梟楽ミズキ:オリジン

梟楽ミズキ:オリジン



力の目覚めは12歳。

学校の帰り道、道を塞いでいるカラスたちが鬱陶しかった。さっさと居なくならないだろうか。こう、爆発でも起きて、音に驚いて………。

そんな風に思った時、『ボン!』と爆ぜて、邪魔なカラスたちはアスファルトの赤いシミになった。


ただただ困惑と恐怖を感じた。このまま家族も学校の友達も吹き飛ばしてしまうんじゃないかと。ただ、病院に行って力の抑え方も教わって、次第にその恐怖も収まった。


親に勧められて、国立亜瑠華学園という所に入った。

そこで力の正しい使い方を教わった。異能を使える授業が一番好きだった。何か、常にどこか乾いていた場所が潤い満たされる感覚がするから。

今までずっと普通の学校に通っていたから、異能教育の面で同級生達に劣っていた。だから、追い付きたくてがむしゃらに異能の事を勉強して鍛えた。

『梟楽さんの異能はかなり強力な物ですから、使う際には極力周りへ被害を出さないように気を付けてくださいね』

僕の異能が育てば育つほど、そうやって口を酸っぱくして言われるようになった。耳に胼胝ができるほど、同じような注意をされ続けた。

どれだけ力を育てようと、皆に追い付いて、何人追い越そうと、賞賛よりもまずは釘を刺された。それが気に食わなくって、やっぱりまた鍛え続けた。

強くなれば認められると、本気でそう思っていたから。


いくら力を鍛えても、使えるのはそのうちのほんの少しだけ。いくら異能が伸びようともそれは変わらず、次第に我慢が辛くなっていった。

僕の中に溜まり続ける、積もり続ける、衝動。欲求。

この力を使いたい…何かを爆破したいと。

承認欲求?自己顕示欲?違う。もっと奥深くの、魂に根差す強い欲求。

腹が減ったら飯を食う、眠くなれば睡眠する。それに限りなく近い、理性なんてものじゃ抑えきれない根源的欲求。


【押し込め続けて、閉じ込め続けて、封じ込め続けて、ついに、蓋で強引に収めただけの衝動は杯を割った】


飢餓が限界に達すれば、人間は"食える"と判断したなら人間でさえも喰らう。眠気が限界に達すれば、人間は立ったままだろうと、どれだけ凍てつくような寒さの中だろうと寝られる。僕は、そんな風に壊した。


4人が再起不能レベルの重体、6人が後遺症を負う程の重傷、その他13人にも重軽傷。死人が出なかったのが不幸中の幸い…この程度の被害に収まったのが正に奇跡のような事件だった。


その事件の最中、我を忘れた訳じゃない。


悲鳴も命乞いも怒号も耳に届いた。それはいつまでも頭蓋の中を反響していた。

人の血肉が飛び散る様を見た。それはコマ送りのように脳裏に深く焼き付いた。

濃い鉄の匂いを嗅いだ。それは呼吸の度に肺と鼻腔を満たした。

そんな中で、心から清々しく、どこまでも晴れやかな気分で暴れまわった。


全てが終わって、気づけば拘束されて狭い部屋にいた。胸の中に、罪悪感など一片も無く、心からの謝罪が僕の口から出る事は終ぞ無かった。僕は悪魔か何か、そういう物に近しい存在になったんだと思う。


いつぞやに覚えたあの恐怖を思い出す。ある日の帰路、じっとり蒸し暑い午後の事。陽炎を立ち昇らせるアスファルトに沁みた鮮血と舞い散る焼け焦げた黒い羽根。

僕は三度繰り返すのか?あぁ、きっとそうなんだろう。きっとまた、僕は我慢を強いられる。この事があって、以前にも増して力が使えなくなる。


そもそもながら僕はなぜ、あんなに力を使う欲求を押さえつけて来たんだ?いつか欲求を制御できなくなる危機感は有ったはずだ、ずっと前から…なぜ……なぜ………?


『梟楽さんの異能は強力ですから、周りへの被害を————』

『かなり攻撃性の高い異能ですね。使用する際には細心の注意を払い、周囲に危害を及ぼさないように————』

『"異能を抑える"技術を磨きましょう。一般人を巻き込んで怪我をさせては————』

『お前の異能ってなんか危ねぇよな。こう、犯罪者とかエネミー以外も巻き込みそうってか…建物とかぶっ壊すなよ~?』


ずっと言われ続けて来た。周りへの被害だの、一般児への危害だの、なんでそんな奴らに気を使ってるんだ………?戦えもしない……雑魚なんかに……。

そんな奴らを守る練習のために僕はあんなことをする羽目になったのか?そもそも、無能力者なんて雑魚が居なければ僕は……………。


「………………………………………カラスみたいなもんか………」


雑魚の癖に……一丁前に僕を縛る。枷を嵌める。道を塞ぐ。

そんな奴ら………吹き飛ばして………自由に生きれる世界になれば………。


【割れた杯。そこに注がれた、自身の異能への恐怖と誰へ向けた訳でもない漠然とした怒りは、己を正当化させるためのねじ曲がった理論を通して、世に満ち溢れる罪なき民衆を睨んだ】



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