桃の香り、出会いの季節

桃の香り、出会いの季節


※エフ+タイ幻覚娘化 

※2人ともデビュー前の設定





学園のエントランスを通りかかると、何やら数人の生徒が立ち止まっているのが気になった。チラ、と目的の場所を見やると、7段の大きな雛人形が飾られている。


「わぁ!かわいいね」


隣にいたタイちゃんが嬉しそうにスマホを取り出して写真を撮る。実家のお雛様は五人囃子までしかいなかったから、こんなに大きな雛壇、初めて見た。


もう3月かあ。来月にはもうクラシックレースが始まる。何処となく学園にも緊張感が漂っていた。私とタイちゃんはまだデビューをしていないけど、数週間後には大事な選抜レースが控えている。

私も、いつかトレーナーがついて、レースに勝って、夢の日本ダービーに…と想像する。しかし現実は、ダービーに出ることはおろかレースに勝ち上がるのだって、一握りの世界だ。出来すぎた夢を思い描いてしまった自分自身に、少しだけ苦笑する。


今日はこれから自主練だ。グラウンドの使用の予約は取ってあるけど、大事なレースに向けた大詰めということで、沢山の生徒が練習しに来るだろう。そろそろ行こうか、とタイちゃんに声をかけようとしたところ、彼女は未だにお雛様を真剣な眼差しで見つめていた。


「エフ、もうすぐ選抜レースだね。お互い、いい人に声をかけてもらえるように頑張ろう」


どうやらタイちゃんも同じことを考えていたようだ。

選抜レース、ここで力を見せなければデビューすることだって叶わない。何としてでも結果を出さなければ。


お内裏様に、まだ見ぬトレーナーの姿を重ねながら、(いい結果を残せますように)と雛壇の前で手を合わせてお祈りをした。

突然雛人形に願掛けを始めるという奇行に躍り出た私に、タイちゃんは一瞬ギョッとしていたが、私の気持ちをすぐさま汲んだのか、彼女も同じように手を合わせたのだった。



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