枝を矯めて花散らす。

枝を矯めて花散らす。


マルク・スナッフィーは今、猛烈に、最高に、最悪な気持ちで後悔していた。

おもに自身の隣で呑気にポップコーンを貪っている己の養い子のドン・ロレンツォのせいで。


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発端はなんだっただろうか?

あぁ、始まりは己の言葉だったな。

となんの生産性もなんの意味もない状況整理で現実逃避をする。やべ、雨降ってきた。洗濯物中に入れたっけ?あの肉っていつが消費期限だっけ?

あれは?それは?目の前のモニターを見たくなくてつい意識を宙に投げ出してしまう。

モニターの中のまだ幼いロレンツォは小汚いおっさんにオーラルセックスをさせられてた。


***

「ねえロレンツォ。キミさぁ、なんでも受け入れるよね。」

と、夕飯を食べている時に特になにも考えずに聞いてみた。

目の前のロレンツォは俺の作ったミネストローネとかリクエストのカルボナーラとかデリバリーのピザとかをもぐもぐと忙しなく食べていて、誰も取らないのにとつい微笑ましくなってしまう。

「……?だぁ〜、何が言いてぇの?」

と、口の中のものを律儀に食べ切ってから話しかけてくれるのも成長したなあと感慨深くなってしまう。

‥…今だにポップコーンとかお菓子はボロボロ落としてしまうけどそれも成長だと思う。

「ほら、なんでも食べるし。」

「俺なんでも食うよ?スナッフィーの懐OK?」

「よく言う、そこまで寂しい財布事情はしてねえよ。」

と、小気味のいい会話で思わず頬が緩む。

「俺についてくるし。」

「だぁ〜、スナッフィーはクレイジーなオトナだからなぁ!!!俺はそれに見初められた運のいい捨て犬ってワケ。」

「クレイジーって何さ………。されて嫌なこととかってある?」

酔いが回って、つい聞いてしまった。

ずっと思ってたことを。

「ん〜…………。あっ!じゃあこの後リビングで動画鑑賞しようぜOK?

俺は映像探してるからスナッフィーはポップコーン作ってきて?」

露骨に逸らしたなコイツ………というかまだ食えるのかよ成長期め。

と、拾った頃から30センチ以上成長した俺より高いところにある顔を見ながら思う。

酒が進む。いつか一緒に酒飲みてぇな。


**

なーんて事を思いながらキャラメルポップコーンをカップに詰めると、リビングでその例の動画を探していたロレンツォはもう準備ができていたようで。

「だぁ〜、結構あっさり見つかったぜ。

数ワードを変えたらすぐ!俺サッカーできなくなったらハッカーとかしちゃうカモ?」

「はは、悪いことはやめなよ〜。というか何見んの?」

純粋にさっきから気になっていた事を聞いてみた。

「ん〜、ポルノ?」

は?唖然として落としそうになったポップコーンの容器をキャッチしたロレンツォから目が離せない。

いやまあそういう年頃なのは分かるけど……?

一応俺保護責任者だよな?普通親と見る???

「さあさあ、座ってスナッフィー!」

と急かされるまま座ってしまう。

「あぁ!これ、俺のだよ。」

そうしてスタートのカーソルをクリックすると映し出されたのは何処かの、いや。フィレンツェの裏路地だった。

そこで知らない少年が、いや誰よりも知ってるロレンツォが、陵辱されていて。

内容はまあ。有り体に言えば陵辱違法ポルノビデオだった。

鉄パイプを突っ込まれる。悲鳴を上げる。

きたない肉棒を突っ込まれる。吐く。

謎のクスリを打たれる。泣き叫ぶ。

拙い語彙力で許しを乞う。

碌に肉のついてない痩せぎすな体を膝の上に乗せてレイプする。注視しなくても腹のところが盛り上がってるのが分かる。

そんな内容。そんな、内容。

隣のロレンツォを見てもずっとヘラヘラと笑ってばかりで。急にこの子が恐ろしく思えた。

お誂え向きに外も豪雨で、これがホラーな夢なら覚めてほしいって何度も考えた。

いや。でも。リアルな声。表情。状況。

ロレンツォでこんなグロテスクな妄想なんてしたくないから現実でもあって欲しい。

このクソビデオはどうやら後半に差し掛かったようで。

グラグラの手ブレだらけのカメラアングルが少年の顔を映す。

最初は泣き叫んで、嫌がって、ごめんなさいと叫んでたコドモの顔が、クスリのせいか。それとも調教のせいかで蕩けていて。

泣いたせいで赤く腫れてる瞼や殴られた頬のあざなんてなんとも無いようにヘラリと笑って、媚びた娼婦のオンナのような顔をしていて。

そこまで見て、耐えきれなくて止めるボタンを押した。

「……ロレンツォ、このビデオを見せたのは。どういう意図?」

つい、吐き出すようなか細い声になってしまった。

「だぁ〜、……アッ。そういうことか。スナッフィーごめんなぁ。そこまで気が回らなかったよ。

これが掘り起こされたらスキャンダルになるだろ?!って言いたいんだろ?俺、いちおう11傑として有名みたいだし?」

的外れな事を言われて絶句した。

そんなことを聞きたかったわけじゃなくて。

「大丈夫だよスナッフィー、誰もこのゴミみたいなスラムのガキと俺が同じ人間だなんて思わねえよ。」

と、雰囲気作りの為にと部屋を暗くした故に大型テレビの光に照らされたロレンツォの無邪気な笑顔に、さっき食べたマルゲリータやら全部吐き出しそうになった。

頭がガンガンする。グラグラする。理解できない。

「それにさぁスナッフィー」

目の前のロレンツォの表情が、ビデオの中の婀娜っぽい媚びた表情とダブって、

「俺、スナッフィーに“されて嫌なこと”なんて、一個もないよ。OK?」

耐えきれなくてトイレに駆け込んだ。

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