣取ったりしてきた。でも、ペパーと想いが通じ合ったとわかった途端になんだかすごく照れくさい。

「そ、そうだけど、なんだか、意識したら急に……うぅ~」

「つまり、オレのこと、男として見てくれるようになったってことだよな?」

頬杖をつきながらにやりと口の端を持ち上げたペパーの視線が、意味深な熱を帯びる。その眼差しが玄関先での空気を思い出させてわたしの胸をざわつかせる。

「……そういう意味で、見てなかったわけじゃないけど……。今まではペパーってわたしのこと女の子として好きなわけじゃないんだろうなー、って思ってたから平気だった……のかな?」

「………ふーん」

今までペパーは親友としてわたしに好意を持ってくれているのだと思っていた。

だから惨敗確定の告白なんて自分からはとてもできなくて、この関係が崩れてしまうくらいなら友達のままでいようとしていたわけで。

長らく保ってきた親友としての距離感と、恋人としての新たな距離感の違いに、まだどうしたって戸惑ってしまうのだ。

そのように自分なりに仮説を立ててみたのだけれど、あれ?なんだかちょっと不機嫌?


「ペパー……?わたし何か変なこと言っちゃった……?」

「いや……アオイはさ、友達になら誰とでもあれくらいベタベタしてもいいと思ってたのか?例えば、オレ以外のヤツともあんな風に抱き合ってたりしたのかよ」

「え?それは……ネモとかボタンとはするけど……」

大親友たちとじゃれあうことは何度もあったし、よほど嫌いな相手でもなかったらハグまではしなくとも、握手くらいなら普通にするんじゃないかな?

素直にそう伝えれば、ペパーはあからさまに眉をひそめた。

「オマエなぁ……アイツらはまあいいにしても、他のヤツに絶対すんじゃねぇぞ?マジで危なっかしいからな!」

「へ?あ、うん。分かった、しないよ」

わたしの返事にペパーはホントにか〜?と疑うように目を向ける。

「だってアオイは昔から男女関係なく人懐っこいし。警戒心が薄すぎちゃんつーか……。アカデミーの頃だって、なんにも気づいてなかったし……」

ぶつぶつと呟いているペパーの声は後半の方は聞き取れなかったが、その顔にはありありと不満の色が見え隠れしていた。


これは話題を変えた方がいいかも?虫の知らせめいたものを感じてそろりと立ち上がる。

「そ、そろそろデザートにしようかなぁ〜、冷蔵庫だったよね?」

キッチンまで一旦逃げようとしたわたしの腕をすかさずペパーの手が捕まえた。

「ちょ、ちょっとペパー!?」

「………なあ、オマエはオレ以外の『友達』の男を家に上げて二人きりになったりするのか?」

ギシ、とソファが軋む音がやけに大きく聞こえた。

ペパーの射抜くような視線と言葉が、背中越しに突き刺さっているのを感じる。

それはまるでくろいまなざし、逃がさないと言われているようで、心臓が激しく脈打つ。

覚悟を決めて振り返れば、そこには見たことのないペパーの顔があった。

「ぺ、ペパー……?」

ドンッ、と背にしていた壁に腕をつかれて、囲うようにして退路を塞がれてしまった。

昔よりずっと背の伸びたペパーの体は完全に照明からわたしを影にしてしまう。恐る恐る顔を上げても、逆光になっているせいでその表情はよく見えない。


「アオイ、頼むよ、答えてくれ。他の男はどうなんだ?家に入れるのか?ついていくのか?オレとするみたいに一緒に飯食って、笑って、ハグして……大好きだって、見合いの相手にもそう言うつもりだったのか?」

いつも快活に笑むミントグリーンの瞳は暗く翳って、わたしの知らない色をしていた。

わたしを見つめる視線には、抑えきれないほどの感情が深く渦を巻いていた。

思わず固まってしまったわたしの顎を掴むと、そのまま噛みつくように唇を重ねられる。突然の出来事に驚いて口を開けば、舌を差し込まれ絡め取られてしまう。

「んぁ……!?むぐ……んっ……ぺ、ぱぁ……んんっ」

呼吸ごと飲み込むようなキスの合間に、ペパーの熱い吐息が鼻先にかかる。

口内を探るぶ厚い舌の動きは乱暴なのに、時折優しく歯列をなぞられてゾクゾクとした感覚が身体中を巡る。

「……そんなの、駄目だろ。絶対駄目だ。ああ、ちゃんと言葉で伝えなきゃな。好きだぜアオイ、ずっと一緒だ、だから、離れないでくれ……」


顎を伝い、指先が首筋を撫で降りる。チャリ……と首にかけた細身のネックレスチェーンを辿って、その先にあるものを握り締められた。

わたしの胸元で揺れるのは、ペパーがくれたお揃いのリング。

その手つきがひどく切実なもののように感じられて、されるがままになっていたわたしはハッと我に返った。

「ペパー、わたしいなくなったりしないよ?ずっとペパーと一緒にいるから、ね?」

「……分かってる。アオイならそう言ってくれるってのは。心からそう思ってくれてんだよな、嬉しいよ。だからさ……今度こそ、ちゃんと失くさないように、手離さないようにしなくちゃだよな?」

ペパーの手にぐっと力がこもる。あっ、と声を立てる間もなく華奢な鎖はプツンと音を立てて切れた。

「指輪なんだからここに嵌めといてくれなきゃ困るぜ。オレがいるんだって他のヤツらにわかるようにさ」

落ちた指輪を拾い上げると、ペパーはわたしの左手薬指にそれを滑らせる。僅かな緩みも絞まりも無くぴたりと馴染むように納まったそれは、もうわたしの一部になってしまったかのようだった。

満足そうに目を細め、そのまま手の甲に、指に、手首に口づけを落とそうとするペパーに、慌ててストップをかける。この先に何が待っているのか、薄い知識でも予見はできてしまった。

「ま、待って!こんな急に……ちょっと、ペパー……!」

「待たない、急じゃない。ずっとこうしたかったし、今もしたい。待ってちゃまた誰かに掻っ攫われるかもしれねぇし」

手のひらにまで唇が触れ、湿り気を帯びたこそばゆさに「ひゃうっ!?」と間の抜けた声を抑えきれなかった。

大きな骨太の手が腰を掴んで引き寄せようとするのを必死に押しとどめるが、体格の違いもあり、力では到底敵わない。

触れられたところが熱くて、痺れて、ものすごく恥ずかしい。なんとか一度抜け出さなきゃ……!必死に知恵と言い訳を絞り出す。

「あ、ほら、わたしまだシャワー浴びてないし、それにご飯だってまだ途中だし……!」

「後でいい。風呂だって一緒に入ればいいし、飯もいくらでも食わせてやる。なぁ、逃げるなよアオイ……」

訴えは素気なく躱されて、耳元で囁かれる低い声に思考までもが麻痺していく。

長く垂らした前髪の隙間から覗く翠玉の瞳は熱を帯びながら獰猛に煌めいていて、心臓が大きく跳ね上がる。

つい先程まで少女漫画に夢をはせていたアオイに、どろりと重く絡め取られるような、甘い蜜の如き誘惑に抗う術などあるはずもなかった。

「ずっとずっと、いつまでも一緒だ。見合いだの他の男だの考える必要なんて少しも無いくらい、オレのことだけ考えさせてやるから。だからアオイも……もっとオレのことで頭いっぱいになってくれよ、な?」

「ひぇ……!?ぺ、ぺぱぁ…………!」


その夜アオイは思い知った。何故パルデアが情熱の国と呼ばれるのかを。

「……あっ、やだぁ!やめちゃヤだよぉ!!なるからっ、なるのっ、ペパーのお嫁さんにしてくらさいっ……!!」

「はは、アオイは本当に可愛いちゃんだな。それなら、ちゃーんとお見合いも断れるよな?」

「んぁっ……できるもん……お見合い、ちゃんとことわるからぁ……!ひゃ、あぁん……!!……えへへ、ぺぱぁ、すき、だいすきだよ……♡」

………ペパーによってクタクタとろとろになるまで甘々に溶かされ、バッチリしっかり言質をとられたアオイ。

翌日の昼過ぎにやっとの思いで母へ電話をかけることになるのであった。



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