朝食
・手がクルマサカオウム化した🥗ドフラミンゴのお話
・若干ヴェルドフなのかも
・少なからずヴェルゴとドフラミンゴしか出てこない
慎重に腕を袖に通したところでノックの音が響き、ドフラミンゴは返事と共に片手を振る。
ぎぃっと鈍い音を立てて開かれた扉の先には、いつも通り顔に朝食をつけたヴェルゴが立っていた。
「ドフィ、おれが開けるから無理をしなくていいといつも言っているはずだが」
「無理なんてしてないわ。ほら、折れてないでしょ」
顔を顰めるヴェルゴに片腕を持ち上げてみせるドフラミンゴは、ヴェルゴの脇を通り過ぎて廊下へ出る。
「ドフィ」
「フッフッフッ、相変わらず心配性ね」
咎めるようなヴェルゴの声に肩を竦め、そのまま歩き出そうとしたドフラミンゴはくるりと振り返る。
掴んだだけでも折れてしまうほど脆いドフラミンゴの体は、当然曲がり角で人とぶつかればあちこちの骨が砕けてしまう。それを危惧して最高幹部たちはドフラミンゴの前を歩くように心がけていた。
イトで自身の体を操れ、痛覚もなくなったドフラミンゴからすれば過保護と感じられるが、無理にやめさせるほどのことではないと放置して今に至る。
「朝食はトーストね」
「よくわかったな」
「顔についてるのよ」
前を歩くヴェルゴの背中に言葉を投げかけるドフラミンゴは小さく笑い、自身の両手に目を落とす。
お気に入りのコートよりも少し濃い色の羽はフォークすら持てず、食事の全てを最高幹部たちに任せざるを得ない。
食べながら食べさせることと、わざわざ時間をずらすことはどちらが大変か、とドフラミンゴは最高幹部たちに確認を取り、今では毎食の時間をずらすことになっていた。
「まずはスープからにしよう」
「ん」
特に食事の順番にこだわりのないドフラミンゴは、最初からデザートを食べさせようとしてきたり、明らかに一口で食べられない量の時は苦言を呈することもあるが、基本的には最高幹部たちが口へ運んできた物を素直に食べる。
最初の頃はお互いに慣れず零すことが多かったが、今では何の問題もなく食事を続けられていた。
「ヴェルゴ、トーストなら持てるわよ」
「そう言って以前羽にジャムをつけて洗っていたら骨折しただろう。またトレーボルに怒られるぞ」
基本的に要望は応えてくれる最高幹部たちは、食事に関しては頑固だ。そう思いながらも溜息は飲み込み、ドフラミンゴは差し出されたジャムが塗られたトーストに視線を落とし、口を開く。
ドフラミンゴ自身の手で食事をとらせようとしないことも、固い食事が出ないのも、脆くなってしまった体のせいだろう。それはわかっていながらも、ドフラミンゴは両手を羽に変えたことを悔いたことはなかった。
人間の手では直接扱えるイトの数は指の本数分だが、羽ならばそれより遥かに多くのイトを同時に扱える。それだけで体の脆さなど許容できてしまえることだ。
そう考えるドフラミンゴは、最高幹部たちの物言いたげな眼差しにも、自身の感情が失われつつあることにも、まだ気付いていなかった。