染めても白

染めても白



現世というか空座町に来る死神のサポートやらなんやらをする特殊所属隊員とかなんとかで十三番隊の端っこに席を置くことになったアタシは、ルキアちゃんのガッツポーズを見たりした後に京楽さんに書類を出しに行く事になった。

見えざる帝国とかいうあれのなんやかんやから多少は立ち直った今でも本当に猫の手でも借りれるもんなら借りたい状況らしく、アタシはリサ姉のとこで副隊長をすることも選択肢に入れられていたけど普通に荷が重いし引っ越したくないのでそれは断った。


総隊長になった京楽さんは片目を眼帯で覆っている。一回「それって治さないんですか?」と聞いたら「治してないと思う?」と聞き返されたのでそれ以降は触れていない。

相変わらずなんとなく胡散臭いけど、相変わらずに見えるところがすごいし長生きしてきただけあるんだろうなと最近は思っている。


「うん、大丈夫。ご苦労様」

「こっちの事情でちょっとばかり遅くなってすいません」

「いいよいいよ、こっちに関わりたくないって人もいるしね。手伝ってくれるだけで頭があがらないな」

「……簡単に頭下げれる人の方が恐ろしいから注意せェって母が言うてましたけど」

「はは、ガードが固いねぇ」


 母どころか育ててくれた皆から山ほど口酸っぱく色々と言われているアタシは、それなりに警戒するべきところはできるように育ったらしい。

信頼している相手になると途端にゆるゆるになるとはよく言われるが、そこら辺は可愛げとかそういうもんだと思ってほしい。

  そんなことよりアタシとしては母こそガードが固くあって欲しいものだが、今の母でないとアタシは生まれてきていないだろうから難しい話だ。


「そういえば、彼には会っていかないのかな?」

「別に今日は特別用事もないので、行くとしたらこっちでなんやするときにでも冷やかしにですかね」

「好きにしたらいいよ。ボクは顔を見せてあげなとも二度と会うなとも言わないから」

「でも顔見せに行ってもふーんって感じなんで普通にムカつきますけどね」


彼とは大層なことをやらかした罪人で、大仰な牢獄にぶちこまれている血の繋がったあの男のことである。

京楽さんの「なにも知らないより少し知れる方が辛いだろうし」と本当だか嘘だかわからない言葉で総隊長自ら同伴する場合のみ面会を許されているが、別に会いに行く理由もない。


京楽さんは一応母にもそれを許しているらしいが、母は特に会いに行くつもりはないらしかった。

一度だけ「俺がアイツの前で京楽さんとベロチューしたらアイツもビビると思うか?」とやるつもりもないことを聞かれたくらいしかそれに触れた会話もない。

実際にそんなことしたら大迷惑なんてものではないのでやめてあげてほしい。流石に両親の痴情のもつれになに一つ関係のない他人が巻き込まれるのはしのびなさすぎる。


「こんなに綺麗に育った娘に会えないなんてことになったら、ボクなら泣いちゃうけどな」

「アレが泣いたらキショくないですか」

「そんなこと言われても泣いちゃうなぁ」

「アタシにすげなくされたら泣く大人にはたくさん心当たりあるんで、アレが泣かんでも別にええと思いますけど」

「うーん……愛されて育ってるね」


直近でも大の大人を山ほど泣かせたので、あのよくわからん男の涙なんて間に合ってるし願い下げである。

せめて母と再開した時に涙を流して土下座でもしたならほんのちょっとだけサービスで父と呼んでやってもよかったけど、今泣かれても困るだけだ。

そもそもあの男は泣いたことなんてあるんだろうか、涙腺が付いているのかすら怪しいんじゃないかと疑ってしまう。


「ああ、そういえば雨竜が流石に予定表がないと困るって言うてました」

「確かにそうだね、来てくれるだけでいいとは言ったけどそっちも困っちゃうか」

「日にちを早めに決めてくれたんはありがたい言うてましたよ」

「お願いしてる身だしね」


現世の方は一段落ついたけれど、尸魂界の方はなんやかんやまだやらなければいけないことが残っているのだ。

雨竜には悪いと思うが、アタシがそういう大変に面倒な立場とか人間関係とかにあると知っていて選んでくれたので文句は言われない。


「こっちの都合で二回もやらせちゃってごめんね」

「なに言うてるんですか、今のアタシとしては一回目ですよ」


きょとんとした顔で京楽さんがアタシを見上げている。なにもかも分かっているみたいな飄々とした人にそんな顔をさせていると、なんだかいたずらが成功したみたいで愉快になった。

なんだか突拍子もないことをしてあの男の鼻っ柱を明かしてやりたくなった母の気持ちが少しだけ分かってしまう。


「なにせアタシは石田になったばっかなので」


その言葉に名字がもうちょっとで変わるからと遅らせてもらった書類とアタシを見比べて、京楽さんは納得がいったように笑った。

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